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生まれ変わった青年

瀕死だった青年に、トナカイの魔の手が迫る!

「……んん? なんだ?」

 青年が目をさましたとき、目の前には大きな栗饅頭、ではなく大きな顔の人形がいた。

 トナカイが取ってつけたような目で青年を覗き込んでいたのだ。

「うわぁぁ!?」

 とてもこわい。

 青年は驚き後ずさった。

 そして体の違和感に気づく。

「さっきまでの痛みが引いている……?」

 痛いところが全くなく、それどころか力が溢れている気がする。

「なんだ……この、今までになく溢れる魔力は!」

 青年は少年時代から、他人より魔力が少なく、まともに魔法を使えなかった。

 まともに魔法を使えなかったからこそ、知識として学び、効率的な魔力の運用に力を注ぎ、魔力を体の強化に充てる術を身に着けた。

 そして体を鍛え剣術を磨き、魔力が使える者でも敷居が高いとされる中級冒険者のレベルにまで到達した。

 そんな自分の中に、かつてないほど魔力が溢れている。

「俺にも、努力ではどしようもなかった魔法が……使えるのか!」

 思わぬ体の変化に、青年は喜んだ。

「君が、助けてくれたのか? ありがとう……! このかつてないほど溢れる魔力も、もしや君が?」

 青年は目の前にいるとなかいに感謝した。

 記憶が曖昧だが、トナカイに助けられた気がしたのだ。

「となかいにかかれば造作もないことなのよ!」

 本当は生死の境をさまよう原因にもなっているのだが、トナカイはわざわざそんなことを言わない。

 そもそも言葉が通じないのだ。

「良かったら、何がお礼をさせてくれないか?」

「と、となかいは忙しいからまた来世に……」

 そもそも青年が死にかけていたのは、トナカイが原因なので、若干の後ろめたさがあった。

 そのためトナカイは、早くその場を離れようと考えていた。

「さっきから何も答えてくれないが……もしや言葉が通じていないのか? 残念だ。町にお勧めの飯屋があったんだが……」

「さぁ! 早く行くのよ!」

「んぉ……おう、なんだか急に来てくれる気になったみたいだな! こっちだ!」

 その場から去ろうとしていたトナカイは、飯という単語を聞いて態度を急変させた。

 サラの家でお世話になっていた頃、おいしいものをたくさん食べさせてもらったため、ご飯を食べることが大好きになっていたのだ。

 食いしん坊トナカイである。

 ちなみに精霊は、魔力さえあれば死にはしない。

 トナカイにとってのご飯は、完全に嗜好品である。



 青年に連れられて、町に到着したとなかい。

 やはり見た目が動くぬいぐるみなので、非常に目立つ。

「この町は小さいが、皆気さくでいいやつらなんだ……着いたぞ。ここが俺一押しの飯屋だ!」

 青年は周囲の視線をあまり気にした素振りもなく、トナカイを食事処へ連れて行った。

「シンプルだけど素材の味が引き立っていておいしいのよ! いくらでも食べられるのよ!」

「なんだかよく分からないが……喜んでくれているみたいでなによりだ」

 食事処でごはんを頬張るトナカイ。

 といっても、貼りつけたような笑顔で、常に開いている口の中に食べ物を放り込む様は、若干怖い。

 完全に着ぐるみの口の中に食べ物を放り込んでいるような様子だ。

 トナカイの表情は常に笑顔で、表情を変えることはないのだ。

 ただ、食べたものの味はちゃんとわかるようで、ほっぺたに手を当ててうれしそうな素振りを時々見せている。

 そんなトナカイの姿を眺める青年。

「そんなに急いで口に放り込まなくても、誰も取りはしないぞ? それにしても、見た目が完全に人形だな……」

 青年はトナカイが一体何者なのか興味が湧いているようだ。

「もぐもぐ……! あ、次はあれが食べたいのよ!」

「はは……気に入ってくれたみたいで良かったが、これは俺の財布がピンチだな」

 トナカイは気が済むまで食べ続け、食事処を出るころには既に日が傾いていた。

 ちなみに、食事処のメニューを一通り制覇していた。

「すっかり遅くなってしまったな。暗い中外を歩くのは危険だし、俺が利用している宿に案内しよう」

 食事処で懐がかなり軽くなっていたが、命の恩人に対して少しでも恩を返すための必要経費と、あまり気にしていなかった。

 死んでしまえばお金は意味をなさない。

 生きているからこそ金を稼いで使うことができるのだ。

「普段はあまり酒を飲まないんだが、今日くらい良いだろう。良かったら君もどうだい?」

「この飲み物はあんまりおいしくないのよ……」

「はは。酒はあまりお気に召さなかったかな? まぁ酒のつまみも大量に買ってきたから、これでも食べてくれ」

 宿で青年はお酒をあおりつつ、トナカイに自分のことを話した。

「自己紹介が遅れたが、俺の名前はレン。中級冒険者として、この町を中心に活動をしている。小さい頃から世界を飛び回る冒険者に憧れていたんだが、おれは生まれつき魔力が非常に少なく、まともに魔法が使えなかった。もちろん魔法が使えないと冒険者になれないというわけではないが……飛び道具への対処や野営に必要な物が増えて荷物がかさんだりして、非常に不利なんだ。まぁ、だからといって冒険者をあきらめる選択肢はなかったがな!」

「そうなのねぇ……このつまみってやつがおいしいのよ!」

 レンは元々酒をあまり飲まないため、少量の酒ですぐに酔ったようだ。

 つまみに夢中になっているトナカイに気付かずどんどん話を進めていく。

「冒険者としてやっていくには、荒事をこなす力がいる。魔法がなかった俺はひたすら剣の腕を磨いた。同時に、魔法が使えないとはいえ多少の魔力があるわけだから、それをなんとか有効活用できないかと魔法の勉強も必死でしてきた。そのかいあって、少ない魔力でもなんとか使える身体強化と、多少の剣の実力をつけた……といっても、さすがにドラゴンには手も足もでないけどな!」

「そうなのねぇ。あ、もうつまみを食べきってしまったのよ……」

「おっと、もうつまみがなくなったか。たしか鞄にまだ何か……お、あった。ほれ、これはよく噛んで食べるとうまいぞ。……冒険者として数年活動してきて、いろんな経験をした。死にかけることも何度もあったが、なんとか生き延びて、今では中級を名乗れるほどになった。これからもっと力をつけ、この町の近辺だけじゃなくて、もっと色んな場所を旅したいと思っていた矢先に……あのドラゴンに遭遇した。あのときは、自分の運のなさに笑ったよ。ドラゴンなんて、生きている間に遭遇するやつなんかほとんどいない。そして、出会ったら高い確率で死ぬんだ。だが……君に助けられた。ドラゴンが急に逃げていったのは、君のおかげ、なんだろう? 記憶が曖昧なんだが、なぜか強い確信があるんだ」

「この食べ物、噛めば噛むほど味が出ておいしいのよ!」

「君のおかげでドラゴンに出会っても死なずに済んで、今まで感じたことのないほど魔力が全身にたぎっている。感謝してもしきれないが……改めて、ありがとう。俺はまだ、冒険者として世界を旅することができる。もっと力をつけて、上を目指すことができる!」

「 いっぱいおいしいものを食べてとなかいは幸せなのよ!ところでさっきの食べ物はどこでもらえる……寝てるのよ」

 一通り話したレンは、机に突っ伏して寝てしまった。

 どうやら酔いつぶれてしまったらしい。

「こんなところで寝ると体が痛くなるの……よいしょーっと! あっ」

 トナカイはレンをそっと抱き上げると、ベッドに投げ飛ばした。

 勢いがつき過ぎてベッドの横の壁にぶつかったが、レンは起きなかった。

「……よく寝てるのよ。この人は、とても頑張り屋さんなのねぇ。それに、ごはんをいっぱいくれたし、とてもいい人なのよ! となかいも世界を見て回りたいから、レンととなかいは仲間なのね!」

 トナカイは、レンのことを酔っ払って絡んでくる変な人だが、努力家で義理堅く、そしてご飯をくれるいい人だと認識した。

「レンが世界を旅しやすいように、となかいからレンにささやかなプレゼントを…あげるのよ!」

 トナカイは背中のチャックから一振りの長剣を取り出した。

「てってれー! となかいが作ったいい感じで使いやすい剣!」

 トナカイの体格と出てくるものが合っていないが、そこは創造の力である。

 取り出した長剣は、一般的な長剣より少し短いが、とても軽くて丈夫だ。

 長剣に魔力を流すと、ほのかに剣身が光り、魔力を帯びて切れ味が増すようになっている。

 柄の先には小さなトナカイの頭を模した装飾が施されている。

 かっこいい剣が、柄の余分な装飾で完全に台無しになっていた。

「お互い世界を楽しんで回るの……よっと!」

 そんな長剣を、ベッドに転がっているレンに投げつけ、トナカイは宿を後にした。



「……飲みすぎたか。彼はもう発ってしまったんだな」

 レンが朝起きると、そこにトナカイの姿はなかった。

 酒に酔って寝てしまったことを後悔しつつベッドから降りようとすると、手元にコミカルな装飾がなされた長剣があった。

「……これは? 装飾が彼を彷彿とさせるな……!? 持った瞬間に剣の情報が頭に浮かんでくる! ことのほか、いい剣をもらってしまったな。剣の名前からすると、彼はとなかいという人だったのか……ありがとう、となかいさん」

 トナカイの贈り物に、レンは恩返しが大変だと苦笑いしつつ、旅立ったトナカイに思いを馳せた。



「むひょぉぉ!? すごい圧迫感なののよぉぉ……」

一方その頃、トナカイは巨大なドラゴンに噛まれながら連れ去られていた。

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