107話
雨の盗賊団は下水道の主である『穴掘り団』と呼ばれる男達と合流していた。
この穴掘り団、元は下水工事を行うために結成された一団だったが。
その技術を悪用してこうやって下水道に横穴を掘って居住。
下水工事が完了してから完全に住み着くようになり、自らの縄張りとしていた。
更に悪いことに盗賊団と手を組んで横穴を掘って盗みに加担する者も多く。
雨の盗賊団はその、一番の客である。
「へへへ、まいど」
金貨を数枚貰った小柄な男は、下水の闇に消えて行った。
「あれが、穴掘り団ですか?」
入ったばかりの新米が、そう呟く。
穴掘り団はああいう小柄で手先が器用な人間や、ドワーフなんかが中心になった集団。
中には戦争犯罪者や、殺人犯も含まれていると聞く。
要するに、懲罰部隊が前身にあるらしい。
「街の発展のために雇ったのが、まさか懲罰部隊とはな。
雇った人選を誤ったな、コンドアの行政は」
そう言いながら、横穴を覗くサブリーダー。
リーダーは別口で侵入する手はずになっている。
「本当に、この先に仲間がいるの?」
訝し気に、サブリーダーのコラッドを見るセラエーノ。
話を信じてついてきたが、ここに来て怪しく思い始めていた。
「ああ、攫われた上、人質にされている。
正面から行く部隊が目を引き付けている間に私達が救い出すという算段だ」
「ふぅん・・・」
「セラエーノ殿、コラッド殿のいう事にも一理ある。
この先の屋敷は警備が厳重で、私兵も雇っていると聞く」
「本当、カロ?」
「ああ、流れの冒険者を護衛に付けているらしいぞ。
・・・なにか、やましい事でもあるのではないか?」
カロのその言葉に悩みながらも頷くセラエーノ。
(怪しいけど、もしも盗賊団なら私が成敗すればいい話だ)
そう思いながら、セラエーノは横穴に入っていく男達を見送っていた。
最後尾に続くように、セラエーノとカロも入っていく。
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夕方過ぎ、夜に差し掛かるような時間。
足音のようなものが、地下と地上から聞こえてきた。
「両面作戦か」
「私は下を守るよ、トーマさんは上を守って」
「あ、ああ・・・大丈夫か、ドリー?」
「任せてよ!」
親指を立て、俺に向けてくる。
なら、任せるか。
「上のメイドさんとかは任せるからね!」
「ああ」
俺は上に向かう階段を登っていく。
足音がしたのは裏手にある勝手口からだ。
勝手口には既に人影があった。
ドアをキーピックか何かで破ったのだろう、ドアは開かれていた。
「おっと、もう警備に見つけられたか」
フードを被った男が、驚きも無しに俺と向かい合う。
恐らく、こうなるとは想像していたのだろう。
「雨の盗賊団か?」
手に持つ槍を、床に立てる。
「ああ、その通りだ・・・って、おっさん!?」
おっさん?
「何であんたがここにいるんだよ!?」
「!」
こいつ・・・まさか!?
男がフードに手を掛けると、それをずりおろした。
中から見える髪と赤い目。
「久しぶりだな、って言ってもあんたには俺は分からないか?」
「・・・ガルゴ。ヘルフレイムのメンバーの顔と名前は頭に入ってる」
俺に名前を呼ばれた男、ガルゴ。
ギルダーの友人の一人だ、あの転移に巻き込まれた一人ともいえる。
職業はシーフ、Lv120前後だったはず。
「チクショウが!何でLvのカンストしたあんたが警備員なんだよ!!」
先ほどまでの落ち着きぶりはどこへやら。
ガルゴは苛立ち気に持っていた鍵開け道具を床に叩きつけた。
「り、リーダー?」
「撤退だ!分が悪すぎ―――いや」
何か、妙案が浮かんだのか俺に向き直るガルゴ。
ニヤリと、口を笑わせると。
「来い、ドール共!」
そう、外に呼びかけた。
すると、開かれた勝手口から姿を現した女性二人は。
見覚えのある二人だった。
「セニア、オリビア・・・?」
生気を失ったような目で、俺を見ている二人。
「おっさんは神威と仲が良かったよな?
じゃあ、神威のドールを殺せるのかな?」
「何・・・!?」
「やれ!」
ガルゴがそう命じると。
生気のない目のまま二人が頷き俺に走ってくる。
「操られてる、のか!?」
―――――――――――――――――――
その頃、宝物庫。
地下の抜け道は巧妙に隠された部分に開いており、
そこからセラエーノとカロを含めた盗賊団が侵入した。
「・・・待ってたよ、盗賊団・・・!!」
弓を引き絞ったドリーがその一団を待ち構えた。
「盗賊団・・・って、あんたら」
コラッドを睨むセラエーノ。
睨まれたコラッドは顔色も変えずに言い放つ。
「盗賊団は貴様等だろう!我らの仲間を返してもらうぞ!」
「な・・・!何言ってるんだこいつ!
盗人猛々しいとはこのことだよ!」
ギリィと、弓を引き絞るドリー。
そのドリーの顔を見て、セラエーノはもう一度コラッドの顔を見る。
一切顔色を変えず、涼しい顔をしているコラッド。
「・・・おかしいわ、あなた」
「何?」
おかしい、と言われコラッドの顔が少し崩れる。
「本当に仲間がここに捕らわれてるなら、少しは感情を見せるはずなのに。
無表情で味方を救いに来る人なんていないはずよ」
セラエーノは持っていた戦闘用のハンマーをコラッドに向けた。
「嘘ついたわね、あなた」
「本当か、セラエーノ殿」
カロがそう聞き返す。
「顔色を変えないから、嘘をついてないように見えたけど。
変えなさすぎよ、わざとらしい!」
当てないようにコラッドに向けてハンマーを振るう。
一歩引いてコラッドがそれを回避する。
「ふふ、御しやすいと思って騙したが―――ぶぁ!?」
セラエーノの振り下ろしたハンマーの衝撃波がコラッドを襲い、壁に打ち付けた。
「ごほっ!が・・・!」
石壁に身体がめり込む程の衝撃。
コラッドはそのまま気絶した。
その様子を周りの人間は唖然と言った表情で見ていた。
カロも、その中には含まれていた。
「せ、セラエーノ殿・・・お強いのだな」
「ん?トーマさんには敵わないけどね」
ハンマーを頭上で回転させるセラエーノ。
「あなた達の方が悪者だって分かったんだから。
覚悟はいいわね!!」
こうして、雨の盗賊団の半数は駆逐されることになった。
気絶した盗賊団を縛り上げ、山にして纏めるセラエーノ。
「いっちょ上がりってね」
パンパンと、手を打ち鳴らす。
「あ、あはは・・・私要らなかったわ」
引き絞った弓は既におろされており、ドリーは苦笑を浮かべながらセラエーノを見ていた。
「ドリー殿、久しいな」
「あ、カロさん、お久しぶり」
「知り合い?」
セラエーノがそう尋ねると、二人は頷いた。
「御前試合で戦いはしなかったが、同じ出場者だ」
「そうそう、って、セラエーノさんだっけ?」
「うん?」
「トーマさんって言ってたけど、もしかしてこんな、大男の?」
手を上げて、その大きさを表現するドリー。
「ああ、そうそう。大男だけど」
「じゃあ、今この屋敷にいるよ!」
「へ?」
驚いた表情を見せたセラエーノは。
次の瞬間には喜びの表情を見せていた。
「本当!?」
ドリーの手を掴んでそう聞き返すセラエーノ。
「う、うん・・・私の想像通りなら、ね」
読んで下さり、ありがとうございました。