そいつでぶん殴れ
「ひ、ひいっ」
たった一人残ったことを知って、腰を抜かす男。
後ずさり、その方向にいるサンタクララと目が合い、男は中途半端な位置でどうしようもなくなり、ガウとサンタクララの顔を交互に見た。
「ん? もうこれで終わり? サンタクララ」
「ああ。見た通りだ」
ガウとサンタクララは、座り込んだ男の前後に立って見下ろす。
「こ、この、お、お前ら……」
切れ切れの声。
張ろうとしている虚勢が全く形になっていかない。
背後ではウードが不安そうな表情。
「ウード、大丈夫よ。これで最後だから」
ガウが男から目線を切り、ウードに笑いかけた時。
「う、うわあああああっ」
どこにそんな気力が残っていたのか、やおら立ち上がった男はウードに襲いかかった。
不意を付かれ、ガウ、反応できず。
「しまっ……!」
黒刀を振りかぶるがモーションが長く、振り下ろすまでの時間で男はウードとの距離を詰めてしまう。
「こ、このっ!」
サンタクララも一拍遅れた。
伸ばした彼の手が空を切る。
男、哄笑を上げながら懐から取り出した短剣をウードに振り上げた。
「ウードっ!」
「少年! 小型盾だ!」
二人の叫びが同時に響き、男の短剣がウードの胸に突き出される。
――小型盾だ!
サンタクララの声でウードは盾を構えた。
がちん、という無骨な音が鳴り、短剣の軌道、ウードの右手に逸れて。
『いざとなったらそいつでぶん殴れ』
いつか聞いたその声に操られるように、ウードは構えた盾をよろめく男の顔に振り下ろした。
「ぐああっ」
当てどころが良かったのか、男は真っ直ぐに地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。
――や、やった?
「ああっ」
「少年、後ろだ!」
だが、入口から現れた大男が、そんなウードの首に手を回し真後ろから持ち上げた。
――く、苦しいっ。
ウードは持ち上げられた足をばたばたさせてもがく。
「な、何? 全滅だとっ」
大男は室内の状況を確認し驚愕する。
「あんた、ウードを離しなさい!」
「大丈夫か! 少年」
駆け寄る二人。
見下ろす大男の間合いの手前、サンタクララ、ガウは止まる。迂闊に踏み込めなかった。
――気を付けろ、そこら辺に転がってる連中とは違うぞ。
――ええ、分かってるわ。
アイコンタクトでガウ、サンタクララ。
「さあ、こいつと、後ろの少女、引き換えと行こうじゃないか、えぇ?」
にやりとする大男。
じりじりと後ずさり、塔から外へ出るようだ。
――逃げようって言うのか?
――くっ!
二人はレンカを連れ、大男の後を追って塔外へ。
そこで待っていたのは。
何十人、いや百人は超えている――雲霞のごとき私兵の群れだった。




