表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/55

2-4 増える迷子

モフモフ成分増量中。


 セトをベッドに寝かせ、皿を片付けてから再び外に出る。


 フォリとラトリは無事なんだろうか。


 セトが何日さ迷っていたかはわからない。

 一日や二日でないことは解る。

 そんな日数、子供が迷いの森を生き延びるのは難しいんじゃないかな。


 あまり、楽観はできない。

 最悪の事態も予想しておかないと…


 そんな重たい気持ちを抱えて、一時間ほどもんもんとしていると、


「ちくしょー! 放せよっ! フォリに何かしたら、絶対に許さないからな!」


 なんか騒がしいのが近付いてくる。


 フォリがどうのと言っているから、この怒鳴り声の主はラトリだね。

 元気のよろしいことで。拍子抜けしたけど、元気なのは良いことだよ。

 ただ、フォリの声が聞こえないのが気にかかるよね。


 声がする方を見ていると、アシダカ軍曹が来るのが見えた。

 背中には、糸でぐるぐる巻きにされた二人の姿。小柄だから、子供で合っているよね。


 さっきのラトリの怒鳴り声からして、子供のものだし。


 ラトリはアシダカ軍曹の背中で芋虫みたいにウゴウゴしている。

 フォリは全く動かない。


「軍曹、ひぃちゃん、ふぅちゃん、お帰り」


 アシダカ軍曹は私の目の前に二人を下ろした。


 セトが兎少年だったから、二人も兎人間だと思っていたら違った。

 ラトリとフォリは狼人間だった。


「なんだよ、お前っ!」


 ぐるぐる巻きで地面に転がっているのに、ラトリは私を威嚇してきた。

「落ち着きなって」


 動けない狼少年など、恐るるに足らず。

 そのまま放置でフォリに向かう。


 フォリは体を固定するための糸しか付いていない。

 まあ、暴れなければぐるぐるの必要はないよね。


 セト同様、ぼろ切れみたいなフォリの服を脱がせると、腹部に傷がある。刃物ではなく、何かの爪痕。

 柔らかで丸みのある体は女の子のものだ。


 フォリは狼少女だった。


「怪我してる…」

「フォリに触るなっ!」

「あーもーちょっと静かにして」


 これ、いつの怪我?

 いや、今はそんなことどうでもいい。


 手当てをしないと。


 とりあえず、低級回復薬で傷口を洗って、と。

 ざぱざぱ惜し気もなく、低級回復を傷口にかける私を見て、ラトリ黙った。

 フォリを助けようとしてるのに、ようやく気付いたようだ。


 うーん、低級回復薬では傷は塞がらないなあ。

 でも、血や汚れは取れた。

 じゃあ、中級回復薬。


 これ、まだ一つしかないんだよね。

 中級への道は遠い。


 傷口に中級回復薬をかける。傷口は塞がったみたいだけど、油断するとまた開きそうだ。

 後で包帯、巻いておこう。

 次は低級回復薬を飲ませて、と。

 これが今私の出来る精一杯だよ。


「…ラトリ?」


 ラトリの騒ぎ声を聞き付けたのか、セトが起きてきた。

 そっとドアから顔を覗かせ、地面に転がるラトリを見てびくっと体をすくませる。


「…な、なんで…?」

「ああ、うん。だって、暴れられたら困っちゃうんだもん」


 ぐるぐるの理由を言うと、セトは『あー』って顔をした。

 納得することがあるらしく、それ以上何も言わない。


 そして、フォリに気付く。


「フォリっ!」


 駆け寄るセトは不安そうに私を見上げた。


「フォリは助かる?」

「私は医者じゃないから、何とも言えないけど、出来る手当てはしたよ。後はフォリの体力次第だね」

「フォリ…」


 他に出来ることはない。

 私はフォリの体を洗浄、乾燥した。

 灰色かと思ったら銀色なのね。

 綺麗になったところでフォリを抱き上げる。


 ぐ、ちょっと苦しい。

 抱き上げるの無理だ。背負おう。

 それがいい。途中で落っことす訳にはいかないんだし。


「ベッドに寝かせてくる」


 静かになったラトリと、沈んだ顔のセトを残して寝室に向かう。

 出来るだけそっとフォリをベッドに寝かせ、包帯を巻く。あと枕元に貫頭依みたいな着替えを置いてから、セトたちのところに戻った。


 セトに起こしてもらったらしいラトリが座り込んでセトと話をしている。

 私が戻って来たのに気付くと、ラトリは深々と頭を下げた。


「セトに聞いた。セトとフォリを助けてくれて、ありがとう」


 おや、ちゃんとお礼が言えるんだね。

 感心、感心。


「もう、暴れないね?」

「暴れない」

「わかった。軍曹、糸を切ってくれる?」


 私が頼むと、アシダカ軍曹は前足を振り上げ、シャキーンと糸を切った。


 やっと自由になったラトリは、目の前のアシダカ軍曹を見上げて真っ青になった。セトはガタガタ震えてラトリにしがみつく。


 君ら…今、ようやくアシダカ軍曹の存在に気付いたね。

 ラトリは、頭が冷えて冷静になったから、余計に怖くなったんだろうね。

 それだけフォリが心配だったってことだね。


「フォレストブラックスパイダー…」

「ああ、大丈夫だよ。軍曹がやる気なら一撃だから」

「グンソウ?」

「そう、軍曹」


 セトが恐る恐る顔を上げる。


「俺、滅茶苦茶怒鳴った…」

「そんなに気にしてないと思うけど…まあ、謝っておいたら?」

「ごめんなさい」


 ラトリはアシダカ軍曹に向かって土下座した。

 アシダカ軍曹は前足を上げる。

 許すってことでいいのだろう。


「とりあえず、ご飯作ろうか。お腹空いたでしょ?」


 私の問いにラトリはブンブンと首を縦に振り、アシダカ軍曹はするすると小屋の中に入った。


 今日はアシダカ軍曹も食べるんだね。


「わかった…と、その前に」


 ラトリに洗浄と乾燥をかける。

 やっぱりラトリも銀の毛並みだ。


「ラトリとフォリは兄弟?」

「フォリは妹だよ」

「ああ、だから似た毛並みなのね」


 納得。


 疑問が解消されたところで台所に向かう。


 何を作ろうか。

 バランス良く栄養取れるのはシチューかな。

 野菜もゴロゴロ入れて、肉は肉団子にして。


 まな板に、鳥と猪の肉を出して、細かく刻んで包丁の背でドコドコ叩く。多少塊が残っても気にしない。卵で纏めちゃうし。

 鍋は二つ用意して、じゃがいもやにんじんを入れて火を通す。

 大体煮えたところで、一口大の肉団子を放り込む。


 灰汁を取って、全てに火が通ったら、クリームシチューのルウを投入。

 牛乳も入れて、塩気を薄めて。


 よし、できた。


「シチューできたよ」


 台所から出ると、ラトリとセトは外から中を伺っていた。


「なに? 入っといでよ。シチュー食べるでしょ?」


 テーブルに鍋と皿とスプーンを乗せる。

 皿にシチューを注ぐと、ラトリの腹の虫が盛大に鳴った。


「ほら、食べて」


 ようやく二人はテーブルについた。

 そして無言でシチューを食べ始める。


 二人が食べているのを横目で見ながら、もう一つの鍋を抱えて外に出る。


 ひぃちゃんたちがいつの間にか、自分たちの食器を用意していた。


 アル、ひぃちゃん、ふぅちゃん、アシダカ軍曹と並べられた皿にシチューを注ぐ。


「召し上がれ」


 声をかけるまでもなく、ひぃちゃんたちはシチューを食べていた。


 さて、私も食べるか。


 テーブルに戻ると、とっくに食べ終えたラトリが欲しそうに鍋を見つめている。セトはさっきミネストローネもどきを食べたせいか落ち着いている。


 ラトリの皿にお代わりを注ぎ、自分の分も注いで私も少々早い夕御飯を始めた。


 私的には若干薄いシチューだけど、味は悪くない。


 シチューはやっぱり熱いうちに食べないとね。


 フォリの分も残しておいて、とりあえず夕御飯が終わった。


 二人に麦茶を出して、飲んでいる間に後片付けを終える。

 そして、本題。


「落ち着いたところで聞きたいんだけど、君らどうして森にいたの? 迷いの森だよ、いくら獣人? でも無茶じゃない?」


 獣人だから迷いの森を抜けられるってものでもないだろう。

 現実にこの三人は迷っていた訳だから。


「俺たちだって迷いの森には入りたくなかったよ! でも、赤熊の奴らが突然村を襲ったんだ!」

「赤熊?」


 なんか、ヤバそうな感じ。

 グリズリーな熊人間を連想したよ。


「あいつら、自分が物を作れないからって、定期的にあちこちの村を襲って、蓄えていた物全部奪うんだ。それだけじゃない! 子供とか女とか捕まえて奴隷にして売るんだ!」


 かなり凶悪。

 ひどい話だ。

 奴隷になるくらいならって、迷いの森に逃げ込んだってことか。


 究極の選択だね。


「俺の村は、セトみたいな農耕が得意な種族もいるから、結構豊かな方で、前から狙われていたんだ。いろいろ対策してたけど…」


 ついに、襲撃を許してしまった、と。


「なるほど…大変だったね」

「みんなで森に入ったけど、夜中だったし混乱してたしで、はぐれたんだ…みんなはどうしたんだろう…」


 村の子供たちってことか。


「どれくらいで逃げたの?」

「よく解らないけど…ラルガの声が聞こえた奴らは集まってきたから…十人はいったかな」

「君らを探すように軍曹に頼んで、他の子は連れて来なかったから…」

「森には俺たちしかいなかったってこと?」

「そうなるかな。誰がラトリで誰がフォリだなんて、軍曹には見分けられないしね。だから、他の子はいなかったと思うよ」

「逃げてくれてたら、いいんだけど」

「ラルガがいるもん、大丈夫だよ!」


 セトが強い声で言った。


「ラルガ?」

「俺たちの兄貴分。村で一番の狩人なんだ。迷いの森を狩り場にはしてないけど、森には慣れてる。多分」

「ラルガもみんなも無事に森を抜けてるといいね」

「うん…」


 二人は祈るように頷いた。




ピーターさん的なウサギと狼さん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ