2-1 響く奇声
2章始めます。
カエル注意。
森の家で独り暮らしを始めて一ヶ月はあっと言う間だった。
みんながいなくなって、ちょっとは寂しかったけど、アシダカ軍曹がいるし、ひぃちゃんもふぅちゃんもいる。
だから、そんなに寂しさは続かない。
多分、精神耐性のお陰だと思うんだよね。
森での一ヶ月だって、全く寂しくなかったんだもん。
それに、独り暮らしはやることがいろいろあった。
一応、ミーアお婆ちゃんのやってきたことは、やりたいじゃない?
森の魔女とか、格好いいしさ。
でも、本人はもういないから、同じことは出来ない。
近いことは出来ないかなあ、と作業部屋をいろいろ見ていたら、レシピノートみたいなのが出てきた。
殆ど、覚え書きなんだけど、知識ゼロの身としては何もないよりずっといい。
薬草の覚え書き辞典みたいなのもあったし、魔獣のものもあった。
薬草は、ノートを手にほぼ野生化した畑をうろついた。
お陰で、結構薬草知識は身についた。
ラッキィなことに、鑑定のようなものが出来るようになった。
薬草とか鉱石? みたいなのを見る度に、『これ何だろう?』って考えながら観察していたら、突然名前とか説明とかが、頭に浮かんだ。
なんて言うか、忘れてたのを不意に思い出す感じ。
ほら、顔見て名前が思い出せないで、誰だっけ? って考えてたら、不意に名前を思い出す感じ。
そうそう、あれあれ!
みたいな?
あんな感じで、名前とか詳細がわかる。
ただ、これすごい頭を使うので、今のところ結構疲れる。
ゲームみたいに、ピコンと表示が出たら良いのに。そんなに簡単にはいかないか。
もしかしたら、ブライスは表示が出てくるのかも知れない。
まあ、頭を使うので割りとしっかり記憶に残るから、悪いことではないよね。
そんな感じで、始めの一ヶ月は現状に慣れるだけで、すぐに過ぎた。
一ヶ月後に、宣言通りウィリアムのパーティーにクレアとブライスがついて来た。
見慣れたメンバーは、気が楽で助かる。
アシダカ軍曹も警戒しないしね。説明とかも必要ないし。
「回復薬をね、作ってみた訳よ」
「回復薬ですか…拝見しても?」
「どーぞ」
家に入るなり、私は小瓶に入れた水色の液体をクレアに渡す。
「…下級…ですね」
「惜しいっすね。あとちょっとで、中級行けそうなんすけど」
「ですが、一ヶ月で回復薬の制作は修練としては、かなり早いと思います」
「お師匠さんいないのに、すごいっす」
「ありがとー。まあ、三歩進んで二歩下がる感じ? 失敗も多くてさあ」
レシピを見ながら挑戦するんだけど、さすが覚え書き。
魔法水に薬草とスパイスを加えて、魔力を込めて混ぜる。
って言うのを、ざくっと書いてあるだけなんだよね。
薬草なんか、ひと掴みって書いてあるだけ。
当然、ミーアお婆ちゃんのひと掴みと私のひと掴みは違うじゃない?
魔法水は鍋にひたひた、だし。
魔力はそっと、ゆっくり、だし。
お婆ちゃん基準だから、私基準に変換するのにまさに七転八倒。
回復薬は、何度もデロデロの謎な液体になった。
不味い、もう一杯よりもデロい液体。
そんなでも毒ではないので、適当に薄めて畑に蒔いたら、いい感じに薬草は育ちつつある。
植物の回復には効果があるらしい。
ちっとも、慰めになってないけど。
でも…肥料で売れる気がしないでもない。
「分量っていうか、加減が難しいよねぇ」
「それ、リムの課題だものね」
「本当にね」
私の魔力ってどうにも勢いが強いのよね。
微妙な力加減ができないうちは、肥料ばっかり作ることになりそう。
そんなことを話してる間にも、ウィリアムたちは地下室に食材や調味料を運んでくれた。
助かるわあ。
これで向こう二ヶ月は安心だわ。
「今夜は何作ろうかなあ」
「俺、初めて会った時の肉焼いたやつ食べたい!」
呟きに、フリッツが直ぐ様反応した。
本当に食べ物には目敏いし耳敏い。
「しょうが焼きかあ。前と違ってちゃんと生姜あるから、もうちょっとマシなの作れるかな」
「もっと美味しくなるの!」
「そうは言っても、黒い猪の肉はないから、どうかなあ」
「ああ、ブラックボア…」
ウィリアムとコークスが遠い目をした。
味を思い出しているのかも知れない。
あれ、美味しかったもんね。
「ブラックボア?」
「なんすか? もしかして、ブラックボアを食べたんすか!」
「まあねー」
へらっと返したら、ブライスがズルいと地団駄を踏んだ。
それを、クレアが凍えるほど冷たくたしなめた。
「ブライス、みっともない真似をすると、埋めますよ」
「ごめんなさいっすー!」
ブライスが気をつけの姿勢で謝罪を叫ぶ。
そうか…
クレアを怒らせると、埋められるのか。
気を付けよう。
とりあえず、しょうが焼きの準備に取り掛かる。
まあ、めんつゆに生姜足すだけなんだよね。
あとは肉を薄くスライスして…
「ゲコーッ!」
なんかすんごい声らしきものか聞こえた。
「なになになに!?」
「なんだ、今の声?」
尋常ではない様子に、私たちは外に飛び出した。
外では、アシダカ軍曹が上機嫌で蛙を小屋の壁に擦り付けていた。
「ゲコー!」
奇声の発信源は蛙だった。
なんかでっかい蛙…バスケットボールよりでかい。バスケットボールが余裕で入るリュックくらい?
うん、フォルム的にも近い。
そんな蛙を器用に掴んで、壁に擦り付けている。
シュールを通り越して、軽くホラーだよ。
「あれは…グルートードだね」
「何で、グルートード?」
「あれじゃないっすか? 防水の話…」
「あれか…」
ウィリアムか額に手を当てて項垂れた。
「え、なに?」
「来た時に、なんとなく防水の話をしたんだ。防水すると耐久性が上がると」
「で、何で蛙?」
「接着剤なんかも上手く使うと防水効果があるらしいって」
「グルートードは背中の分泌液が接着剤の材料になるんだよー。沼地で踏むと、もー最悪」
「それで、軍曹はグルートードの分泌液を接着剤として小屋の壁に擦り付けてるってこと?」
「多分」
なるほど。
理由はわかったよ。
アシダカ軍曹、自分の小屋をバージョンアップしたかったのね。
でも…蛙は止めて欲しかった。
庭の隅には、捕獲された蛙がまだゴロゴロ転がってる。
ゲコゲコうるさい。
蛙を擦り付けては、接着剤を乾かしている。
まるで職人のようだ。
とっかえひっかえ、蛙を擦り付けて、一通りが終わった頃には、蛙たちは息も絶え絶えな感じになっていた。
「放してあげなね」
あまりに蛙が可哀想で言うと、アシダカ軍曹は蛙たちを一纏めにして森の奥へ消えた。
ちゃんと、放してあげるんだよね?
頼むよ。
「あれだね。軍曹の前では不用意な発言は控えた方がいいね」
「気を付ける…」
そういや、アシダカ軍曹の小屋を作るのも、うっかり発言のせいだったね。
翌日には、丸太の山が出来てたもんね。
教訓。
アシダカ軍曹の行動力を甘く見てはいけない。
私たちは互いに同じことを考えた。
のんびり再開です。




