45話
父さんと会話らしい会話をした記憶がここ数年はない。
一緒に暮らしていた時期の方が別々に暮らしていた時期よりはるかに長いと言うのに挨拶と必要最低限の会話しかしたことがない。
だから俺は父さんのことをあまり知らないし(知っているのが王子様の話とかろうじて生年月日くらいだ)父さんも俺のことを知らない。
保護者として書類に名前を書くだけの形だけの親子関係だった。
そんな希薄な関係なのだから面と向かって真面目な話なんてしたことがない。きっとこれが人生で初めての直談判だ。
「あの……聖さん」
「……何の用だ」
「ええっと……」
話しかけるだけで緊張して体が固まる。
「お願いがあって、」
「金なら口座から引き出せ」
「違いますっ!……あの、これ」
来賓用のチケットを差し出す。父さんは見覚えのある文字列を見ると眉をひそめた。
「……なんだこれは」
「文化祭、部活で出し物があるんです。それで俺、王子様の役をやることになって」
「……観に来いと?僕に?」
「はい………ーーーいっ!」
衝撃。一瞬何をされたのかわからなかった。頭を掴まれていると気づいたのは壁に打ち付けられた後だ。
「お前はっ!どれだけ僕を侮辱すれば気がすむんだ!」
「ィ、っ」」
「僕から全部奪っておいてッ!」
意識が朦朧とする。痛いと言うよりは頭がうるさいと感じた。
「っあ!」
「いつもいつもお前は!」
そうしてしばらく耐えていると、ふと音が止んだ。
俺の髪の毛を掴んだまま父さんは俺を眺めている。
「……お前、学校辞めろ。もう学校行くな」
「…………」
「学生の本教は勉強だろう」
「お前のせいで欠番が出るな。まあでも、自業自得か」
自業自得、いやにその単語が頭に響いた。




