108話
操ったメイドの腕が変形し、鞭や剣になる。
それを目の前の男も目掛けて、振り下ろしたり斬りかかっている。
男はそれに対して防御するだけで精一杯だ。
いや、攻撃できないのだろう。
可愛い、可愛い古参勢のドールなんだからな。
「リーダー、一体これは」
「幸運は俺達に向いているって事だ。
今頃、魔導書はあいつ等が」
メイドの鞭が、男の首に巻きつく。
考えた通りだ、奴はメイドに攻撃が出来ないのだろう。
――――――――――――――――――――
「ぐ・・・セニア・・・!」
鞭で首を絞められながら、その鞭を巻いている本人、セニアを見る。
眼には生気が無く、操られているように見える。
なんだ、何があったんだ・・・!
鞭を掴み、強引に首から引きはがす。
それと同時に、宙を舞うオリビアの剣が目の前に迫る。
「ちぃ!」
盾を構え、剣を弾く。
パリィでオリビアの身体を後ろへと吹き飛ばした。
「二人共、目を覚ませ!」
「無駄だぜ、おっさん。
『操りの糸』は、ドールを完全に支配できる」
糸のようなものを持っているガルゴが笑う。
そうか・・・あれは。
『操りの糸』だ、効果はゴーレムやドールのコントロールを奪う。
じゃあ、セニアとオリビアは。
「っ!」
一瞬油断したせいか、セニアの攻撃への対処が遅れ。
肩口に小さな切り傷が出来た。
少しだけ、血しぶきが空中に舞う。
その血が、セニアの頬に掛かった。
「むん!!」
盾を構えてセニアに押し当て、近づいた身体を後ろへと吹き飛ばす。
一瞬宙に舞ったセニアは、綺麗に受け身を取って着地した。
そして、無口なまま立ち上がると、こちらを見た。
「くそ、攻撃するわけには・・・」
二人を攻撃したくは無い。
攻撃能力を奪おうかとも考えたが。
全身凶器のドールだ、何処かを破壊することにもなる。
その様子を見たガルゴは後ろに控えていた団員に。
「お前達は地下へ行け、ブツを回収して来い」
「へい」
数人の男が階段目指して走りだした。
「行かせるか!」
ナイフを構えて投げようとするが。
その行為を、オリビアの蹴りで止められた。
「う・・・!」
ギリギリで、オリビアのつま先を回避する。
その蹴りの速度は、依然見たものとは比べ物にならないほど速い。
(足のアレのお陰か?ますます厄介だな・・・!)
男達が階段を降りていく。
くそ、頼むぞドリー。
そう思いながら、追撃のハイキックを腕で止める。
「やれやれ、仲間思いも大変だな、おっさん」
「お前みたいな、悪党に、言われたくは、ないな!」
オリビアの手と足を使ったラッシュをいなしながらそう答える。
最後に放った鳩尾を狙う正拳突きを掴んで止め、腕を捻り上げる。
「うぁ」
小さく唸ったオリビアの背中に掴んだ腕を回した。
オリビアの背中が目の前に迫る格好だ。
「おい、起きろオリビア」
「マスターの意志を実行・・・標的の殲滅」
「おい!」
「標的」
ぐるり、と頭だけをこちらに回すオリビア。
180度回転した顔がこちらを見ている。
「殲滅」
嫌な予感がして頭を動かすと。
オリビアの目から、ビームのようなものが飛び出した。
「ぬぉ!?そんなものまで開発してたのか!」
咄嗟の事だったので手を離してしまった。
まさか、目からビームを出すとは・・・。
ビームの当たった壁は少し溶解していた。
・・・中々の威力みたいだ、回避して正解だった。
しかし、目からビームか・・・。
神威は常にドールの研究をしている。
日進月歩、武装を追加しててもおかしくはない。
捻り上げられた腕をさするオリビア。
痛そうに見える、少し申し訳が無い。
どうする、俺。
傷つけないで、どうやって勝てばいい?
気絶させればいいか・・・?
いや、目覚めた時にあの糸の効果が切れているかは怪しい。
そうだ、あの糸を破壊すれば・・・!
「ガルゴ!!」
ナイフを構えて投げる。
狙いは彼の持つ糸。
だが、そのナイフが刺さったのは。
セニアの腕だった。
「な・・・!?」
庇った。
ナイフの刺さった腕から、青色の血のような液体が流れ始める。
「よくやったなぁ、セニア?」
「マスターの為ならば」
ナイフを引き抜き、その場に落とす。
カラン、と落ちたナイフの先には、青い液体がべっとりとくっついていた。
「セニア、お前・・・」
わざとじゃない。
だが、俺の攻撃で仲間を傷つけてしまった。
そのショックが体を硬直させてしまった。
身体に走る衝撃。
それは、オリビアの放ったハイキックが首を捉えた事を示していた。
「ぐ・・・!?」
一瞬身体が揺らぐ。
人体の急所の一つを的確に打ち抜いてきたようだ。
ハイキックで俺の首に触れているその足を掴む。
「!」
そのままこちらに引き寄せた。
向かって来るオリビアの身体を正面から抱いた。
離れようと、ジタバタするが構わずに抱き続ける。
「オリビア、お前のマスターは誰だ?」
「マスター、はガルゴ」
「違う、神威だ!お前のマスターは!」
「か、むい・・・?」
一瞬、オリビアの目に何かが宿るが。
「干渉しただと!?セニア!オリビアごと奴を叩き斬れ!!」
「了解」
セニアの片手が、大剣に変化する。
それを上段に構え、俺をオリビアごと斬ろうと振り下ろしてきた。
「っ」
オリビアを突き飛ばし、向かって来る大剣を両手で白刃取りする。
顔面の目の前で止まる、その刀身。
「セニア!」
刀身を押さえたまま、両手を滑らせてセニアに近づく。
大剣の根元を押さえ込む様にセニアの腕を押さえた。
そのまま、壁にセニアごと押し付ける。
「いい加減に起きろ!
お前もオリビアもそんな道具に操られる程、やわじゃないだろ!!」
グイっと顔を近づかせ、端整なセニアの顔をじっと見つめる。
まつ毛が見える程、顔が近づいた。
「無駄だ、ドールの完全支配をする操りの糸。
揺らぐ事はあっても、解けは―――」
「こいつは、セニアはもうドールじゃない!自分の意思で動く俺達の仲間だ!」
そう叫ぶ俺に、ふっと笑って返すガルゴ。
「ドールはドール、道具だろ?
どうしてそんなに向きになるんだよ、おっさん」
「道具じゃねえ!この小僧が!!」
イラついた。
仲間の侮辱は、俺は何より許せない。
「鉄拳制裁程度で済ませてやろうかと思ったが、お前は・・・!」
セニアを掴んでいた手を離し、ガルゴに向き直る。
右の拳を強く握り、そのままガルゴに向かって歩き出した。
俺の殺気を感じたのか、顔が恐怖で引きつるガルゴ。
「殺してやる・・・!」
「ひぃ!?お、おっさん!本気じゃないよな!?」
持っていた操りの糸を向けながら、俺から後ずさるガルゴ。
「お、俺だってヘルフレイムの仲間だろ!?な、な!?」
「ああ、だからこそお前は許さん!!」
指を鳴らし、ゆっくりとガルゴに近づいていく。
ハッと思い出したかのような仕草を見せるガルゴ。
操りの糸が怪しく光る。
すると、セニアとオリビアが引きずられるようにガルゴの前に立つ。
「こ、これでも、アンタに殴れるのかよ?」
鬼の首を取ったように、自分の目の前に盾になっているセニアとオリビアに近づく。
そして、セニアとオリビアに向かって頬ずりをした。
「へ、へへへ、よく見ればとんでもない美人姉妹だな。
この場が片付いたら、楽しむとしようかなぁ」
無表情でセニアとオリビアはされるがままになっていたが。
その目からは、何処か嫌悪感が出ていた。
そして俺は。
その行為、言葉を聞いた瞬間に、理性が切れる音を聞いた。
瞬間、ガルゴの身体だけが吹き飛んでいた。
3つ並んだ顔のうち、真ん中だけを的確に射抜いた。
「ぶぉ!?」
後ろの壁に激突し、鼻血を垂らすガルゴ。
「ぬぁぁぁ!?痛い、痛い、痛いぃ!!!」
鼻を殴ったせいだろうか、鼻っ柱が折れて血が噴き出した。
「てめえ・・・死にたいようだな」
ボキボキと、指を鳴らし鼻血で顔が真っ赤になっているガルゴに近づく。
こいつだけは、許すわけにはいかない。
読んで下さり、ありがとうございました。




