落ちた先には
思わぬ形でサラたちと別れたトナカイに、次はどのような出来事が待っているのか。
「思っていたよりよく飛んでいるのよー」
トナカイは、放物線を描きながら移りゆく景色を堪能していた。
高度が少しずつ下がっているので、もうしばらくしたら地面に落ちるだろう。
かなりの速度で飛んでいるので、落ちれば大変なことになりそうなのだが、無知なトナカイはそこまで考えることもなかった。
元々死という概念がないため、となかいは危機感が薄かった。
森の中で、一人の青年が空を見上げ絶望していた。
「まじかよ……」
今日はとても運が悪い。
いつものように簡単な討伐依頼を受け、単身森の中に入った。
割と早く討伐対象を打ち倒し、あとは帰って報告するだけのはずだった。
不意に周囲が暗くなり、何事かと顔を上げた瞬間、目を疑った。
人間程度なら一飲みにできそうなほど巨大なドラゴンが、上空からこちらを凝視していたのだ。
「あれが噂に聞くドラゴン……威圧感が半端じゃないな。どんだけデカいんだよ!」
巨大なドラゴンは、一匹いれば国が滅ぼせるほどの脅威だと言われている。
話に聞いたときはまさかと思っていたが、実際に目にするとあながち大げさな話ではないと実感した。
尋常ではない威圧感。
逃げようと大きく動いたら、一瞬で消し炭になるか、原型をとどめず引き裂かれるだろうと容易に想像できた。
そのためドラゴンを見上げたまま、動けなかった。
「あんなもんが街に来たら……数分も持たないな」
街からは多少の距離があるので狙われるかどうかは分からないが、巨大なドラゴンが来たらひとたまりもないだろう。
「……まだあったかな? お、あったあった。これで、最後か……ハハッ! 手が震えてやがる」
人生最後となるであろうその瞬間までに、せめて一服と胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
胸いっぱいに煙草の煙を吸い、大きく吐き出す。
ドラゴンが息を大きく吸い込んだ。
恐らくこちらにブレスを吐き出そうとしているのだろう。
「ふぅー。あっけない人生だったな。まだ何も成し遂げていないのに……そんなもんか」
彼は子供の頃、世界を飛び回る冒険者にあこがれ、今まで色々な努力と無茶をしてきたが、才能に恵まれなかった。
少しずつ実力はついてきたが、結局は一般的な冒険者で終わってしまったと、心の中で嘆いた。
あまりの運のなさと理不尽さに、逆に冷静になっている自分に苦笑いしながら、最後の瞬間を待った。
「スゥゥゥ……ガッ!?」
ドラゴンがブレスを吐き出すその瞬間、急にドラゴンの頭が横に弾かれた。
予期せぬ方向に飛んでいくブレス。
ドラゴンは何が起こったのかわからず混乱している。
「!? ……グルルル」
不意の攻撃に警戒したドラゴンは、大きく羽ばたき空の彼方に飛んで行った。
「となかいはー見知らぬ世界を目指してー飛んでーいくのーよーとなとばぁ!?」
トナカイが呑気に歌いながら飛んでいると、突然背中に大きな衝撃が走った。
どうやら何かにぶつかったらしい。
「……やってもーた?」
トナカイは、焦った。
背中向きに飛んでいたため、飛んでいく先に何があるのか見ていなかったのだ。
なんだか申し訳ない気持ちになりながら、ぶつかった衝撃で強制的に進路変更したトナカイ。
ほぼ直角に進路変更したトナカイは、飛んでいく先に一人の青年を見つけた。
「あっ……これあかんやつ、やん?」
青年はくわえていたたばこを口からこぼし、何が起こったのかわからないといった顔をしている。
非常にまずい。
このままではぶつかってしまう。
などと悠長なことを考えているうちに、青年にぶちあたった。
「突っ立ってないでどいたほうがぁべし!?」
ドラゴンとの衝突で速度がかなり落ちていたのだが、それでも十分危険な速度だった。
トナカイのぶっとび速度が余すことなく青年に伝わり、青年は草木をなぎ倒しながら地面を滑って行った。
青年が元いた場所に、華麗に着地したトナカイ。
「……なんかごめんなのよ」




