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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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そいつでぶん殴れ

 「ひ、ひいっ」

 たった一人残ったことを知って、腰を抜かす男。

 後ずさり、その方向にいるサンタクララと目が合い、男は中途半端な位置でどうしようもなくなり、ガウとサンタクララの顔を交互に見た。


 「ん? もうこれで終わり? サンタクララ」

 「ああ。見た通りだ」

 ガウとサンタクララは、座り込んだ男の前後に立って見下ろす。



 「こ、この、お、お前ら……」

 切れ切れの声。



 張ろうとしている虚勢(きょせい)が全く形になっていかない。



 背後ではウードが不安そうな表情。

 「ウード、大丈夫よ。これで最後だから」



 ガウが男から目線を切り、ウードに笑いかけた時。




 「う、うわあああああっ」




 どこにそんな気力が残っていたのか、やおら立ち上がった男はウードに襲いかかった。

 不意を付かれ、ガウ、反応できず。



 「しまっ……!」

 黒刀を振りかぶるがモーションが長く、振り下ろすまでの時間で男はウードとの距離を詰めてしまう。



 「こ、このっ!」

 サンタクララも一拍遅れた。



 伸ばした彼の手が(くう)を切る。



 男、哄笑(こうしょう)を上げながら(ふところ)から取り出した短剣(ダガー)をウードに振り上げた。


 「ウードっ!」

 「少年! 小型盾(バックラー)だ!」

 二人の叫びが同時に響き、男の短剣がウードの胸に突き出される。








 ――小型盾だ!

 サンタクララの声でウードは盾を構えた。

 がちん、という無骨な音が鳴り、短剣の軌道、ウードの右手に逸れて。



 『いざとなったらそいつでぶん殴れ』

 いつか聞いたその声に操られるように、ウードは構えた盾をよろめく男の顔に振り下ろした。



 「ぐああっ」

 当てどころが良かったのか、男は真っ直ぐに地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。



 ――や、やった?




 「ああっ」

 「少年、後ろだ!」

 だが、入口から現れた大男が、そんなウードの首に手を回し真後ろから持ち上げた。









 ――く、苦しいっ。

 ウードは持ち上げられた足をばたばたさせてもがく。



 「な、何? 全滅だとっ」

 大男は室内の状況を確認し驚愕する。



 「あんた、ウードを離しなさい!」

 「大丈夫か! 少年」

 駆け寄る二人。



 見下ろす大男の間合いの手前、サンタクララ、ガウは止まる。迂闊(うかつ)に踏み込めなかった。



 ――気を付けろ、そこら辺に転がってる連中とは違うぞ。

 ――ええ、分かってるわ。



 アイコンタクトでガウ、サンタクララ。

 「さあ、こいつと、後ろの少女、引き換えと行こうじゃないか、えぇ?」

 にやりとする大男。



 じりじりと後ずさり、塔から外へ出るようだ。

 ――逃げようって言うのか?

 ――くっ!



 二人はレンカを連れ、大男の後を追って塔外(とうがい)へ。

 そこで待っていたのは。

 何十人、いや百人は超えている――雲霞(うんか)のごとき私兵の群れだった。

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