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3-4 再びの召喚者


 勇者たちには関わらないぞ、の決意も新たにしたわけだけど。

 だからといって日常生活に何か変化がある訳でもない。


 みんなにはツカサたちの特徴を伝えて、この間のような騒ぎがあっても絶対に近付くなと言っておいたけど。

 まあ、言われるまでもなく近付く訳がないと返されたけどね。


 などと、話していた時もありました。

 だけど、現実はままならないのよねー。


 その日私は、セトと一緒に畑の薬草の様子を見ながら雑草を抜いていた。セトのお陰で薬草の発育も順調だ。

 なんて、セトとニコニコ笑いながら話をしていた時だ。


「あ、いたいた!」


 なんか、聞き覚えのある声が響いた。


 誰かと思って振り返った私はそのまま固まる。


「な、なんで…?」


 こちらに向かって機嫌も宜しくやって来るのはツカサだった。

 森で会った時と同じような格好だ。今日も森でレベル上げしてきたんだろうか。今から行くんだろうか。


 それにしたって。

 マジで、なんで?

 なぜ、ここにいるの?


「本当に、森の近くに住んでいるんだな?」


 私の動揺を他所に、ツカサは実にフレンドリーだ。

 背後に付く、ルティナとフレアとの温度差が激し過ぎる。二人の顔は相変わらず怖い。まるで私のこと、親の仇みたいな顔で睨んでいる。


 なんで?

 私べつに何もしてないよね?


「どうしてここがわかったの?」

「森の近くの家はここしかなかったから、調べたらすぐわかった」


 そうかー。


 確かに迷いの森の近くに建ってる家はここしかないだろう。

 それなりの結界が張れないと、ひたすらに危険だもんね。


 うちは、アシダカ軍曹やアルもいるから、攻守とも心配ないけど。


 でもそんな家、調べたらすぐに解るよね。森の魔女の家なんて、特に。


「そ、それで今日は何しに?」

「この間のこと謝ろうと思って」


 あくまでにこやかにツカサは言った。


「謝る?」

「俺さ。周りのこと何にも考えてなくて魔法ぶっ放してたんだ。魔物倒せばいいだろって。でも、それやって薬草とか根刮ぎ燃やしたらやっぱマズいよな」


 なるほどー。


 私の勢いだけの文句を聞いて、反省してくれたんだ。

 なんか申し訳ない。


 でも、私なんかの話を真面目に受け止めてくれたんだ。

 いい子だなあ。

 召喚した側はアレだけど、召喚された勇者たちはいい子なんだね。


 大丈夫なのかな。

 こんないい子が、国に使われるだけなんて。

 お姉さん、心配だよ。


「それにしても、こんな所でよく暮らしてるな。危ないだろ?」

「ミーアお婆ちゃんの結界のお陰で、この中はそれほどでもないよ」

「ミーアお婆ちゃん?」

「先代の森の魔女。もういないんだけどね」

「そうか…」


 ツカサは言葉に詰まった。

 無神経なこと言ったと後悔している顔だ。

 無神経どころか、私もミーアお婆ちゃんには会ったこともないんだけどね。もちろん、最初のアレはノーカンよ。ノーカン。


「独り、じゃないんだよな」

「うん、独りじゃないよ」


 ツカサはチラチラと、私の背後数メートルまで下がってしまったセトに視線を向けている。セトの真横にはアルが控えている。とりあえず、セトは安心?


 ツカサはさっきからチラ見してるから、余程セトが気になるんだろう。

 多分、セトが兎の亜人だから。

 この国は亜人差別が強いらしいから、王都ではほとんど会わないんじゃないかな。

 物珍しいんだろうな。


「あの子は…」

「セト? がどうかした?」


 とりあえず、しらばっくれとく。


「亜人なんだな…」

「うん、畑を手伝ってもらってる」

「そっか。この辺りだと亜人もいるんだな」

「いるよ。都会じゃいないみたいだけど」

「そーなんだよ」


 ツカサは何だか残念そうな顔をしている。

 まあ、魔法と同じく亜人って異世界転移の醍醐味だよね。


 だから興味津々なんだろうけど、後ろの二人は全くフレンドリーではないので、このまま話を広げない。


 ラトリたちも近くにいるようだけど、姿を見せないのはツカサではなく後ろの二人を警戒しているからだろう。同様の理由でひぃちゃんもふぅちゃんも隠れている。完全に気配がないのは流石だ。

 もしかしたらアシダカ軍曹も近くにいたりするんだろうか。アシダカ軍曹の気配も判らないんだけど。

 まあ気配があったら、確実に臨戦態勢だよね。阿鼻叫喚だよね。血で血を洗っちゃうよね。


 二人がとりあえず警戒に止めているのは、ラトリたちや私たちは、余裕で片付けられるってことなんだろう。


 やだやだ。

 野蛮だわあ。


「ツカサ、そろそろ行くぞ」

「ああ、わかった」


 痺れを切らしてルティナが促せば、ツカサは頷く。


 やれやれ、ようやくお帰り頂けると言うことかな。


「じゃあ、またな」

「え、また?」


 ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、爆弾発言を一方的に残して、ツカサは颯爽と森に向かった。


 私は呆然とその後ろ姿を見つめることしかできない。


「またって言ったよね? また、来るってこと?」

「そうだろうな」


 どこからかラルガがふらりと姿を現す。

 その後からラトリとフォリも来る。

 三人とも後頭部の毛が逆立っているのは、それだけ警戒していたと言うこと。

 つまり、かなりヤバい。


「ツカサって奴、かなり強いな」

「強いだけならまだなんとかなる。問題は後ろの二人だ」


 ラトリが呟いたのを拾ってラルガが続く。


「あいつらは、ヤバい」

「私もそういう気はしたんだ」

「セトを見る目、酷いもんだった」

「私たちがなにしたって言うのよ」


 完全に亜人を見下していた。いや、見下すどころじゃなかった。

 道端の石、ならまだよい方だ。石に悪感情を持っている人は少ない。むしろ無関心だ。

 だけど、二人がセトに向けた感情は嫌悪だった。


 害獣、もしくは害虫レベル。

 なんだってまたそこまで悪感情を抱かないといけないんだろう。

 私にはさっぱり解らない。

 多分、一生解らない。


「でも、また来るんだよね」


 二度と会わないなら、あーやだやだ。で済むけどね。

 それだけじゃ、済まないんだろうねぇ。

 はあ。


「とりあえず、リム」

「うん?」

「いつでも逃げられる準備はしておいた方がいいだろうな」

「そこまで?」


 ラルガの警戒度は、私が思っていた以上だった。マジか。

 でもラルガたちの方が、私より勘が鋭いのは確かだろうから、ここは話を聞いておいた方がよさそう。


「明日から、準備していこうか」

「今日からじゃないの?」


 フォリが首を傾げる。

 うん、善は急げとは言うけどねぇ。


「準備してる間に、また来たらまずいしね。大丈夫だとは思うけど」

「次いつ来るか解らないのがな…」

「この間のことを考えると、数日は空きそうだよな?」


 ラトリが指を折って、この間から今日までの日数を数えている。


「とりあえず、、明日、明後日は大丈夫だとして、まずは何の準備をするかリストを作ろうか」

「一時避難先も身繕いたいな」

「森を探すなら、いつでもできるよ」

「その時は、ひぃちゃんかふぅちゃんを連れて行ってね」


 やっておいた方が良いことを口々にに言いながら、皆家に入る。


 ふぅちゃんはアルの背中に乗って、森の方へと向かうようだ。


「何かあったら教えてね。アルも気をつけて」


 軽く吠え返すアルたちを見送って、ドアを閉じた。


 結局、その日はツカサが戻ってくることはなかった。


 


やばい!年を越してしまった!

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