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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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騒乱――圧倒

 「ガウ、行こう!」

 暗がりから突然、ウードが立ち上がる。


 驚くガウだが、やがてその(わけ)に気付く。

 見張っていた塔の入口、男達が一斉に塔の中へ入っていく。

 「何かあったんだよ、きっと!」

 ウード、ガウは彼らの後を追って、塔の内部へ向かう。














 「多分だが!」

 三階から二階への下り階段。サンタクララとレンカは走っている。

 「俺達は階下(した)で、敵に待ち伏せされている!」

 「な、何でっ」

 「アミナが、そこのところを抜かる奴だとは思えない! 通信手段くらい――」



 二階から一階へ。

 そこは何もない広い空間――『血染めの掌』があった塔にも各階に礼拝堂が(しつ)えられていたが、それと同じような空間。高い天井、祭壇、色の付いた背の高い硝子(ガラス)窓――荘厳(そうごん)な空気の中。

 レンカ、サンタクララの前に、十五人の男達が立ち塞がる。









 「その娘を追いていってもらおう!」

 対峙する二組。間合いはまだ遠く、互いの声がぎりぎり聞こえる程度。

 「はー。全く……」



 サンタクララは背嚢(バックパック)から揚々たる登攀者クライマーズ・クラウドナインを取り出し、壁を(のぼ)った時とは違い、六本指の、今度は親指側を(・・・・)余らせ(・・・)、手にはめた。




 「サンタクララさん、それは?」

 「ん? これはね、殴りっこに強くなる手袋。さあ、下がってな」

 下がるレンカ。

 サンタクララ、拳、握って。




 すると、六本目の指が生命を吹き込まれたように親指と同じ形になった。

 同時に、重い玉のようなものを手の中で握っている感覚が生じる。クラウドナインは親指側を余らせて六本にした場合、拳を重くすることが出来る。




 「何やってんだてめぇ!」

 ()れた男が一人、どたどたと間合いを詰めてサンタクララに襲い掛かって来た。手持ちの剣を振り上げて切りかかる。



 ――おいおい。まるでなってないな。

 振り下ろされた剣を難なくかわすサンタクララ。効率良く足を捌いたおかげで男に対してカウンターの体勢になる。


 ――いいね。

 サンタクララはバランスを崩した男の顔面に、タイミング良く拳を繰り出した。


 男の顔が――()ぜた。

 ようにレンカには見えた。


 パンチ力とは、つまるところ拳の重さによって決まる。

 石を握り込んだりすれば拳は重くなり、畢竟(ひっきょう)パンチ力も上がる。



 だが、拳を重くすることに加えて、握る親指が一本(・・・・・)増えた場合は(・・・・・・)どうなるか(・・・・・)


 男は、それほど強く殴られたようには見えなかった。

 「ああああああああっ」

 だが叫びながら遠く、男は間合いの外へ吹き飛び、外壁に激突、身体をめり込ませた。


 残りの男達、息を呑んでサンタクララと壁にめり込んだ男を交互に見る。


 ――相変わらず、筋力は自前だが。

 構え直すサンタクララ。


 握った拳、ぎりぎりぎりっ、と胸苦(むなぐる)しいまでの(きし)みが鳴る。


 通常では考えられないほどの力で握り込まれた拳。

 手袋によって増やされた親指が、サンタクララの拳力(けんりょく)を何倍にも高めていた。


 「よし。次の奴はどいつだ」

 「お、おのれっ」

 今度は三人、同時に斬りかかる。だが、彼らが振り上げた剣はそれ以上どこにも行けなかった。

 刃がサンタクララに届く前に、全員殴り飛ばされ遠くの壁にめり込む。

 「な、何だ、あいつはっ」

 「いくら何でもでたらめだろっ」

 男達はあたふたする。

 夜の光がステンドグラスを通して、そんな様子を無情に照らす。


 「ええい何をしてる! 全員で押し包めっ」

 四人、いや、五人。一斉にサンタクララに飛びかかる。

 ――お前ら程度が何人来ようが。

 短くため息を付くサンタクララ。

 先頭の男、二番目の男――軽快なワン・ツーで左右に飛ばされる。


 三、四、五人。

 サンタクララの超人的な足捌きも相俟(あいま)って、一人は真下の地面に埋まり、一人はアッパーカットで天井へ。最後の一人は岩のように重い正拳突きで音もなく膝を折り、その場で折り重なるように(うずくま)った。


 「お前ら、ぜんっぜん足りてないな、練度が」

 サンタクララ、息を全く乱すことなく、残りの男、今や六人。

 たじろぐ男達。

 「さあ、観念して――ん?」


 「わわっ、な、何だ――お前らっ」

 突如、男達の叫び声。


 何者かが背後から現れたようだった。

 しゅっ、という音が聞こえたかと思うと、男が一人高く打ち上げられ、天井に首までめり込ませて身体だけだらんと垂れ下がる。

 続けて二人、三人、四人――五人。



 全員、まるで棒きれのように水平に飛んで行き、何人かはサンタクララの顔をかすめ順次(じゅんじ)反対側の壁に激突していった。



 「あれ? ねえ! 何か少なくない?」

 黒刀を肩に(かつ)いだガウが、遠くのサンタクララに声をかけた。

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