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王子様を待っているキミへ  作者: 今野ひなた
46/50

46話

携帯の画面が不在着信があったことを俺に伝える。


一回、二回、三回。付いては消えるバックライトを眺めながらベッドに横になる。四回、五回、六回……


「うっせえ!!!!!」


二桁を越えたあたりで俺はスマートフォンをベッドに投げつけた。


「限度って言葉を知らねえのかアイツは……」


なんでこんなに鬼電がかかって来ているかなんて決まっている。今日も学校を休んだからだ。


朝起きると通学カバンがなかった。まぁ良くあることだ。こんな時のために俺は教科書のほとんどを学校に置いている。鞄の3つや4つなら痛くも痒くも無い。


いつもなら鞄だけ持つか手ぶらで学校に行っただろう。


勉強についていけなくなるのは嫌だし、何より家よりも学校の方が何倍も落ち着く。それでも今日行かなかったのは、数日前みたいに顔の腫れが引かなかったからでも風邪をひいたからでもない。


朝起きると、家の鍵がなくなっていた。

ウチのマンションはオートロックだ。


エントランスから入るのにも鍵が必要で、失くしてしまえば家からは出れても帰ることは出来ない。


スペアはいつもの場所になく、父さんがどこかへ隠したのだと嫌でも察することができた。


つまりはアレだ。学校行くなら帰ってくるな、と。


父さんにも世間体やプライドがある。退学させられる事はないだろうが、この調子だと文化祭は行けない可能性が高いだろう。


彼が出来ると言ったから、なんだか出来る気がしていた。


でも変わったのは俺だけで、父さんは何も変わっていない。だったら話が通じるわけがなかった。


俺はまた父さんを傷つけただけなんだろうか。


「あーあ、王子ぃ、俺失敗しちゃったよ」


王子なら、いつも俺を救ってくれる王子ならどう答えてくれるだろうか?君のお父さんは、と怒ってくれる?それともやれただけ成長した、と褒めてくれる?なんだか無性に王子に会いたかった。


「電話……、流石に今授業かな」


時計の針は十一時を指している。普通なら椅子に座って授業を受けている時間だ。最も不良学生の王子にはそんな常識関係ないのかもしれない。


「王子なら出てくれるかなー……、でも迷惑かもなー……」


でもきっと彼なら迷惑なんて言わない。俺の話を聞いてくれてそれから一緒にどうすればいいか考えてくれる。


俺は意を決して電話帳から王子の番号を呼び出した。数コール後、直接聞くよりも高い声が耳元に響いた。


「もしもし?」

「王子~~!」


その声を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が一気に緩む。親を見つけた迷子の子供みたいに心の奥からホッとした。


そんなものとは縁がないのだけど多分これが安心なんだと思う。


「はいはい、君の王子だよ。ところで何の用?」

「あのね、……あ、」


言いかけて口を噤んだ。この話をしたら王子は自分を責めるだろうか。自分のせいで、と。だったら言わない方がいい。


「結斗?」

「ごめん!なんでもない」


俺は明るい声を出せただろうか?俺の理想とは反対に少しの沈黙が続く。数秒がとても長く感じた。


「……結斗。秘密は無しだよ、その為に僕がいるんだから。ね?」


そうだ、そういう約束だった。だから王子には話せるのだ。「君には興味がないから」と。


無関心は時に救いになる。何故ならそこには娯楽としての消費は無く、またただひとつの哀れみもないからだ。


だからこの人の前ではピエロにならなくていい。


「あのね、鍵隠されて家に閉じ込められてる。このままじゃ文化祭に間に合わないかもしれない」

「それは、お父さんに?」

「じゃなきゃ鍵屋でも使ってどうにかしてる」

「使わないんだ」

「これは父さんのこれだけ怒ってるんだっていう意思表示だと思うから。だから強行突破で無視したくないんだ」


行動は言葉以上の意思表示になる。暴力しかり、反抗しかり。話すことができないなら行動で表せばいい。気づいたのは暴力が始まってすぐだ。おれは抵抗しないことが愛情の現れだと信じて疑わなかった。


「自分の危機だってわかってる?」

「だって無視されたら悲しい」

「……そっか、そうだったね。でも、この問題はどうにかしなきゃいけないよ。父親を優先して君がまた壊れたら元も子もないからね」

「そうだね、それにまだ諦めるつもりはないから」


八方塞がりの状況にため息をつく。文化祭には出たい。このまま時間が経つのを待つだけでは解決しないだろう。


「君のお父さんに説得は無理だ。鍵のスペアを探すしかない。家の中にあることを願うしかないね」

「あと三日で探せって?」

「時間はあるでしょ」

「腐るほどね」


父さんもわかりやすい場所に隠していないだろうし骨の折れる作業になるだろう。


でも、いつもみたいに許してもらうのを待つだけじゃ間に合わないのだ。


このだだっ広い部屋から小さな鍵を見つけるのには気が滅入るがやるしかない。


「僕も手伝おうか?」

「王子、また学校サボり~?」

「物事には優先順位があるでしょ?」


正直こんな作業、1人では気が滅入ってしまうから有難い。


俺は素直に「よろしく」と伝えて通話を切った。


タイムリミットは当日合わせて三日。


ここからは俺たちの反撃だ。

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