106話
厚く曇った天候は、今が昼なのか夜なのかも分からない。
しかし、時計は夕方近くを指している。
「そろそろ来る、か」
「うん」
ドリーは立ち上がると、自分の弓を持った。
それを、磨き始める。
「待ってろよ、雨の盗賊団!私がこの弓で射抜いてやる!」
余程恨みに思っているのか、磨く手にも力が籠っていた。
「・・・戻ってきませんね、セニアさん」
「ああ、心配だな」
セニアは未だに戻らない。
この様子だと、俺達だけで対処しなきゃいけなくなるな。
「そう言えば、カザレアさん達はどうするの?」
ドリーがそう聞いてくる。
「他のメイドと一緒に、旦那様とやらの近くで待機してもらってる。
俺達の戦いに巻き込むのは気が引けるからな。
ラティも、メイド達と一緒に待機してくれ」
「え?」
「主人の体調も気になる、何かあった場合回復魔法が使える奴が近くにいた方がいい」
「分かりました・・・トーマ様、気を付けてくださいね」
「ああ」
しかし、俺達の待機場所はどうするか。
宝物庫辺りを守っていればいい気もするが。
「とりあえず、宝物庫の周りを警戒しておくか」
――――――――――――――――――――
この屋敷の宝物庫は、そこらにある様な簡易的な金庫とかではなかった。
扉は鉄製、鍵を3重に掛けたもの。
更に聞く話によると、奥には魔法のトラップが数多く仕掛けてあるらしく。
たまに掃除のためにメイドが入るのだが、死に掛ける事があるらしい。
「とんだ遺産を遺したもんだな、Gさん」
宝物庫の前にある小さな詰め所で茶を啜っていた。
宝物庫は屋敷の地下に構えているが、松明の光以外の光源が地下を照らしていた。
そのおかげで明るいのだが。
(蛍光灯が異世界にあるのは、なんだかな)
煌々と俺達を照らす細長い蛍光灯を見る。
この世界からしたら異質の物だが。
俺からすれば懐かしさを感じる代物だ。
詰め所から腰を上げて、実験室らしき場所の扉に手を掛ける。
一瞬、身体に電流のような魔力が走る。
「む・・・?」
それも一瞬で、扉はすんなりと開いた。
その中には、作りかけの機械や装置。
電気を起こすためのモーターと発電機が埃を被っていた。
どうやって作ったのかが気になったが。
まあ、材料と知識さえあれば出来ないことはないだろう。
それに、このモーターは魔法で動くように出来ているみたいだ。
「どれもこれも、この世界ではオーバーテクノロジーだな」
そう思いながらその一室を閉めた。
なるほど、Gさん。
ここで、現代の機械が使えるかどうか調べていたのかもな。
研究者みたいな部分もあったし、試さずにはいられなかったのだろう。
前を向くと、目の前にはメイドが立っていた。
「あ、え!?」
俺に差し出しを作ってくれたのか、メイドがトレーを両手で持っていた。
その上にはパンとチーズ、コップが置かれていた。
「そこに入れたんですか!?」
「え、ああ・・・まずいか?」
「誰も入れない、開かずの間なんですよ?」
そうなのか、そう言う割にはすんなり。
そう考えて、手を見る。
一瞬走った電流のような魔力の流れ。
この扉、仕掛け扉か。
「開いたって事ですよね?」
そう言って、メイドは近くの棚の上にトレーを置き、扉に近づく。
そしてノブを握るが。
「きゃぁ!?」
バチン!とその手が弾かれた。
やはり、防犯対策のようなものが付けられてるな。
俺がそのまま通れたのは、恐らく・・・。
(ヘルフレイム所属、だからだろうな)
現代技術の分散を防ぐために、Gさんが施した良心のようなものだろう。
この世界の常識や技術体系を崩したくは無かったのだろうな。
なら、死ぬ前に壊したらどうだとも思ったが。
「いたた・・・この先に何があるんですか?」
ノブに弾かれた手を振りながらそう聞くメイド。
「危険な物がいっぱいだったな」
「え!?」
「危険だから封印してあるんだよ、触らない方がいいぞ」
「た、確かにそうですね」
弾かれた手を見るメイド。
そう、こいつは触らない方がいい。
この世界にはまだ早すぎる技術ばかりだ。
メイドの差し入れを受け取り、それをつまみながら宝物庫周りを見回る。
「しかし、懐かしい匂いだな」
日本の匂い。
詫び錆びとか、そういう意味ではない。
現代の日本の匂いがする。
機械の吐き出すような少し淀んだ空気の匂い、油の混じった何かの匂い。
色々な匂いが、宝物庫周りには充満していた。
恐らくは、あの実験室から漏れてくる匂いなのだろうけど。
その匂いが、元の世界の事を思い出させた。
「・・・」
だが、戻りたいという気持ちは起こらなかった。
自分でも驚くくらいに。
「それだけ、トーマに染まったという事か」
役割を演じているだけ、只のおっさんだ。
なんて、どこかしらで考えてもいたが。
俺は既にこの国に生きる『竜騎士 トーマ』。
役割を与えられた、一人の人間。
俺は俺だ、それ以上でも以下でもない。
だからこそ、この国の、いや、ラティ達の役に立ちたい。
「さぁて、もう少し見回るか」
――――――――――――――――――――
しばらく見周りを続けていると、上階から誰かが降りてくる音がした。
階段を降りる足跡を聞くに、一人。
しかも女性だろう。
「や、トーマさん」
「ドリーか?玄関を見張るって言ってたと思うんだが」
「気になって降りてきたんだ」
そうか。
宝物庫の前、3段しかない階段に腰かけて、奴らが来るのを待つ。
隣にはドリーが立っている。
片手に弓を持ってその具合を確かめている。
ラティはメイド達と共に上で待機して貰っている。
本当は上階で迎撃しようと思ったが、屋敷の構造を考え目的地の前で陣取ることにした。
後は、上で戦うとラティとメイド達、この館の主人に被害が出ると考えたからだ。
「ねえ、トーマさん」
「ん?」
「どうして宝物庫の前に陣取ったのさ?」
「相手がどんな用意をしているか分からない。
穴を掘って地面から侵入する可能性もあるだろうし。
・・・それに、下水道から横穴を掘ってる可能性が高いと思ったんだよ」
この辺の下水の地図とこの屋敷の地図を見せてもらっていたが。
下水道とこの屋敷の地下まではそこまで遠くない。
それに気がかりもあった。
何度もこの屋敷は盗難被害に遭っているというのに、侵入路が特定されていない。
つまり、出入り口が見つかってないのだ。
盗まれたと気づいた時には、既に雨の盗賊団は消えているというわけだ。
わざわざ、雨の盗賊団参上なんて壁に書き残して消えているところからも。
余程時間と気持ちに余裕がなければしないことだ。
「つまり、この地下に抜け穴があるって事?」
「予想ではな」
侵入口がこの地下にあるとすれば。
上階で物を盗み、逃げるのも比較的簡単だ。
「でもさ、あいつらの狙いが宝物庫ならおかしくない?
わざわざ他の物を盗まずに、宝物庫だけ狙えばいい話じゃない」
確かに。
地下の宝物庫だけ狙えばいい話だが。
「開けられなかったんだろうさ。或いは、開けられても最奥まで到達できなかった」
「到達?」
「メイド達が言っていたが、この宝物庫には数々のトラップが仕掛けられてる。
それによって、奥まで侵入できず諦め、手ぶらで帰るのも癪だから・・・」
「上で盗んで帰っていった?」
頷く俺。
「盗賊団の気持ちなんて分かりたくもないけど。
せっかく侵入したっていうのに手ぶらで帰るのは確かに癪に感じるかも」
「苦労した分の収穫を欲しがるのが人間だ。
アイツらの場合はそれが他人に迷惑が掛かるものだがな」
宝物庫の壁を触る。
一体、何処に抜け道があるんだ・・・?
読んで下さり、ありがとうございました。




