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3-2 王都について


「王都について知りたいと聞いたのだが?」

「………………」


 今、私の目の前には、サブマスのロイドがいる。最近、顔色がよくなってきたらしい。確かに、眉間の皺は若干薄くなっているような?

 胃薬が効いているんだね。


 でもって、当然ここはサブマスの執務室。


 教会を出てから、ウィリアムを見つけて、王都について聞いてみた。

 ウィリアムたちが町に居たのは偶々だ。

 ウィリアムたちも別に、うちから町の行き来だけが仕事じゃないしね。

 明朝には一旦町を出るらしいので、大変よいタイミングだった。


 とりあえず、今ウィリアムたちが知ってることだけでも良いから教えて欲しかったのに、何故かウィリアムはそのままサブマスに投げた。


 いや、そこまで求めてないよ?

 頼んでないよ?


 王都について教えて? で、サブマスまで行ったらダメでしょ。

 明らかに、私、サブマスの仕事の邪魔でしょ?


「どうかしたのかね?」

「いや、なんでサブマスまで話が行ったのかなあ、って」


 どういうラインなのよ。

 報連相は大事だけど、なんか違うと思うの。


「君に関わる案件は、とりあえず私のところに来るようにしているのだが?」

「ソウデスカ」


 当然のように言われてしまった。

 そうかー。

 そういう案件なのかー。


「で、何が知りたいのかね?」


 仕方ない。

 ウィリアムに聞くより、確実な情報が手に入るよね。

 サブマスなんだもん。


「王都で最近変わったことないかなあって」

「変わったこと?」


 サブマスは怪訝そうに首を傾げだ。

 うーん、質問がざっくりし過ぎたか。


「…教会に行った時にね」


 どのあたりを取っ掛かりにしたら良いかなあ。

 下手なこと言ったら不味いしね。


「でね。女神様からちょっと」

「神託があったのかね?」


 サブマスがずいと身を乗り出してきた。


「んー、そんなところ。で、王都には気を付けろって。っていうか、王都の偉い人?」

「何故、君が?」

「軍曹とかその辺? かなあ? それくらいしか、私も思い付かないんだけどね」


 うっそでーす。

 心当たりはバシバシでーす。


 でも、アシダカ軍曹を話に出せば何とかなるかな、とか思ったり。


 案の定っていうか、サブマスは追求してこないよ。


 やっぱり、アシダカ軍曹はヤバい認定されてるのね。


 サブマスは少し考えて話始めた。


「…噂だが、以前王都で大きな魔力が動いたらしい」

「魔力…」

「一瞬で消えたそうだが…魔力を感知できる者の間で騒ぎになった。何でも魔法宮で魔法実験が失敗したと…」

「実験の失敗…」

「しかし、奇妙なことにこの失敗の責任を取った者はいないらしい」

「大きな魔力が消える程の失敗なのに?」

「比喩どころか物理的に、誰かしらの首が跳んでもおかしくないのに、だ」


 なるほどー。


 そういう話になってるんだ。


 大きな魔力の消失って、召喚魔法のことだよね。他の国の魔力を掠め取ったとかいうやつ。


 さぞ大きな魔力だったんだろう。三人も召喚しちゃったんだから。

 引き摺り込むだけなら、私もいたから四人かあ。召喚途中で私はイリスに助けられたけどね。


 それだけの魔力は大きいよね。さすがに誰も気付かない訳がないか。


 けど、イリスの話では、まだ三人の存在は公に出来ない。

 だから、召喚について公表も出来ない。動いた魔力も同様に。


 しかし、魔力の動きはバレバレなので、実験の失敗にした訳だ。


 無理やりだなあ。杜撰過ぎる。

 絶対、後で破綻するよ。

 それとも、破綻する前に何とか三人を仕上げたいと言うことだろうか。


「一体、何の実験をしたんだろう?」


 しらばっくれて、首を傾げて見せる。


 サブマスは少し考えて口を開いた。


「実のところ、実験は成功していると、見ている者もいる。成功していながら、それを公表できないようなものなど、録なものではないだろうが」

「そんなにヤバいもの?」

「兵器ではないかと、ギルド側は推測している。強力な兵器ならば、その存在を隠すのも頷ける。そしてアシダカ軍曹に関わる可能性も見えてくる」

「兵器と軍曹? の関係?」


  なんか、話が大きくなってきた。


「兵器ならば、実証実験が必要ではないか? アシダカ軍曹などは丁度よいとも言える。これは迷いの森の魔物全般に言えるが」

「あー、兵器の威力を試すのに軍曹とかにぶつける、みたいな? めちゃめちゃヤバそうだよね。軍曹が大マジで激怒したら、私止める自信ないよ」

「私としても、そのような事態は考えたくもない」


 サブマスは胃の辺りを押さえて呻いた。眉間の皺付きだ。

 本気で怒ったアシダカ軍曹が私の言うこと聞いてくれるとは思えない。流石にそこは楽観できない。抑えるのなら、私も命懸けだろうね。

 きっと、それくらいの覚悟がいる。

 怖い話だよ。


 そして、私が止められなかった場合、被害がどこまで及ぶだろうか。


 もう…考えたくもないよね。


「…王都には関わらないようにしたいよね」

「こちらが避けても、向こうから関わってくるかも知れない。王都の動きには注意しておこう」

「お願いします」


 お互いの安寧のために、王都には注意していこうと言うことで話がまとまり、私はサブマスの執務室を後にした。


 いやあ、兵器か。そういう話になってるんだ。


 まあね。

 勇者とか賢者とか本来の力が全開なら、兵器みたいなものだよね。


 大体、召喚した側はそのつもりなんだろうし。


 三人の力を見せ付けて、周辺諸国へのアドバンテージを取りたかったんだよね。

 でも、三人はそれができるほどの力はまだない。

 さぞ、やきもきしてるんだろうな。


 今のところ、私は静観するしかないんだけどね。


 出来れば何事もなければよいなあ、などとしみじみ考えつつ、私はギルドを後にした。


 それから、市場で調味料や卵や牛乳やらを買って帰ることにする。


 帰り道、アシダカ軍曹の背中に座り考える。

 これからどうしたものか。まあ、やれることなんて特にはないんだけど。

 でも、サブマスが言っていた実証実験あたりが一番あり得そうで嫌だよね。


 アシダカ軍曹はそんな私を不審に思ったようで立ち止まった。


「…私さあ。勇者と賢者と聖女の召喚に巻き込まれてここに来たの。知ってた?」


 私の問いにアシダカ軍曹はゆらゆら揺れる。雰囲気としては知らなかった模様。


「女神様から聞いてない?」


 今度は肯定な感じ。


「そっかあ。とりあえずよろしく、的な?」


 びよん、アシダカ軍曹が跳ねた。


 そっかあ…そんなにテキトーな話だったのかあ。

 まあ、基本的に干渉はしないスタンスだもんね。どんな形であってもアシダカ軍曹に私のことを頼んでくれたのだから、十分ありがたい話だよね。


 そうは言うものの。


「軍曹…私が言うのも何だけど、よく付き合ってくれたよね」


 アシダカ軍曹からしたら、女神に頼まれとは言え完璧不審人物じゃない?

 本当に、よく付き合ってくれたと思うわ。


 前に、イリスが言ってたように、アシダカ軍曹を前に騒がなかったとしてもさ。


 しみじみ言えば、アシダカ軍曹はゆらゆら揺れる。


 まあ、仕様がないよねー。


 みたいな感じで。


「でさ」


 アシダカ軍曹改めてありがとう、と言うほのぼのやり取りはここまでにして、本題に入る。


「さっきも言ってたように、勇者と賢者と聖女がいるのね。しかもまだ仕上がってない感じで」


 ゆらり、アシダカ軍曹が揺れる。


 ふーん。


 って、気の無さそうな反応。


 私は話を続ける。


「サブマスが心配してるのは兵器の実証実験なんだよね。私もそこが心配なのよ。勇者や賢者のレベル上げにこっちに来るんじゃないかって」


 何せここは迷いの森。高ランクの魔物はうじゃうじゃいる。

 レベル上げにはもってこいの場所だ。

 利用しない訳がないよね。


「でさ。私としては、万が一勇者とかが来たら、軍曹は戦って欲しくないんだよね」


 びよん。


 アシダカ軍曹が跳ねる。ひぃちゃんも肩掛け鞄から出て来て、ぽよぽよ跳ねる。


 抗議、かな。


 勇者になんか負けないって?


 ああ、うん。そこは心配してないよ。


「まあ、アシダカ軍曹が勝つとは私も思うんだよね。問題はさ。勝った後なんだよね。メンツがどうだとか言ってさ、軍隊とか出して来ると思うんだよね。で、この森をぐっちゃぐちゃに荒らすと思うんだ。そうなるとさ、もう軍曹討伐なんて二の次になるだろうし」


 他国の魔力を掠め取ってまで召喚した勇者がアシダカ軍曹に敗れたら、面目丸潰れじゃない?


 絶対、逆恨みでアシダカ軍曹を倒そうとすると思うんだよね。

 討伐隊組んででもさ。


 そうなると、ただでは済まないよねー。

 大体さ。

 私はアシダカ軍曹側に付くし。

 残念ながら、会ったこともない勇者一行に思い入れはない。今まで私のこと気にかけて助けてくれた、アシダカ軍曹たちの方が大事だもん。

 そうなると、泥沼間違いなし。だよね。


「逆恨みとか、人間の執念とか半端ないからね」


 ゆらーん。

 アシダカ軍曹てひぃちゃんが揺れる。


 思い当たることがあるようだ。人間の執念を知っているのか。


 あまり追及しないどこう。


「絶対面倒くさいことになるだろうから、もういっそ対峙しないことを推奨したい。万が一勇者とかが来たら、ソッコー退避。関わらない、相手にしない。しかないと思うんだ」


 それで諦めてくれたらラッキーだ。


 駄目だったら…


「最悪、この国から出て行ったら良いんだし」


 そう。

 こんな国から逃げてしまえば良いのだ。


 イリスと話した、エルメイルに行くのもいいかも。


「私はさ。軍曹たちに怪我して欲しくないんだよ」


 人間なんかのために傷付いて欲しくない。痛い思いして欲しくない。


 それこそ、人間ごときの矜持なんかのために。


 私にとって、それが一番切実な問題なんだ。


 私の気持ちが伝わったのか、アシダカ軍曹たちはゆらゆらした後、私の提案を受け入れてくれた、ようだ。

 なんか、渋々感が滲み出ていたけど、約束は守ってくれると信じたい。


 まあ。


 関わらないのが一番なんだけどね。

 ホント。




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