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閑話1-2 お風呂に入ろう!

なんてことない、話。


 お風呂場ができたら、当然入るよね。


 この三日の練習でお湯は出せるようになったんだ。バケツをひっくり返すレベル。

 シャワーとかはまだ無理だけど、そのうちこれもなんとかなると思っている。

 毎日、お風呂に入って練習してたらきっと上達するって。


「お風呂ですか?」

「うん、せっかくだから、クレアさんもジュエルも入らない?」


 怪訝そうな顔をするクレアに勧めてみる。


「そうですね…」


 考えつつも、割りと乗り気な感じだ。

 お風呂経験があるようだ。

 対してジュエルは微妙な顔をしている。

 庶民はお風呂じゃなくて水浴びとか、体を拭で済ますのが普通なんだよね。


「お風呂? 私は別に…」

「取って置きの、石鹸あるよ?」

「入る!」


 『取って置き』に弱いジュエル。

 解るわー。私もお値打ち品とか、在庫入れ替えにつき、とか言う言葉に弱いのよねー。


「取って置き?」


 クレアが怪訝を通り越して、胡乱そうに私を見る。


「うん、取って置きの頭と体を洗う石鹸」


 間違いなく、こちらの世界の石鹸類よりはいいものだよ。


「入りましょう!」


 クレアの目がきらりと光った。

 あれ、気のせいかな? 猛禽類にロックオンされた鼠になった気分?


「じ、じゃあ、着替え持って手拭い持って……洗面器ない…」


 洗面器、念頭になかった。

 何でお湯を汲めばいいんだろう?


 ちょうど良いのは…持ってきたこのボウルくらいしかない。

 容量は同じくらいなのに、何故洗面器と思うとこんなにも心許ないんだろう…


「仕様がないから、ボウルで代用するよ」


 歩き出す私の後を、クレアとジュエルが着いてくる。


 お風呂場は裏口を出て直ぐのところにした。

 裏に溜め池みたいなのがあって、下水がそちらに溜まるようになってるみたいなんだよね。

 溜め池にはスライムが何匹かいた。スライムが浄化してくれるらしい。便利!


 スライムは今のところ、ベストな数なんだけど、春になると分裂して増えるらしいから、ちゃんと間引かないとヤバいんだって。

 今の数を維持するのが良いんだって。


 残り湯も、こちらに流れるようにしてもらった。もとからある下水道だから増設も簡単だったらしい。

 らしいばっかりだけど、基本私はお任せだからね。


 お風呂場の木戸を開けると、下駄箱用の棚に脱いだ靴を置く。

 木戸に簡単な閂を掛けて一段上がる。

 パーティションの向こうは脱衣場。

 はっきり言って狭い。

 実家のお風呂場に面した洗濯機前くらいのスペース。まあ、棚やフックは幾つか付けてもらったから、使い勝手は悪くないはず。荷物とか着替えとかに使えば、スペースの有効利用だよ。

 三人で脱ぎ着するのには手狭だけど、今回私は脱がないので、良しとする。

 シャンプーとかの説明したいし。なので、袖を捲って裾を折り上げておく。


 酒樽へのお湯はクレアが張ってくれた。

 クレアって生活魔法全般、使えるから助かるわあ。

 攻撃には向かないらしいけど、ギルド職員なら十分だよね。

 私も見習わないと。


 お湯を溜めてる間に、洗い場の棚に小さい瓶を置く。前に言ってた、食卓の梅干し入れくらいのやつ。


 素焼きの模様なしはボディソープ、釉薬が黒いかかってるのがシャンプー、白い釉薬がコンディショナー。

 どれも、木の匙を入れてある。


「とりあえず、一人ずつ行こうか」

「では、私が」


 クレアが洗い場に進む。

 なんてナイスバディー。ボンキュッボンだよ。ダイナマイトだよ。

 ジュエルだって、クレアほどではないにしても、私よりずっとプロポーションは良いし。


 う、羨ましくなんか…羨ましくなんか…………羨ましいよっ! 羨ましいに決まってるでしょ!


 どうせ、私は平たい体族だよ!


「リム…?」


 いかん、不穏な気配が駄々漏れになってた。


「なんでもない…湯船に浸かる前に、体は洗ってね。ボディソープは素焼きの瓶。スプーンで二杯位を濡らした手拭いにつけて、泡だてて」

「スプーン二杯…」


 私が言う通り、濡らした手拭いにボディソープをつけて、くしゅくしゅすると、もっこもこの泡が立った。


「これは!」

「本当に石鹸なの?」

「その泡で撫でるように洗えばいいから」


 ごしごしする必要はない。普通は。

 とりあえず、クレアにもそう言っておく。


 ボディソープのモコモコ泡に、クレアもジュエルも取って置きの石鹸だと納得した。


 クレアが体を洗い、湯船に移動した次はジュエルだ。


 体はクレアと同じように洗ってもらう。

 次は頭だよ。


「クレアさん、お湯を出してもらえる? んとね、ヤカンから出るくらいの量と勢いでそのお湯と同じ温度で」

「わかりました」

「ジュエル、洗ってあげるから目瞑って。これ目に入るとめっちゃ滲みるから」

「あ、うん」


 ジュエルが俯いたところで、クレアにお湯を出してもらう。


「洗髪石鹸もスプーン二杯を目安ね」


 たっぷりお湯で濯いで、シャンプーで洗うけど、一回目は泡が立たなかった。びっくりだよ。

 泡、立たないとか。

 二回目も微妙で、三回目でようやくモコモコの泡が立つ。

 それを濯いで、コンディショナー。

 さらっと濯いで手拭いでまとめて終わり。


「量は大体、スプーン二杯ですか!」

「長さによるかな。肩にかからない位だと一杯で良いよ」

「腰までとなりますと、三杯ですね。あと、洗髪は三回?」

「ううん。モコモコ泡が目安。あれが出るなら三回の必要はないよ。毎日洗うなら一回でいいんじゃないかな。二日おき位だと、二回はいると思う」

「毎日…」


 呟いて、クレアはため息をついた。

 まあ、無限にシャンプーが手に入る私なら毎日は可能だけど、クレアたちは無理だよね。物理的に。


「…次は私ですね」


 しばらく考えていたクレアだけど、ジュエルと交代で湯船から出た。


「ジュエル、お湯をお願いしてもよろしいですか」

「わかりました」

「リム、洗髪は自分でやってみたいのですが…」

「どうぞ。目に入らないように気をつけてね。本っ当に滲みるから」

「わかりました」


 クレアはジュエルにお湯を頼んで自分で洗髪を始めた。

 さっきジュエルにしてあげたのと同じ手順だ。


「…わ…わ…わあ…」


 ジュエルは三回目のモコモコ泡に感嘆の声をあげる。


「私もあんなだったの?」

「そうだよ」


 頭からモコモコ泡が発生することが衝撃のようだ。


 そうだね。

 一般的な石鹸じゃ、そもそもこんな泡は出ないから。


 シャンプーを濯いで、コンディショナーも濯ぐ。


「これは…髪がスルスルに…」

「このスルスルがなくならない程度には、濯いでね」


 クレアも濯ぎ終わり、ジュエルがまずお風呂からあがる。


 クレアももう一度、湯船に戻り、ジュエルが服を着たとこらで湯船から上がった。


 ほこほこの二人が、お風呂から出て、母屋に戻る。


 リビングの椅子に腰掛けて、今度は髪を乾かす。


「髪は温風で出来るだけ早く乾かして、最後に冷風でまとめると良いよ」


 二人は言われるままに、温風と冷風を使って髪を乾かした。


「すっごい、髪がサラサラっ!」

「指通りも輝きも違います!」


 二人は互いの髪を見て、テンションも高い。


「これは…これは、凄すぎます!」


 ものすごい勢いで振り返ったクレアが突進してきた。


「をををっ?」


 近い、近いっ!


 思わずびびって後退るのに、腕をがっちり捕まれて、一歩も動けなかった。


 なにこれ怖い。猛獣に補食される草食動物の気分。


「リム!」

「はいっ」

「この洗髪石鹸を譲ってください!」

「え、ええっ?」

「譲ってください。体用の石鹸、洗髪の後の…」

「コンディショナー…」

「コンディショナー? と言うのですか? それも一緒に。お願いします。勿論、ただでとは言いません。言い値で構いませんから」

「わ、私も欲しい! そんなに大金は出せないけど」


 クレアの勢いに唖然としていたジュエルは我に返るとクレアの懇願に続いた。


「譲るのは…まあ、いいけど…」

「本当ですか?」

「本当に?」

「ただ、条件がひとつあるよ」

「条件? 何でしょうか?」

「シャンプーやコンディショナーのこと、出来るだけ隠して。私が渡したって、絶対に誰にも言わないで欲しい」


 私が出した条件に、ジュエルは首を傾げる。


「どうして? あれを売ったら、大儲けができるわよ」

「別にあれで商売とかしたくない。騒ぎにもしたくない」


 売れるのはわかってる。


 けど、それが広まってたら、私のことが気付かれるかも知れない。

 この世界の人は凄いもの、という認識しかないだろうけど、召喚された人なら現物を見れば、何かはきっとわかる。

 わかったら、私の素性が気付かれる。


 それだけは、避けたい。


「私は、森の魔女の見習いとして、ここで生活するつもりなの。それ以外のことはしたくない。だから、約束して。でないと、分けてはあげられない」


 私の宣言に、クレアとジュエルは互いの顔を見合せて、ため息をついた。


「私たちはリムにお願いする立場です。リムがそう言うのでしたら、決して洗髪石鹸については他言しません。ジュエルもいいですね?」

「…うん。私も絶対に言わない」


 二人は他言無用を誓ってくれた。


「ありがとー」


 私は二人を信用することにした。


 きっと、二人は約束を守ってくれるだろう。


「とりあえず、瓶三つで銀貨一枚にしておくね」





ブロウ用のスプレーもあれば、完璧だった。

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