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トナカイとドラゴン

 一度は退けたドラゴンと再び相見えるトナカイであった。

 空を飛ぶ巨大なドラゴン。

 そして、空飛ぶ巨大なドラゴンに噛まれながら旅を続けるトナカイ。

 どうしてこんなことになっているのか振り返ってみよう。



「夜はとても、静かなのよ」

 トナカイは運が良いのか悪いのか微妙な青年レンに土産を残し、宿から出て暗い中を適当に歩いていた。

 周囲の地理なんて全く知らないトナカイなので、行くあてもなく気が向くままに歩をすすめていくしかないのだ。

 何か面白いものはないかとワクワクしながら、夜空の下を歩いていた。

「どんどん景色が変わっていくのよー。暗くてちょっと味気ないけど……」

 しばらく歩いていると、周囲に生えていた木がなくなり、背の低い草花が咲く平原にたどり着いた。

 まだ夜中なので、空を見上げると月と星が光り輝き、とても綺麗だった。

 周りに灯りが全くないので、空に光る星は一層映えた。

「星が、綺麗なのよぉ……森の中だと木に隠れてあんまり見えてなかったのよね。サラのおうちは明るいし、あんまり夜外に出ないし。こんなに綺麗な星を見るのは、初めてかもしれないねぇ」

 トナカイは地面に寝転がり、星空を堪能することにした。

 トナカイが寝転がりながらうっとりと星空を眺めていると、遠くからかすかに羽音が聞こえて来た。

「こんな夜中に飛び回る鳥もいるんねぇ」

 トナカイがのほほんと考えながら星を眺めていると、羽音がどんどん大きくなってきた。

 どうやらこちらに向かっているらしい。

 どんな鳥が寄って来ているのか気になったトナカイは、寝転がったまま頭だけ動かして鳥の姿を探した。

 だが、見える範囲には何もいなかった。

 しばらくキョロキョロしていると、不意に先ほどまでしていた大きな羽音が止んだ。

「あれ? 音がしなくなってきたのよ? どこ行ったんかなぁ?」

 トナカイが不思議そうに首を傾げていると、不意に視界が真っ暗になり、体が高く持ち上げられた。

「!? 急に真っ暗になったのよ! なんかあったかいしすごく狭いのよ! なんぞー!?」

 急な出来事にトナカイがあたふたしていると、体中をものすごい力で締め付けられた。

「むぎゅぁぁー……圧がすごいのよ! となかいの! 中身が! でちゃうかも! しれないのよ! 中身なんてないけど!!」

 緩んでは締め付けを繰り返す何か。

 トナカイは弾力性に優れているので、締め付けられるたびに体がぐんにょり変形していた。

 トナカイは精霊なので死ぬことはないが、さすがにぐにぐにされ続けるのは不快だった。

「むぐっ! こんなに! ぐにぐに! され続ける! のは! いやなのよ!」

 あまりにもぐにぐにされ続けるので、我慢の限界を超えたトナカイは背中のチャックからつっかえ棒を取り出した。

「となかい特製のつっかえ棒!! せいっ!」

 想像の力で手早くつっかえ棒をつくり、素早くつっかえるトナカイ。

 つっかえ棒が良い仕事をしたようで、狙い通りぐにぐにされなくなった。

「ふぅ……やっとぐにぐにされなくなったのよ。一体となかいに何が……およ?」

 不快な感覚から抜け出したトナカイは、改めて周囲を確認した。

 周囲には鋭く尖った岩が綺麗に並んで生えており、地面はしっとりと濡れている。

「この岩は鋭いねぇ。刺さったら穴が空いちゃうのよ」

 よく見ると出口のようなものがあったので、トナカイは頭だけ外に出して眺めてみた。

 出口から見えたのは高速で後方に流れる景色に、小さくなった木々。

 トナカイは似た光景を最近見た覚えがあった。

「これは……お空?」

 なぜ出口にお空があるのかという疑問は、次の瞬間に起こった出来事で上書きされた。

「景色がどんどん変わっていくのおぁぁぁ!? 背中がめっちゃ熱いのよ!」

 背中の方からすさまじい熱量が飛んで来たのだ。

 一瞬で燃え尽きるつっかえ棒。

 さすがに創造の力で作られたつっかえ棒も、熱耐性は付与されていなかったのだ。

 そして、半端に出口から身を乗り出していたトナカイは、ふたたび出口に挟まれた。

「もぎゃー! また挟まれたのよ!?」



 ここで、冒頭の文章に戻る。

 昼間にぶつかったかわいそうなドラゴンが、たまたま見つけたトナカイを食べようとしていたのだ。

 もぐもぐとトナカイを噛みながら飛んでいたが、急に口が閉まらなくなったため、引っかかっている異物をブレスで焼いた。

 ドラゴンの顎の力は非常に強力だが、残念ながらトナカイを噛みちぎるには至らなかったらしい。

「おててが挟まって動かないのよ。これじゃ、なんもできんやん?」

 トナカイは完全に閉じたドラゴンの口から体半分だけ出ており、背中のチャックに手を伸ばすことができない。

 別に背中のチャックに手を入れずとも創造の力を使うことができるのだが、なにやらトナカイにはこだわりがあるらしかった。

「これもまた一興ってやつなのねぇ。これはこれで、飛んでる感があって良いのよ!」

 仕方なく、おとなしく噛まれながら空の散歩を満喫するトナカイであった。



 ドラゴンと空の散歩をすること数時間、暗かった空が少しずつ明るくなってきた。

 日の出である。

 木々や建物に隔たれることのない空から見る日の出は、地上から見る日の出と違った美しさがあった。

「oh……めっちゃ綺麗な朝日なのよぉ」

 トナカイは、それを眺めながら、今日もいいことがありそうだなぁと思った。

 巨大なドラゴンに噛まれながら。

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