囚われのトナカイ
人さらいに攫われてしまったヒロイントナカイ。
トナカイの運命やいかに!
「もふ太……もふ太ぁぁ!」
「もふ太はお前を守ってくれたんだ。必ず見つけ出すから、もう泣くのをおやめ……」
トナカイが攫われた事実に、サラと家族は大いに悲しんだ。
捜索は行っているが、状況は芳しくなかった。
取り違えた腹いせに処分してしまったかもしれないし、珍しいものとして遠くの町で売られてしまうかもしれない。
荷物に紛れて街を出られると、見つけることはほぼ不可能となる。
珍しいものとして買った変な動く人形だが、皆愛着を持っていたのだ。
サラはトナカイからもらったミニトナ人形を抱きしめ、トナカイの無事を祈った。
一方その頃、スラム街の一角にある老朽化した建物の中で転がっている、人さらいに捕まってしまったかわいそうなトナカイ。
「またも袋のとなかい、やん?」
トナカイは、のほほんとしていた。
サラが捕まっていたとしたら、もっと大変なことになっていたであろう。
それに比べると、トナカイが捕まっている現状は本人にとって大した問題ではなかった。
サラ達と暮らす生活はとても楽しかった。
その家族が悲しい思いをするのを、トナカイは良しとしなかった。
「サラが捕まってなくてよかったのよ。顔から落ちたら痛いのよ……」
まさか自分がいなくなることでサラ達が悲しむとは考えていなかったが。
しばらく袋の中でぼーっとしていると、急に袋の外側が明るくなったように感じた。
どうやら再度扉が開いたようだ。
何人かがこちらに近づいてくる。
そして袋の口を開けた。
「となかいがサラなのよ」
「「……」」
一瞬にして固まる空気。
「なんじゃこりゃぁぁぁああ!!」
人さらい達は思わず袋から手を離してしまった。
袋を開けて中身を出すと、そこにはかわいい女の子……のコスプレをしたずんどうトナカイがいたのだ、無理もない。
「どういうことだこらぁぁ! てめぇらの目は節穴かぁぁ!!」
残念な恰好のトナカイを改めて見て、人さらい達は怒り狂った。
「知るかぁぁ!! てめえも今まで全然気付いてなかっただろうが!! 自分のこと棚にあげてんじゃねぇぇ!!」
「となかいのために争っちゃだめなのよ!」
袋詰めをしたのであろう人間が、タコ殴りにされている。
それでも皆の怒りは収まらず、とうとうトナカイにまで怒りの矛先を向けた。
「てめぇは、何笑ってんだこらぁぁぁあ!!」
「となかいはもともとこんな顔……ぶぇぇー」
殴られるトナカイ。
物理的に凹むトナカイ。
そして、反動で飛んで行くトナカイ。
「となかいは超反発となかいなのよぉぉ……」
トナカイは人さらいの攻撃によってぶっとび、ボロ屋根を破壊し空の彼方に消えていった。
「「「……」」」
まさか殴っただけでそこまで飛んで行くとは思っていなかった人さらい達。
呆然と穴の開いた屋根を見上げる人さらい達の元に、地道な聞き込みによって人さらい達の拠点を見つけた、サラの家の捜索隊が押し寄せた。
「!? なんだてめぇらは!!」
「ここだ! お前らそこを動くな!」
「大人しく人質……を解放するんだ!!」
「領主様のものに手を出してタダで済むと思うな!」
「くっ……ここまでか!」
あえなく捕まる人さらい達。
彼らの命運は、ここで尽きたのだった。
「短い間だったけど、楽しかったのよ……」
どんどん遠く、小さくなっていく街。
トナカイは若干の寂しさを感じながら、遠ざかる街を眺めていた。
戻ろうと思えば戻れるのだが、これもまた一興と、流れに身を任せていた。
サラは元気でいい子だった。
家族もいい人たちだった。
また、縁があれば会えるだろう。
もし危険が迫っても、渡したミニトナ人形が少しは役に立つだろう。
ちなみにサラには、合計で十体のミニトナ人形を渡していた。
「となかいの冒険は……まだ始まったばかりなのよ!」
トナカイは、サラと家族からもらった温かい思い出を胸に、はるか彼方へと飛んでいくのであった。
ちなみに成長したサラが、飛んで行ったトナカイを探すべく冒険者となり、「人形使いサラ」という二つ名を轟かせるのはもう少し先の話。




