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2-5 新しい家族

人が増えた。


 行く当てのない三人をどうするかと言うと、折角助けた手前放り出す訳にも行かない訳で。


「まあ、ここで暮らすしかないよね」

「いいのか?」

「いいの?」

「ホント?」


 フォリも元気になったところで、今後の話し合いをしている。あれからフォリは丸一日眠り、起きたらかなり回復していた。獣人の回復力半端ない。人間だったらまだ二三日は寝込んでいたと思う。

 いや、あの傷なら死んでたかも。


 目を覚ましたフォリはアシダカ軍曹やひぃちゃんたち、アルを見てパニックを起こしかけたが、そこはラトリとセトが全力で宥めた。

 身内が二人いたから、パニックが収まるのも早かった。

 パニックのまま、暴れたりしたら傷が開くところだったよ。危なかった。


 でようやく落ち着いたので今後を話し合ってるって訳。

 結論として私がそう言うと、三人は不安そうにでも期待を浮かべた目をした。


「もう、仕様がないよね。でも、いろいろ手伝ってもらうよ」


 とは言え、何を手伝ってもらおうか。


「僕、畑の薬草、育てるよ! 野菜も育てるよ!」


 真っ先に手を挙げたのはセトだ。


「畑って大丈夫?」

「ラヴィ族は畑仕事得意なんだよ」

「狩りは私たちルファラ族が得意よ」

「ラヴィ、ルファラ…」


 兎族がラヴィ族、狼族がルファラ族。


「赤熊は?」

「…グリゼ…族…」


 ラトリが実に嫌そうに答えた。

 なるほど。

 赤熊にも種族名はあったね。


 雰囲気からして、草食系は農耕が得意で、肉食系は狩猟が得意な感じ?


「だから、私たち狩りをするよ」

「狩りかあ…それもいいかな」

「任せろ」


 ラトリが胸を張った。


「狩りだけじゃなく、畑も手伝いなよ」

「わかった」


 三人は大きく頷いた。


 とりあえず、ふわっとやることが決まった。


 畑仕事が得意って言うのに期待したい。


 私、小さいサボテンしか育てたことしかないし。

 っていうか、栽培系苦手だったのよね。小学校の夏休みの観察、本当嫌だったわあ。


 ガーデニングとか畑仕事とか、絶対向き不向きがあるよね。


 なので畑も、水やりと雑草抜く、失敗作の回復薬を撒くしかしてないし。そもそも何をしたら良いか解らないし。


 だから少しでも得意な人に任せたい。

 年齢、七歳だけど。

 私より遥かに子供だけどっ。そこは、申し訳ないと思うけど。

 ちなみにラトリが十四歳でフォリが十ニ歳だった。まだ、子供の領域だ。


「次の問題は…着る物だよね」

「それは…何とかして欲しい…」


 呟くと三人の耳がへにょりと下がった。

 三人が着てきたものは、完全にボロきれに成り果てて、もはや雑巾にもならなかった。

 今着てるのは、有り合わせ的な、貫頭衣。

 弥生人真っ青な有り様。


「私、独り暮らし予定だから、余分がないのよね」


 私の着替えだって、最低限のものだけだ。

 あと、あるのはミーアお婆ちゃんのもの。

 これは、フォリ用にリメイクするしかない。いや、他にもリメイクできるものがあるかも。


「上に着るのは何とかなるとしても、下着だよね」

「うぅ…」


 フォリが貫頭衣の裾を押さえて俯く。


 申し訳ないことに、貫頭衣の下は真っ裸だ。

 着る物がないと言うことは、そういうことなのだ。


「どこまで、リメイク出来るか…そこからだねぇ」


 ミーアお婆ちゃんの箪笥を開く。

 ワンピースは地味なっていうかシンプルなデザインと作りだからフォリが着ても問題はなさそう。サイズもなんとかなるかな。

 作業用なのか、チュニックとズボンもあった。 これはセトにも応用できるかな。


 あと…生なりのサラシが一反。

 お婆ちゃんも自作してたのか。それが普通なのか。普通なんだろうな。こんな僻地だと。

 でも、これだけあれば簡単な作りのものは作れる、かな?


「下着は頑張って縫うよ。フォリ、手伝ってね」

「が、頑張る…」


 フォリは自信なさそうに頷いた。


 そこから七転八倒で、下着を作る。

 直線で貫頭衣アレンジ、お腹までの丈。下は、半ズボンみたいなの。腰は紐を通して縛るようにした。

 ミシンがないから当然手縫いでちくちくと。

 糸は足りなさそうだったけど、ひぃちゃんたちの糸で補った。ひぃちゃんたちの糸は、その辺の糸より丈夫だもんね。

 直線に縫うだけなら、私とフォリの腕でも何とかなったよ。自画自賛。


 尻尾穴は、フォリに任せた。

 私、尻尾ないもん。

 どんな感じのがいいか、解らないもん。


 大きさは大中小。一応二着ずつ。

 当面、足りるでしょ。

 後は、町に買いに行くよ。

 ウィリアムたちに頼むっていう手もあるし。

 今度来た時に相談してみよう。


 下着は全部同じデザインだから、間違え易い。

 セトのは一番小さいから間違えっこないけど、残りは微妙。


「目印に刺繍でもしようか」


 お婆ちゃんの裁縫道具に色糸はあったから。足りなければ、ソーイングセットから使えばいいし。


 まず、赤糸で自分のものにちょこっと花を刺繍する。楕円を花びらに見立てて五枚縫い込めば、それで十分花に見えた。


「あ、悪くない感じ」

「リム、私のも」

「フォリは何色? ピンクでいい?」

「うん」


 ピンクの糸で同じ花を刺繍する。

 一センチくらいの花なので、手間も大してかからない。


「リム、僕も、僕も!」

「セトは…何がいい?」

「何でもいいよ」


 男の子だから、花じゃない方がいいかな。

 じゃあ、葉っぱにしよう。

 輪郭と葉脈を緑の糸で刺繍する。

 なんか、かなり簡単にできたけどいいか。


「はい」

「ありがと」

「どういたしまして」


 簡単な刺繍なのに、セトは嬉しそうに笑った。


「俺、俺は狼っ」

「無理だ」

「えー」


 ラトリの希望は速攻却下する。

 何故、この流れで狼とか複雑なものをリクエストするのか。

 今までの出来を見たら、出来る訳ないって解りそうなものなのに。


「もっと、簡単なのにしてよね」

「簡単なのって、なんだよ」

「例えばこんなの?」


 適当に一筆書きできる星を軽く縫い込む。五芒星ってやつね。


「なに、これ?」

「星。私の住んでたところでは、星って言ったらこれ」

「星?」


 ラトリは星をじっと見詰める。

 数秒後、顔を上げた。


「星、カッコいい。俺、星でいい!」

「わかった」


 星、簡単でいいよね。気に入ってくれて助かったよ。


 星も縫い込んで、全員分が完了する。

 これで、間違えることはないね。


 下着が出来て安心したところで、三人は各々こそこそと身に付ける。


「あー、よかった」


 一番ほっとしているのはフォリだった。


 そーだよね。

 そーなるよね。


「次は服かあ…その貫頭衣は寝間着にして、普段着は…フォリはお婆ちゃんのワンピース着て。セトはお婆ちゃんのチュニックとズボンを直して、ラトリは私のチュニックとズボンで我慢して」

「…う、うん」

「わかったよ」

「わかった」


 三人とも微妙な顔をしているが、これはもう仕様がない。

 服を一から作るなんて、私には無理だ。

 でもって、フォリも無理だし、セト、ラトリは論外。


 みんなで我慢するしかないのだ。


「袖、裾だけは見ないとね。ちょっと、着てみて」


 各々に服を渡して着替えさせる。


 フォリは問題なさそう。


「スカートじゃ狩りに行けないよ」

「それは仕方がないから。畑仕事を手伝って。セトは、やっぱり袖も裾も長いね。切るのは勿体ないから、曲げて縫っとこ。ラトリは逆かあ」


 ラトリは、私のチュニックとズボンでは、袖も裾も短い。


「いいよ、これで。動きにくい訳でもないし」

「そうだね。とりあえず、暫くはそれで我慢してね」


 私の言葉に三人は頷いた。っていうか、頷くしかなかった。


 ちなみに、寝るときは寝室にお婆ちゃんのベッドを出しているので、フォリと私、ラトリとセトが一緒に寝ている。


 寝室にベッドを二つ並べると、もうぎちぎちだけど、部屋がないのだから仕方がない。

 作業部屋を空ける訳にもいかない。

 地下室っていうのもあるけど、あれどう考えても倉庫だし。


 増築、しないとまずいかなあ。

 三人が大きくなったら、そもそもベッドで一緒に寝られないよね。


 でも、まだこの家は借家扱いだから、下手にいじるのは良くないかも。

 持ち家になったら本格的に考えよう。


 その時はアシダカ軍曹に木材を用意してもらって。

 大工さんも手配した方がいいのかな?

 増築って、幾らくらい掛かるんだろう?


 一年後の増築を考えて、お金も貯めないとだね。


 うん、今後の生活目標が出来てきたよ。


 私の今後の目標は、三人を無事に独り立ちさせることだね。


 頑張ろう。






ミシンは偉大。

昔の人も偉大。

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