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3-7-3 ウィリアムたちの困惑

お、覚えてますか...(小声)


 目の前の光景にウィリアムは言葉が出ない。

 いや、その場にいる全員が言葉を無くし、顔を青ざめさせている。

 辛うじて家があったのだとわかる程度で、ほとんどか焼け落ちている。

 人の気配はなかった。


「リーダー、リムは?」


 震えるジュエルの声に我に返ったウィリアムは、ほとんどか焼け落ちた、かつて家だったものへ駆け寄る。

 つられて同行してきたクレアたちも駆け出した。


「リム、リム!」

「どこにいるの? 返事して!」


 あちらこちらで家主の少女を呼ぶ声が聞こえる。その声は時に同居人の名に替わる。

 しかし、いくら呼んでも応える声はない。


 焼け跡をよく見れば、昨日今日のものでないことはわかった。


 火災が起きて数日経っているのに、ここにリムがいないことが、嫌な予感を呼び寄せる。


 ため息をつきながら寝室であった場所に着いたウィリアムは足元に散らばる白いものに視線を落とす。


「?」


 身を屈め、それが何であるか確かめていたウィリアムは違和感に首を傾げる。


「ウィリアムさん、それ…」


 ブライスが口を開きかけて閉じる。

 ウィリアムはブライスが言いたいことを悟ると立ち上がった。


「みんな! 町に戻るぞ!」


 外に飛び出すなり、メンバーを集めるべく大声を張りながら馬車に向かう。


「リーダー!」

「なんでだよ! まだリムが」

「フォリたちだって!」


 コークスたちは非難の声をあげる。クレアも不満そうだがブライスの表情を見て声をあげるのを留めた。


「いいから! 急ぐぞ! ロイドさんに知らせないと」


 まだリムを探したいメンバーを宥めるどころか急かして馬車を出発させた。


「急ぐのは分かりますが…」


 急ぎすぎたと呟くクレアにブライスは何も答えない。

 ウィリアムもだ。

 二人は二日目の野営まで沈黙を貫いた。


「そろそろ大丈夫っす」

「そうだな…」


 ブライスの言葉にウィリアムは頷いた。


「リーダー?」

「ウィリアムさん。何があったか教えて頂けるんですね?」


 設営を始める前に、六人は馬車の荷台にまとめて座り込む。

 持って来た物資が場所をとるので窮屈だが仕方がない。


「まず、あの家に焼け残ったいた骨は人間のものではなかった」

「え、どういうこと?」


 ジュエルが目を見開く。


「フォレストウルフやブラウンボアなんかの骨がそれらしくまとめてあっただけっす」


 ブライスが補足するのにウィリアムも頷いた。


「特徴のあるものを外して、人間のものっぽく見せただけだな」

「偽装、ですか」


 クレアが眉を潜めた。


「なんでそんなこと…」


 そのままフィッツは言葉が出ない。


「何者かに襲われたと言うことだ。勿論、回避したんだろう」

「じゃあリムは無事ってこと?」

「…無事なんでしょう。でなければ、軍曹がじっとしているはずがありません」

「…だよね…」


 クレアの言葉に皆は納得する。

 気が動転していたので失念していたが、リムに何かあればアシダカ軍曹

が黙っていない。

 下手をしたら、ウィリアムたちにも何らかの被害が及んでいただろう。


 今まで見ていた限り、アシダカ軍曹はリム以外の人間に情はない。

 ウィリアムたちはリムの友人の立場にいるから、目こぼしされているだけなのだ。


「問題は誰がリムたちを襲ったかと言うことっす。あれは魔法攻撃っす。間違いないっす!」


 勢い込むブライスにウィリアムはため息をつく。


「その当たりも報告する必要があるな」

「だから、ここまで離れたんですね」


 クレアはウィリアムとブライスが今まで沈黙していた理由を悟った。


 攻撃魔法を放った者がいるのだ。もしかしたらウィリアムたちの存在を警戒しかも知れない。

 もしそうだとしたら、下手に探し回るのは危険だった。


「あの家が監視されている可能性もあったからな。リムが偽装してまで隠れているんだ。俺たちが台無しにする訳にはいかん」


 この時点で、ウィリアムはリムが無事だと疑ってはいなかった。

 すべてはアシダカ軍曹の存在に付随した予測だが、誰もが納得せざるを得ない。


「ロイドさんに判断を仰ぐ」

「私たちだけではどうしようもないですね…」


 クレアは深々とため息ついた。

 皆も頷いた。


「じゃあ、野営の準備をするか」


 ウィリアムの掛け声の後、一同は馬車から這い出し各々野営の準備を始めた。


 ウィリアムやブライスそしてクレアは変わらないが、フィッツたちは気分的に重い。

 リムを襲った何者かに見張られていたかも知れないのだ。

 それを考えると、気味悪さの方が先に立つ。


「早くテテルに帰りたい…」

「本当に」


 ぼやくフィッツにジュエルは頷く。


「結局、何が起きてんのか判らないもんな」


 呟くコークスにフィッツとジュエルは揃ってため息をついた。


 いつも賑やかな三人がそんな状態だったので、この日はどんよりした空気のまま過ぎて行った。


 翌朝、野営の設備を片付け荷台に積み込もうと覗いたフィッツが奇声をあげた。


「リーダーぁぁ!」

「なんだ! どうした!」


 ウィリアムが慌ててフィッツに駆け寄る。

 フィッツは荷台を指差した。


「荷物がない!」

「は?」

「どういうことです?」


 皆も馬車に駆け寄った。

 フィッツが指差しす荷台を覗けば、荷台の半分はあった荷物がない。

 代わりに見覚えのない木箱がひとつある。


「何があった?」


 ウィリアムは剣に手をかけ、木箱に近付く。


「防御壁は展開しました。開けても大丈夫です」


 すかさずクレアが補助魔法をウィリアムに放つ。魔物箱のような開けたら攻撃を喰らう可能性に用心してのことだ。


「すまない」


 ウィリアムは頷いて、木箱の蓋をそっと開けた。

 身構えていた攻撃はなかった。

 箱の中は薬草と幾つかの瓶や壺が入っている。

 薬草はウィリアムも見覚えのあるミズル草だった。


「リムだ!」

「え、リム?」

「リムがなにっ?」


 ウィリアムの声を聞き付けて、五人が一斉に荷台に乗り込んでくる。

 荷物が殆どなくても六人が同じ方向に集まれば狭苦しいが、それを気にする者はいなかった。


「これ、洗髪料です。こちらは多分、胃薬ですね」

「うん。こっちは化粧水だわ」


 いつも、リムから分けて貰っていたものだ。

 どれもリムにしか用意ができない。


「いつの間に…?」

「多分…ひぃちゃんたちじゃないっすか? 気配を完璧に消して荷物を持ち出すなんて、フォレストブラックスパイダーじゃなきゃムリっすよ」

「ああ」


 ブライスに反論を唱える者はいなかった。

 そもそもが蜘蛛だ。

 気配や物音もなく動くことに長けている。本気を出せば、ウィリアムたちに気付かれずに何でもできるだろう。


「これでリムが無事なのは確定したな…ん、手紙か?」


 木箱の中から二通分の手紙を取り出す。

 一通はウィリアム宛てで、もう一通はロイド宛てだ。

 ウィリアムは自分に宛てられた一通を開く。


「…リムは何者かに襲われたようだ。このまま逃げるとある。洗髪料? は、いつもより多く用意したらしい、あと薬と薬草も。落ち着いたらギルドの方に連絡するそうだが、いつになるかは判らないそうだ」

「それだけ?」

「誰に襲われたか、書いてないの?」


 あっさりとした内容にジュエルたちが食い下がるが、ウィリアムは首を横に振る。


「以上だ」

「サブマス宛てには何か書かれているかも知れませんね」

「そうなると、俺たちが知らない方が良い相手の可能性があるな」

「そんなにヤバい相手っすか?」


 ブライスが身震いする。

 それを聞いて、ジュエルたちも続けて何も言えず顔を青ざめさせた。


「とにかく、急ごう」


 どちらにしても、帰路を急ぐ以外の選択肢はなかった。


 ウィリアムたちは、テテルに向かって幾分軽くなった馬車を走らせた。





次回辺りで、一旦終わります……

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[良い点] 覚えてまーす!
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