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3-7-2 深まる疑惑


 城内を早足で進むツカサは、すれ違う者から掛けられる言葉にも殆ど返さない。

 顔を強張らせ、口を引き結んだ様相は何事かかあったのを容易に連想させる。

 そのため、ツカサに続けて言葉を掛ける者はいなかった。


 ツカサは城内を進み、トウヤの部屋に着くと中に入る。


「ツカサ、どうかしたの?」


 奥の机に向かっていたトウヤは不思議そうにツカサを振り返る。


「今日は森に行くんだったよね?」


 森に行くのならば、ツカサが来るのは午後も遅い時間になる。それが、昼前に来たのだ。

 このようなスケジュール変更は珍しいことだった。


 トウヤも普段ならば、午前中は図書室で午後から自室で研究というのが、基本的なスケジュールだ。今日は偶々昼前に自室に戻ったに過ぎない。

 図書室にいる際は、ミュリエールか女神官が付き添うが、自室での研究には来ない。独りでじっくり考えてたいのだと、付き添いを拒んだためだ。

 初めはトウヤの依頼に難色を示していたミュリエールだが、トウヤが研究結果を見せたことで渋々ながら折れた。自分たちの利益になるのならば邪魔をしない方が良いと言う結論が出たのだろう。


 なので、トウヤが自室にいる時は、一人だとツカサもサキも認識している。


「何かあった?」


 ツカサの表情から、何事かを察したトウヤは眉を潜める。


「森に、リムの所に行ったんだ」

「リム…森の近くに住んでる子、だっけ」


 ツカサはリムの話をよくするから、当然トウヤも覚えている。

 いつか会ってみたいと、トウヤも思っていた。多分、サキも会いたいはずだ。


 ツカサは強張った表情のまま続ける。


「…行ったら、火事に遭ったみたいで、家がなくなってた。フレアはサラマンダーに襲われたって言ってたけど…」

「サラマンダー、いるんだ」

「俺も見たことない。で、焼け跡を見たら、奥の部屋に白い欠片があって…多分、あれ骨で…」


 ここまで言って、ツカサは口を押さえた。


「それ、皆焼け死んだってこと?」

「わかんねぇ」


 ぐうっとツカサは唸る。

 悲しいのを我慢している。それだけではない表情に、トウヤは慌てて風の障壁を張り巡らせる。これで、会話は外には漏れない。


「骨の側にこれが落ちてたんだよ」

「え?」


 ツカサは握り締めていた手を開き、それをトウヤに見せた。

 開かれた掌は煤で真っ黒になっていた。


「え、これって…」


 トウヤの目は、それに釘付けだ。


「これ、どういうことだと思う?」

「どういうって…これ、キ□ィちゃんだよね? 何でそんなものがあるんだよ」

「俺が聞きたいんだよ!」


 トウヤは恐る恐るそれを手に取った。

 どこから見ても、キ□ィちゃんだ。

 単純なフォルムだ、見間違えようがない。


「これ焼け跡にあったって?」

「そうだよ」

「でもこれ、焼けてないよ」

「は?」

「木が焼けたら、どこかが炭化してる筈だよ。こんなに滑らかなまま残ってないよ」

「焼けてない?」


 呆然とツカサが呟く。トウヤはそれに頷いた。


「うん。彫り出したものに煤を塗り付けただけみたい」


 トウヤは冷静に小さな彫像を観察する。

 彫りは荒いが、特徴はよく掴んでいる。

 誰が見ても、名前を当てられるだろう。日本人ならば尚更に。


「…ん、ここ栓がしてある」


 トウヤは机からナイフを手に取ると、彫像の底に当たる部分に切っ先を突き立てる。

 ナイフを捻り、栓を抜くと中から筒状の紙を取り出した。


「この紙は…」


 明らかにこちらにあるものとは違う紙質にトウヤは息を飲む。


「これ、まさか…」

「見せてくれ」


 トウヤの手から筒状の紙を取り上げ、ツカサは指先でそっと広げる。

 紙片の大きさは、ちょうどツカサたちが持っている生徒手帳のメモ部分位だった。


 その紙片には、小さな文字が並んでいる。見覚えがあるどころか、馴染みのある文字だ。


「日本語だ」

「なんて書いてある?」


 トウヤもツカサの手元を覗き込んだ。



『ツカサへ

これをツカサが読んでいることを願う。

私、リムはツカサたちと同じ日本人。

ツカサたちの召喚に巻き込まれて迷いの森に落ちた。

それからリムとして生活している。

私を襲ったのはツカサと一緒にいた魔法使い。

殺そうとした理由は解らないけど逃げることにした。

どこに逃げるかは決めていない。

ツカサたちの召喚は各国とのルールを破ったものだと聞いた。

何かトラブルが起きないうちにツカサたちも早目に逃げた方が良いと思う。

ツカサたちも無事に逃げて。

どこかで会えるといいね。元気で。

リム』


 書かれているの端的な言葉であった。

 メモ一枚に収めるために、端的にしたようだ。

 端的過ぎて、突っ込み所しかない。


「え、え、待って。情報多過ぎ」

「巻き込まれ? 巻き込まれってどういうことだ?」


 トウヤとツカサは頭を抱えた。

 小さな紙片だと言うのに、情報が多過ぎる。

 思考が追い付かない。

 ツカサに至っては、焼け死んだと思っていたリムからの手紙である。

 トウヤよりも混乱していた。


「巻き込まれて一人だったとか、信じられない」

「リムが日本人」

「いや、それよりもルール破ってとか、どういうこと?」

「俺が知るかよ」

「あー…」


 トウヤは再び頭を抱える。ツカサは力尽きたように椅子に凭れかかりぐったりしていた。


「お昼御飯食べに…二人ともどうしたの?」


 昼食を誘いに来たサキは、トウヤとツカサのただならぬ雰囲気に目を瞬かせる。

 二人とも疲れ切っているように見える。


「昼…食べに行く?」

「いや、ここに持って来てくれ。俺、食堂で普通の顔出来そうにない」

「…だよね」

「何かあったの?」


 心配そうな顔をするサキに、ツカサはため息混じりに頷いた。


「後で話す」

「わかったわ」


 あっさりとサキは引き下がり、三人の昼食を用意してもらう。

 届けられた昼食を、三人は黙々と食べた。

 いつものように話ながら、ではない。

 何だか張り詰めたような空気に、味もよく解らない。

 それにつられて、サキも美味しくない。

 こんなに美味しくない食事は初めてだった。


 ようやく食べ終え、食後のお茶になった。

 食器が片付けられたところで、サキは口を開く。


「…それで、何があったの?」

「それが…」


 ツカサが今日あったことを話し始める。

 サキは始めは痛ましげに眉をひそめていたが、木彫りの人形の話と共に実物を見せられて、ぽかんと口を開けた。


「ぇ、どういうこと?」


 聞き返すのも無理はない。ツカサもトウヤめ未だにその心境なのだ。


「経緯は置いておいても、リムって子は日本人で僕たちと一緒にこの世界に来たんだろうね」

「そんな様には見えなかったけどな」

「それくらい、警戒してたんだよ」

「手紙の通りだとすると、この国って…」

「相当ヤバいんだろうね」


 トウヤはため息をついた。


「そうじゃないかとは、思ってたけどね」


 トウヤがため息混じりに呟いた。

 そもそも、怪しかったから本名を名乗らなかった。あのときの勘は間違いなかったと言う訳だ。

 大体、未だに三人には使命と言うものが見つからない。

 神託があるはずだと言うので、いろいろ学んできたし鍛えてきた。

 来るべき時に備えて、というのが大義名分だが、この様子ではその大義とやらも相当怪しい。


「このルール違反っていうのが、かなりヤバイ感じがする」

「ルール違反って軽い言い方だけど、場合によっては犯罪よね」

「共犯? とかマジで嫌だぞ」

「僕だって嫌だよ」

「私だって!」


 誰だって犯罪者にはなりたくない。

 三人は顔を見合せ、深いため息をついた。


「ちょっと調べてみるよ。詳しいことが判るまで、二人は動かないで」

「俺は…今まで通りには、出来そうにないんだけど」


 リムを襲ったのがフレアだとしたら、とても平静を保ち自信がツカサにはなかった。


「そうよね…」

「ツカサは…とりあえず、フレアに対しての怒りはサラマンダーに向けて」

「いるかどうかもわからないのに?」

「わからない方がイライラをぶつけやすいよ、多分。ムカついたらサラマンダーのせいにしておけばいいよ」

「…わかった。ムカついたら、サラマンダーにぶつけとく」


 渋々とツカサは頷いた。

 不満を隠しきる自信がない以上、仕方がなかった。


「私は…ここから逃げる時のために必要なもの、少しずつ集めておくわ。空間収納も少し大きくなったし」

「あ、助かる。買い物はサキが一番動きやすいよね」

「うん」


 サキは城下町にお忍びで出掛けてよく買い物をしている。

 購入しているものは、雑貨だったり菓子だったり果物だったりと、結構多種に渡っている。

 三人の中で、一番城下町に詳しいかも知れない。

 物質調達には打ってつけだろう。


「くれぐれもバレないように」

「おう」

「ええ」


 トウヤの言葉に二人は力強く頷いた。


 この国から逃げる。


 それは三人が初めて明確に意識した目的だった。





お久しぶりです。···ばっかり言っている......


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