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2-3 迷子発見

2-4を先に投稿してました

ご指摘ありがとうございます。


 ひぃちゃん、ふぅちゃん、アル時々アシダカ軍曹。

 と言う生活になって、そろそろ半年が過ぎる。


 低級回復薬は、成功率が結構上がった。

 日々の積み重ねってやつだね。


 その流れで、生活魔法もかなり上手く調整できるようになった。


 お陰で最近の生活は快適だ。


 今日は、アルをお供に森に薬草を取りに来ている。

 半年で一回り大きくなったアルは、フォレストウルフに遭遇しても、問題なく撃退してくれる。

 数が多い時は、木の上からひぃちゃんたちが援護をしてくれるから安心だ。


 今日もどこかの枝にいるんだろう。


 そう思うと心強い。


 アルはさすがに狼だけあって鼻がいい。目当ての薬草をあっさり見つけて教えてくれる。

 私だけではこうはいかない。

 教えてくれないと、未だにミズル草を見つけられないんだよね。


 木陰で擬態していると言うか。


 ミズル草を幾つか見つけて、基本のノルマは完了。

 勿論、他の薬草も採っておく。

 これは私でも見つけられる。


 余り森の奥に入りすぎないように注意は怠らない。


 万が一の時は、アルたちが教えてくれるとしても、気を抜きすぎるのは良くないからね。


 と、アルが突然立ち止まった。


「?」


 つられて私も立ち止まる。

 アルは警戒するように耳をピンと立て、前方を見つめている。

 余り、殺気立った感じではない。


 アルの視線を追うと、前方になんか毛玉があった。


 一抱え以上ある、茶色の毛玉。

 小刻みに動いている。生きているらしい。

 毛玉は、土を食べている?


 土を食べる毛玉…謎だ。


 アルの様子は変わらない。


 近付いて良いものか。


 一歩を踏み出すと、小枝を踏んだ。


 ぱきり。


 小さな音だったけど、聞こえたらしい毛玉は動きを止め、恐る恐るこちらを振り返る。


 振り返ってみて判る。


 毛玉は、兎…兎人間だった。耳が小さめのピーターさんちの兎。

 っていうか、兎少年。


「あ、ごめん」


 とりあえず謝ったら、兎少年は文字通りぴょんと飛び上がり、近くの木の根元で踞り、ぶるぶる震えた。


「ご、ごめんなさい…」

「や、別に謝らなくても…なに、してるの? 土じゃなくて…木の根っこ食べてるの?」


 兎少年が手にしているのは、土じゃなくて土のついた木の根だった。


 木の根って…美味しいの?

 美味しくないよね。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 兎少年は震えている。


 ぼろ切れのような服を着ているだけの体は、毛並みも悪い。

 何か訳ありなのは、一目瞭然だ。


 どうしたものか…


 見捨てるのは、気分が悪い。

 あの兎少年に私を関わらせたくないのなら、ひぃちゃんたちがきっと先回りして手を打っているだろうから、私は多分兎少年に関わっても良いのだと思う。


 でも、あんなに怯えている状態で近付いてもいいんだろうか。


 これは…餌付けから、かな。


 餌付けって言っても、いきなり食べ物も消化に悪そうだし。

 そうなると、飲み物。

 栄養あるものは、野菜ジュースとか豆乳とか。


 豆乳がいいかな。

 ちょっと水で薄めたら、飲み慣れてなくても喉越しはいいだろうし。


 私は空間収納から、麦芽豆乳を取り出し、コップに半分入れて水で薄める。


 それを手に、そっと歩み寄る。


「あのさ、根っこは美味しくないよね。これ、飲んでみない? 甘くて美味しいよ」

「甘い…」


 兎少年がぴくんと頭を震わせ、こちらを見る。

 鼻をひくひくさせるから、屈んだ姿勢のままコップだけを差し出した。


 兎少年のお腹がぐうぅと鳴った。


 空腹だよね。木の根っこを食べるくらいだもん。

 空腹に耐え兼ねて、そろそろと伸ばされた手がコップごと私の手を掴む。

 一口飲むと後は早かった。兎少年は一気にコップの中身を飲み干す。勢い付きすぎてむせないように、コップの傾け方は私が調整した。

 あっという間にコップの豆乳を飲み干したので、残りをコップに注ぐ。

 こちらも薄めて差し出すと、先刻よりは落ち着いてゆっくりと飲んでいく。


 兎少年はほっと息を付いて、その場に座り込んだ。


「……あ、ありがと…」

「うん、どういたしまして。ところで、私は家に帰るんだけど、君はどうする? ついて来る。家にはスープとかあるよ」


 立ち上がる私を兎少年が見上げる。


「私の家は森のすぐ外にあるんだよ」

「ぇ……ぅ……」


 兎少年は不安そうに私を見上げる。

 残念。まだ胃袋は掴みきれていないか。


 このままでは埒が開かない。

 私は兎少年を抱き上げた。


「家に行こう。で、美味しいご飯を食べよう」


 兎少年は暴れなかった。豆乳を飲んだくらいじゃ、そんな力は出ない。

 だから私は兎少年を連れて帰ることにした。


「ねえ、名前はなんて言うの? 私はリムだよ」

「…………セト…」

「そっかあ、セトっていうんだね。家はすぐだからね」


 小さくて、びっくりするほど軽いセトを抱っこしたまま、私は家に向かった。


 帰りも、アルやひぃちゃんたちのお陰で魔物に遭うことはなかった。


 森を抜けて家の前に出ると、セトはぽかんと口を開けていた。


「家…本当に…」

「嘘なんか言わないよ」


 玄関の前でセトを下ろす。

 家の中に入れてもいいけど、いきなり閉鎖空間はまずいかな。


「ちょっと待ってて」


 玄関のドアを開けたまま、中に入る。

 向かうのは台所だ。

 確か、トマジューベースのミネストローネもどきが残ってたはず。


 それを温めて、スープ皿に入れてスプーンを手に戻る。

 セトは所在無げに立ち尽くしていた。


「お待たせ。トマトは食べられる?」

「…うん」

「そう良かった。スープ温めてきたよ。食べて」


 玄関先に座り込むと、セトも目の前に座る。


 ベンチとか欲しかった。

 今度、ウィリアムたちが来たら頼んでみよう。


 セトに皿とスプーンを差し出す。

 先刻の豆乳のことがあったせいか、セトは疑うことなくミネストローネもどきを口にした。


「…美味しい」

「そう? 口に合ったなら良かった」


 トマトジュースはそれだけで、味が整っているからいいスープになるんだよね。


 セトは黙々とミネストローネもどきを食べていた。


「う…うぇ…うっ…」


 いきなりしゃくりあげる。

 え、喉に詰まった?


「どうしたの? 大丈夫?」


 背中を擦っていると、セトが顔を上げる。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。


 泣きながら食べてたんだね。


 ようやく、泣くっことに気持ちが向かうようになったんだ。


「大丈夫だよ。ここなら、怖いことはないよ」


 この子は独りでどれくらい森をさ迷っていたんだろたう。

 食べ物もなく、木の根を掘り出してかじるのが精一杯だったんだろうね。


 辛かったろうね。


 泣きながら、セトは皿を地面置くと、私に向かって土下座した。


「お、お願い、です。フォリとラトリを、た、助けて、くださいっ」

「フォリ? ラトリ? もしかして一緒に森に入ったの!?」


 なんてことだ。

 他にも森に入った子供がいるなんて。


「その二人とははぐれちゃったんだね?」


 土下座の状態でセトが何度も頷いた。


「ひぃちゃん、ふぅちゃん! 軍曹と一緒に子供たちを探してくれる?」


 私の頼みに、ひぃちゃんとふぅちゃんは前足を挙げ、森へと消えていった。


「きっと、探してきてくれるよ」


 セトの背を撫でると、力の抜けた体がくたりと、地面に突っ伏した。


「セト?」


 抱き起こして私も脱力する。

 セトは眠っていた。


 いろいろ限界だったんだね。


 私はセトを抱き上げて、とりあえず洗浄で身綺麗にすると、ベッドに寝かせることにした。


「アル、残ったミネストローネもどき、食べちゃってくれる?」


 元気の良いアルの返事を背に、私はセトと一緒に家の中に入った。





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