騒乱――圧倒
「ガウ、行こう!」
暗がりから突然、ウードが立ち上がる。
驚くガウだが、やがてその訳に気付く。
見張っていた塔の入口、男達が一斉に塔の中へ入っていく。
「何かあったんだよ、きっと!」
ウード、ガウは彼らの後を追って、塔の内部へ向かう。
「多分だが!」
三階から二階への下り階段。サンタクララとレンカは走っている。
「俺達は階下で、敵に待ち伏せされている!」
「な、何でっ」
「アミナが、そこのところを抜かる奴だとは思えない! 通信手段くらい――」
二階から一階へ。
そこは何もない広い空間――『血染めの掌』があった塔にも各階に礼拝堂が設えられていたが、それと同じような空間。高い天井、祭壇、色の付いた背の高い硝子窓――荘厳な空気の中。
レンカ、サンタクララの前に、十五人の男達が立ち塞がる。
「その娘を追いていってもらおう!」
対峙する二組。間合いはまだ遠く、互いの声がぎりぎり聞こえる程度。
「はー。全く……」
サンタクララは背嚢から揚々たる登攀者を取り出し、壁を上った時とは違い、六本指の、今度は親指側を余らせ、手にはめた。
「サンタクララさん、それは?」
「ん? これはね、殴りっこに強くなる手袋。さあ、下がってな」
下がるレンカ。
サンタクララ、拳、握って。
すると、六本目の指が生命を吹き込まれたように親指と同じ形になった。
同時に、重い玉のようなものを手の中で握っている感覚が生じる。クラウドナインは親指側を余らせて六本にした場合、拳を重くすることが出来る。
「何やってんだてめぇ!」
焦れた男が一人、どたどたと間合いを詰めてサンタクララに襲い掛かって来た。手持ちの剣を振り上げて切りかかる。
――おいおい。まるでなってないな。
振り下ろされた剣を難なくかわすサンタクララ。効率良く足を捌いたおかげで男に対してカウンターの体勢になる。
――いいね。
サンタクララはバランスを崩した男の顔面に、タイミング良く拳を繰り出した。
男の顔が――爆ぜた。
ようにレンカには見えた。
パンチ力とは、つまるところ拳の重さによって決まる。
石を握り込んだりすれば拳は重くなり、畢竟パンチ力も上がる。
だが、拳を重くすることに加えて、握る親指が一本増えた場合はどうなるか?
男は、それほど強く殴られたようには見えなかった。
「ああああああああっ」
だが叫びながら遠く、男は間合いの外へ吹き飛び、外壁に激突、身体をめり込ませた。
残りの男達、息を呑んでサンタクララと壁にめり込んだ男を交互に見る。
――相変わらず、筋力は自前だが。
構え直すサンタクララ。
握った拳、ぎりぎりぎりっ、と胸苦しいまでの軋みが鳴る。
通常では考えられないほどの力で握り込まれた拳。
手袋によって増やされた親指が、サンタクララの拳力を何倍にも高めていた。
「よし。次の奴はどいつだ」
「お、おのれっ」
今度は三人、同時に斬りかかる。だが、彼らが振り上げた剣はそれ以上どこにも行けなかった。
刃がサンタクララに届く前に、全員殴り飛ばされ遠くの壁にめり込む。
「な、何だ、あいつはっ」
「いくら何でもでたらめだろっ」
男達はあたふたする。
夜の光がステンドグラスを通して、そんな様子を無情に照らす。
「ええい何をしてる! 全員で押し包めっ」
四人、いや、五人。一斉にサンタクララに飛びかかる。
――お前ら程度が何人来ようが。
短くため息を付くサンタクララ。
先頭の男、二番目の男――軽快なワン・ツーで左右に飛ばされる。
三、四、五人。
サンタクララの超人的な足捌きも相俟って、一人は真下の地面に埋まり、一人はアッパーカットで天井へ。最後の一人は岩のように重い正拳突きで音もなく膝を折り、その場で折り重なるように蹲った。
「お前ら、ぜんっぜん足りてないな、練度が」
サンタクララ、息を全く乱すことなく、残りの男、今や六人。
たじろぐ男達。
「さあ、観念して――ん?」
「わわっ、な、何だ――お前らっ」
突如、男達の叫び声。
何者かが背後から現れたようだった。
しゅっ、という音が聞こえたかと思うと、男が一人高く打ち上げられ、天井に首までめり込ませて身体だけだらんと垂れ下がる。
続けて二人、三人、四人――五人。
全員、まるで棒きれのように水平に飛んで行き、何人かはサンタクララの顔をかすめ順次反対側の壁に激突していった。
「あれ? ねえ! 何か少なくない?」
黒刀を肩に担いだガウが、遠くのサンタクララに声をかけた。




