閑話1-1 その頃の召喚者たち1
一方、三人は…
そのショッピングセンターの二階で。
ツカサはゲームセンターで軽く遊んでそこそこストレス発散させていた。
トウヤは本屋でお目当ての本を手に入れていた。
サキは雑貨屋で欲しいものがなくてがっかりしていた。
三人はエレベーターホールに立ち、一階に降りるためのエレベーターを待つ。
互いの顔は見たが、同じ学校でもクラスが違うので顔に見覚えはあったが名前は知らなかった。
なので、三人共がスマホの画面に視線を移した。
エレベーターが着く。
先に中に入ったツカサが、一階のボタンを押した。
トウヤの後にサキが入ったところで、エレベーターのドアが閉まる。
その瞬間、光が明滅を始めた。
電灯が切れるのかと、三人は顔を上げて天井の蛍光灯を見上げる。
しかしその時にはもう光の明滅のみならず、不可思議な模様が乱舞していた。
まるで、万華鏡の中に放り込まれたかのようだ。
「なんだ、これ?」
「これって、まさか…?」
「きゃあ、なんなの?」
三者三様の困惑の声があがる。
そして一際強く光り輝いた後、三人は大理石のような石の床の上にいた。
床に描かれた幾何学模様から発せられる光は徐々に弱まっていく。
「おお!」
「三人もお越しくださるとは!」
「奇跡だ!」
感嘆の声があがる。
石畳の向こう、壁の方に人の姿がある。
騎士のような者もいる。長い衣装は魔法使いか神官か。
中心にいる壮年の男と、十代の男女は豪奢な身なりから、王族関係であることは予測ができる。
「なんだ? ここ?」
ツカサは唖然と周囲を見回している。
「え、マジ…?」
トウヤは小声で呟く。
「三人、間違いなく…」
「魔力が足りて良かった…」
「召喚の陣が破損したようだが…」
「それは後程…」
囁くような声に、トウヤは一瞬固まる。
感情の籠らぬ声は、先ほどの感嘆の声とは真逆の温度だ。
直ぐに声のした方を見たかったが、冷淡とも思える声音に、会話が聞こえたことを気付かれるのはまずいと判断し、ゆっくりと顔を上げた。そしてキョロキョロと周囲を見回す次いでに、先刻声が聞こえた方を撫でる程度に見た。
そこに立つのは三人の男。壮年の男が二人、青年が一人。三人とも、長衣を纏っていた。
そして冷めた目でトウヤたちを見ていた。
「ここ、どこ? 一体、なんなの? エレベーターはどこにいっちゃったの?」
サキが涙ぐんでいる。突然のことに、事態を処理できないのだ。
「多分、異世界召喚」
トウヤが呟く。
ラノベで読み慣れたシチュエーションだった。
しかも、何やら不穏バージョン。
「異世界?」
「召喚?」
ツカサとサキがトウヤへと視線を向ける。怪訝そうな顔だ。
魔方陣の光はまだ消えていない。
消えるまで、誰も近付いては来ないようだ。
しかし、時間はほとんどないだろう。
トウヤは小声で続けた。
「説明はあと。とりあえず、彼らに名前を聞かれてもフルネームは言わない方がいいと思う」
「フルネーム?」
「どうして?」
二人は首を傾げた。トウヤは続ける。
「千と千秋と神の国、見たことある?」
国民的アニメのタイトルを口にする。小学生の時に上映されたアニメだが、当時クラスメイトのほぼ全てが観たと言っていた。当然、トウヤも観た。
「あ? 観たぞ?」
「うん、再放送も観たよ?」
当然、ツカサもサキも観ていた。
「あれさ。フルネーム名乗って面倒くさいことになったよね?」
物語は、神の国に迷い込んだ少女がフルネームを名乗り、その名を取られて自由を奪われた。
理不尽だと、子供心に思ったものである。
「なんか、こき使われてた…」
「同じことがあるって?」
「ここがどういう場所か解らない。用心した方がいい。あの人たちはいい人かも知れないけど、スパイがいるかも知れない。僕らにはきっと見分けはつかない」
スパイどころか、彼らが怪しいとは、トウヤは言わなかった。
確証はなにもない。
状況が解らないのは、ツカサたちも同じだ。反対する理由はなかった。
「スパイか…確かにわからないよな」
「そんな人がいるの…?」
「いるかどうかも解らないから」
だから、用心する。
繰り返すと、二人は頷いた。
「わかった、そうする。俺はツカサ」
「私はサキよ」
「僕はトウヤ…とりあえず、そう言うことで」
互いに名乗りあったところで、魔方陣の光が消えた。
まだまだ話したいことはあったが、仕方なくトウヤは口をつぐむ。
光が完全に消えたところで、豪奢な服装の男が歩み寄ってきた。
「よく来てくれた。勇者殿、聖女殿、賢者殿。エルガイアはお三方を歓迎する」
男は勇者でツカサを、聖女でサキを、賢者でトウヤを見た。
「勇者? 俺が?」
「聖女…?」
「賢者…」
ツカサとサキは目を丸くしている。
トウヤは戸惑いながら視線を落とす。
なるほど、賢者か。
自分が賢者と呼ばれて、トウヤは納得した。
ラノベで良く見るシチュエーションだが、これ程冷静でいられるのは賢者としてのスキルか何かだろうと推測した。
しかし、それを知られる訳にはいかない。
「あの…あなたは…?」
トウヤはおどおどと男を見上げた。
「ああ、済まない。私はこの国エルガイアの王、グランウルドだ。こちらは王子のグランエルム、王女のアーシア。そして巫女姫のミュリエール」
グランウルドの影から、線の細い少女が現れた。今にも消えそうな儚さを感じる。
三人はトウヤたちに黙礼し、近付いて来た。
グランエルムはサキの眼前に膝をつき手を指し述べる。
「聖女様、ようこそお出でくださいました」
柔らかな笑みと声音にサキはぽぅっとグランエルムを見た。
「ようこそ勇者様、私はアーシアと申します」
花のような美少女が、ドレスの裾を摘まみ挨拶をする。ツカサも顔が赤くなった。
「賢者様…お加減が悪いのですか?」
妖精のようなミュリエールが、心配そうにトウヤを見る。
「あ、あの…突然で混乱してしまって…」
トウヤはわざとらしくミュリエールから視線を逸らした。
「ここでは落ち着かぬな。場所を変えよう。お三方、よろしいか?」
「あ、はい」
「うん」
「お願いします」
サキ、ツカサ、トウヤの三人は、それぞれエスコートされながら、大理石の部屋を後にした。
一行が案内されたのは、客間と言うには些か広い部屋だった。
テーブルと椅子はきらびやかな装飾が施されている。
その椅子にまずグランウルドが座り、真正面にツカサたちが座る。
グランエルムとアーシアはグランウルドの両脇に座った。ミュリエールは立ったている。
テーブルには紅茶と菓子が並べられた。
紅茶で喉を湿らせると、グランウルドが口を開いた。
「まず、何から話すべきか…いや、それよりも先にお名前を伺ってもよろしいか?」
グランウルドに名を聞かれ、
「俺はツカサだ」
真っ先にツカサが名乗った。
流れができたところで、サキとトウヤが続く。 名字について聞かれもしない。
名字は一般的ではないようだ。
平民は名字がない、と言うのもよく見るはなしだとトウヤは思った。
「それで、俺たちがここ来たのはなんでだ?」
ツカサが最初の質問をした。
先ほどからツカサが真っ先に発言しているが、そういう物怖じしない性格なのだろう。
名乗りについても、先に決めた通りのことしか言わなかった。
分別はあるようだ。
先に口を開いてくれるのは、トウヤとしても有り難かった。
ツカサのお陰でトウヤは一歩下がって聞き手に回れるのだ。
何とかこの位置を死守したいとトウヤは思った。
サキはまだ状況を飲み込めていないのか、口をつぐんでいる。
そわそわとグランエルムに視線を向けては慌てて逸らすの繰り返しだ。
ツカサの質問に、グランウルドはゆっくりと口を開く。
「何故…理由は我々にも解らぬ。女神イリスファルンの思し召しとしか…」
「イリスファルン?」
「この世を作った女神です」
サキの問いにグランエルムが答えた。
「僕たちをこちらに呼んだのは女神様なんですか?」
「はい…女神様より御神託があったのです。召喚の陣が発動すると…」
神託を受けたのはミュリエールらしい。だから、ミュリエールはここにいるのだ。
「突然の神託に驚いたが、召喚陣に魔力が宿ったのは事実だった」
「私たちは直ぐ様、皆様をお迎えに参ったのです」
「まさか、お三方が揃うとは、夢にも思わなかった」
グランウルドはしみじみと呟いた。
「勇者、聖女、賢者ですか?」
「ええ、いまだかつてお三方が揃ったことはございません」
とても素晴らしいことです。
ミュリエールは胸元で手を合わせ、祈る仕草をした。
「俺たちは、何をするために呼ばれたんだ?」
次に気になるのは目的だった。
女神が何のために三人を召喚したのか。
ツカサの問いに、グランウルドは首を横に振った。
「済まぬが、我々には女神のお考えは解らぬ」
「何かしらの使命があるのでは? と、思っているのですが…」
グランエルムが申し訳なさそうに、王の言葉を受けて続けた。
「それは、神託にはないんですか?」
トウヤがミュリエールを見ると、ミュリエールも首を横に振った。
「今は何も…」
「ですが、皆様には女神様からかのご使命がきっとあるはずです」
アーシアが強く言った。
と、サキが顔を上げる。
「あ、あの! 私たち帰れるんですか?」
今、一番気になっていることだった。
「わ、私、帰らないと困るんです。お母さんとお父さんとお兄ちゃんがいるんです。きっと、私のことを探しているんです!」
家族が探しているのは、何もサキだけではない。ツカサもトウヤもきっと探されているはずだ。
「そうだよ!」
「僕のところだって…」
いきなり消えたのだ。探さない筈がない。
三人とも、それほど家族とは希薄な関わりではなかった。ごふ普通の家庭で育ったのだ。
「どうやったら帰れるんだ?」
「済まぬ…」
グランウルドは視線を落とした。
「女神の使命が何か解らない状況では…」
「それはつまり、使命を果たしたら帰れるってことですか?」
トウヤが聞くと、グランウルドたちは重々しく首を縦に振った。
「そんな…」
サキが涙ぐむ。
聞いたものの、トウヤは使命云々を信じてはいなかった。
どうしても、あの三人の会話が引っ掛かる。
目の前の王たちは、女神の使命を信じているかも知れないが、あの三人は絶対にそんなことはないだろう。
でなければ、あんな会話はないし、あんな冷めた目は向けない。
「使命…が、わかって、それから、なんですね…」
「恐らく」
グランウルドの返答に、ツカサも黙り込んでしまった。
「だが、ツカサ殿たちが女神の加護を受けてこの地に来られたのは事実。お三方の身は我らが責任を持って預かろう」
「心配しないでください。サキ様。貴女は私がお守りします」
「ツカサ様、決して不自由はさせません。私たちを信じてください」
「トウヤ様のお力になれますよう、全力を尽くします」
グランエルムがアーシアがミュリエールが口々にに誓いのような言葉を口にする。
それをサキは頬を赤らめ、ツカサは少し引き気味に、トウヤは冷めた気持ちで聞いていた。
如何に不信があろうとも、彼らは他に頼る者はいなかったのだ。
こんな感じになってました。




