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3-3 森の騒動


 サブマスに王都について調べてもらってはいるけど、新たに解ったことがある。


 城に素性の知れない要人がいるのだそうだ。

 始め、貴族の子女かと思われたけれど、該当貴族が見当たらないとか。

 結局、他国の貴族なんじゃないかと言うところに落ち着きはしたものの、ではどこの国なのかが判明しないらしい。


 なんて報告書を読んだ訳だけど。


 ほらあ。


 怪しまれてるじゃない。

 素性が解らないのに要人扱いとか、誰だって怪しいって思うよね。


 これは、三人のことがバレるのも時間の問題だよね。

 っていうか、ほぼほぼバレてるんじゃないの?


 まあ、だからと言って、私に出来ることはないんだけど。


 ただ、今回の件で三人に不審の目が向いてしまった。

 良かったのかなあ。


 まさか、隠匿するために荒っぽいことになったりしないだろうね。


 こればっかりは解らないなあ。


 とりあえず、報告の追加は断った。だけど、三人についての調査続行をサブマスは決定したようだ。

 余程、気になるんだろう。


 気持ちが解るから、止めろとは言えないよねぇ。


 そんなビミョーにもやっとしたものを残した数日後。


 いきなり爆音が響いた。


「ちょ、なになになにーっ!」


 お昼ご飯の用意をしていた私は家から飛び出す。

 畑ではセトとフォリが呆然としている。


「リム、今のなにっ?」

「わかんない!」


 フォリに聞かれても答えようがない。

 異常事態であることは確かなんだけど。


「あ、あれ」


 セトが震えながら指差す方向を見れば黒煙が上がっている。


 煙事態はそんなに近くはない。ただ、この森で黒煙が上がるようなことは今までなかった。

 森の主がアシダカ軍曹なので、上位の小競り合いにそういう戦いが発生しないからだ。


 この森には火を吹く魔物はいかなかったはず。火を扱える魔物はいるけどね。


 だから、何か別の力が発生したもしくは、特殊な状況が発生したことになる。


 となると、発生源が何であるか、把握しておく必要があるよね。こちらに延焼してきてもまずいし。


「ちょっと見て来る。アル、お願い。ひぃちゃん付いてきて。ふぅちゃんとあとラルガたちが戻ってきたら、待機ね」


 ラルガとラトリは狩りアンド森の見回りに出ている。黒煙の発生源にいないといいけど。浅い付近しか行かないから、大丈夫だとは思うけど。


 とりあえず、言うだけ言って私はアルの背に乗った。ひぃちゃんは肩に張り付いている。


「リム、危ないよ!」

「危なかったら、すぐに逃げるよ」


 フォリの声を背に、アルは森に向かって駆け出した。


 しばらく行くと、周囲が焦げ臭くなってくる。発生源が近い。


 私はアルから降りて、発生源に向かって歩く。

 うっそうとした森が続く筈だが、前方の木々の向こうの景色が明らかにおかしくなっていた。


 木が生えていない。

 ずっと続く筈の森がない。

 そして強くなる焦げ臭い匂い。


 そっと木の影に隠れて、様子を伺う。


 森の焼失は、明らかに焼き払われたものだった。

 家の近くの小学校のグランドくらいの広さの焼け野はらがあった。


 そしてその中心に立つ、黒髪の子。横顔を見るに高校生かな。


 あーーー。


 勇者だわ、あれ。


 だって剣持ってるもん。日本人だもん。高校生っぽいもん。

 イリスが言ってたもん。


 サブマスの予想通り、迷いの森に力試しに来たんだ。


 まずったあ。やってしまったあ。

 これは出られない。っていうか、関わり合いになりたくない。


 アシダカ軍曹に言っておきながら、真っ先に私が接近してしまうとは。


 とりあえずここは、退避一択で。


「出てこい、そこにいるのはわかっている!」


 そっとこの場から離脱しようとしたら、厳しい声がかけられた。


 あれ、私に向かって言ってるんだよね…


 勇者の近くに女騎士と女魔術師がいる。

 お付きってやつかな。二人とも凄い美人だ。


 私に向かって怒鳴ったのは女騎士だ。なんか高そうな鎧を纏っている。こちらに向ける殺気はバシバシだ。怖いったらない。

 女魔術師もなんか構えているから、このまま逃げようとしたら、魔法攻撃なんかを仕掛けてきそうだ。


 私は仕方なく出ていくことにした。

 私の一歩後ろをアルが付いてくる。ひぃちゃんは一旦離れて待機だ。

 万が一の時は助けてね。


「ルティナ、どうしたんだ?」

「ツカサ気を付けろ」


 女騎士が勇者の一歩前に出る。そして、視線を女魔術師に向けた。


「フレア、気を抜くなよ」

「わかっているわ」


 勇者はツカサ、女騎士はルティナ、女魔術師はフレアと言うらしい。


「人間なのか?」

「ツカサ、人間に擬態する魔物もいるわよ」


 ツカサが不審そうな視線を私に向ける。そのあとにフレアが付け足すけど、ちょっとあんまりじゃない?


「私は人間、だよ!」


 勝手に魔物にするなー!

 失礼だな、全く。


「本当にか?」

「本当に!」

「しかし、この森に普通の人間は入ることは出来ないはずだが」


 ルティナの殺気は収まらない。


 相変わらず私は不審人物のままだ。

 まあね、迷いの森だもんね。

 私みたいなのがいたら普通に怪しいよね。


「私はこの森のすぐ外に住んでるの。だから、森の中も多少は勝手がわかるの。それにアルがいるから深部まで行かなけりゃなんとかなるの」


 シルヴェリアンウルフだもん、護衛には適任だ。もちろん、アシダカ軍曹たちのことは言わない。


「森の外?」


 ツカサが僅かに首を傾げる。

 迷いの森なんて、特殊地帯の近くに住んでるなんて、そりゃ怪しいよね。

 しかし、今はそこを追及している場合ではない。


「いきなり地響きとか煙が上がったのが見えたら何が起きたかと思うでしょ!」


 とりあえず、先制攻撃。私はツカサを睨んだ。


「お、おう」


 一瞬、ツカサが怯む。

 対してルティナとフレアの視線の圧が怖いよう。

 しかし、私は負けない。


「ついでに言わせて貰うけどね。森を焼け野はらにされたら困るのよ」

「魔物の駆除をしてやってんだぞ」

「魔物討伐は仕方ないけど、焼け野はらにする意味ある? この森にはね。珍しい薬草とかあるの。私はそれを売って生活してるの。大事な薬草がなくなると困るの」

「結局は自分のためではないか」


 ルティナが呆れたように言う。


「当たり前でしょ。でなきゃ、こんな危ない森の近くに住まないよ」


 指摘通り、自分のためだが、貴重な薬草を燃やされたら困るのは、私だけではない。


「そもそもね。魔物一匹倒すのに、こんなに力使う必要ある?」


 絶対に過剰戦力でしょうが。

 焼け野はらとか、本当に困る。


「時と場合を考えてって言ってるの。例えば、家にゴキブリが出たとするでしょ。ゴキブリだったら棒で叩けば良いのに、荷物一杯積んだ馬車を突っ込ませるようなものなの。ゴキブリは潰れるかもしれないけど、家まで潰れちゃったら、これからどうやって生活したらいいの? そういう話なの」


 例えとしてはアレだけど、私が言いたいことは伝わったみたい。

 ツカサは、申し訳なさそうな顔をした。


「悪かった」

「わかってくれたら良いのよ。とにかく、気をつけてね」


 私は手を挙げると、そのまま回れ右をして歩き出した。

 言いたいことは言った。

 後は速やかに、退散するのみ。


「なあ!」


 そう思ってたのに、ツカサに呼び止められた。

 仕方なしに立ち止まる。


「なに?」

「名前、なんて言うんだ? 俺はツカサ」

「…リムだよ」

「そうか」

「じゃあね」


 今度こそ背を向けて歩き出す。

 森に入ってから、アルに視線を向けた。

 アルはわかってる、と言う風に身を屈める。


「じゃあ、アル。よろしく」


 アルの背に股がると、アルが駆け出した。

 家の方には向かって欲しくないと言う気持ちを汲んで、家とは違う方向ほ走ってくれる。


 ある程度離れたところで、アルが止まる。


 なんで、ここ?


 と思ったら、前方にアシダカ軍曹の姿が見えた。


「軍曹ー!」


 アルから降りて、アシダカ軍曹に駆け寄る。


「ヤバかったよー」


 アシダカ軍曹は私の言葉に前足をわちゃわちゃ動かした。

 状況はわかっているのだと思う。


「よく堪えてくれたねぇ」


 状況がわかってるなら、森で暴れる勇者にはさぞ腹が立ったことだろう。

 それでも直接対決は堪えてくれた。

 前に私が話してたのを覚えていてくれたんだね。


 相手が勇者じゃね。

 勝っても負けても、相当面倒くさいことになるよね。

 アシダカ軍曹が勝ったら、軍隊が押し寄せて来るだろうし、アシダカ軍曹が負けたら…あーそれは考えたくない。


 今のツカサを見る限り、アシダカ軍曹は負けないだろうけど。


 それに。


「話をした感じ、ツカサは悪い子じゃなさそうなんだけどね」


 話せばわかってくれた。これは重要なことだ。

 ちゃんと聞くことができる性格なんだ。

 実に大切な素養なのだから。


 問題は。


「あの二人だよね」


 ルティナとフレアだっけ?

 あの二人は、正直ヤバい。

 ずっと私のこと睨んでいた。

 私がちょっとでも不審な動きを見せたら、絶対に殺る気で来ただろう。


 確かに私は不審人物だけど、敵愾心? が半端じゃなかった。

 余裕がないとかそういうのじゃなく、完全に邪魔者と言うかそんな扱い。いや、魔物の括りに入れられてる気がする。


 それくらいの殺気を向けられていた。

 気付かない振りするの、大変だった。


 ツカサの魔物討伐を遮ったのがそんなに腹に据えかねることだったんだろうか。


 あんな怖い人たちと、ツカサはよく一緒にいられるよね。


「もう、関わり合いになりたくないなあ」


 ため息をつきながら、私は遠回りをして帰った。


 玄関では、戻ってきたラルガ、ラトリを含めた皆が待ち構えていた。


 独りで行くなと、ラルガには小一時間ほど説教された。


 心配かけてごめんね。




とうとう出会ってしまった・・・

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