親睦会の後
リリーがとうとう一線をこえた……!
どうも、ニーナです。
親睦会という名の騒動は無事に学園長が収めました。
リリーちゃん、学園長の雷を食らってもただ気絶するだけで済んでました。
ドラゴンって、すごいんですね。
ちなみに、カフェでなぜか出ていたお酒は、料理に使うため置いていたものを、新人の店員さんが間違えて出してしまったとのことでした。
恨みますよ、店員さん。
あれから一日ほど経った現在、リリーちゃんはベッドで布団を被り、出てきません。
リリーちゃんは数時間ほど寝ていましたが、起きてすぐ、自分のやらかしたことを思い出したようで、悲鳴をあげながら布団を被りこみ、籠城してしまいました。
ぴゃぁぁぁとか、なぜあんなことをぉぉとか、トナカイにあわせるかおがぁぁとか、急に静かになったかと思えば、小さい声で、トナカイにキスを……キャァァァとか。
ドラゴン感がカケラもありませんね。
というか、リリーちゃん、あれだけトナカイさんにベタベタしているのに、言葉で伝えるのはダメだったんですね。
どうもリリーちゃんの恥ずかしがる基準がよく分かりませんね。
まぁ、昨日は確かにすごかったですが。
五歳ほどの少女が熱い思いの丈を大声で叫び、ぬいぐるみを押し倒して熱いキス。
事情を知らない人が見たらドン引きだと思います。
開けてはいけない扉の奥を覗き見てしまった気分になるでしょうね。
それはともかく、リリーちゃんはそこまでトナカイさんのことを想っていたんですね。
そういうのは、ちょっと憧れます。
さて、リリーちゃんの観察はこのくらいにして、少し目線を下げれば、トナカイさんです。
リリーちゃんいわく、優しくて、包容力があって、強くて、リリーちゃんを大切に思っている、トナカイさんです。
ベッドの下で転がって、両手で顔を隠しています。
少しぷるぷる震えているのは、リリーちゃんからの熱い告白のせいなのか、リリーちゃんに襲われたからなのか、わかりませんね。
トナカイさんは意外と初心なのかもしれませんね。
さて、特に私にできることはないので、しばらく二人を眺めてにやにやしていましょう。
「……となかいさんを掴んでからのー、リリーちゃんの布団の中にどーーん!! ちくしょー!! うらやましくなんか、ないんだからぁぁ!!」
リリーちゃんの絶叫を背に、わたしは寮から走り去りました。
「私はなんてことをぉぉ……!」
リリーは布団の中で悶絶していた。
ニーナと親睦会としてカフェでお菓子を食べていたのだが、少しずつ頭がぼんやりしてきて、ニーナの質問に答えていると、つい心の中の想いをぶちまけてしまったのだ。
よりによって、トナカイ本人の前で。
それだけでは飽き足らず、想いを口に出してしまったら、心のタガが外れてしまって、暴走してしまったのだ。
具体的にいうと、トナカイを押し倒して熱いキスを……リリーはそこまで考えて、恥ずかしさの限界を超え、更に布団の奥へと潜り込んだ。
「ぁぁぁ……もうとなかいに顔を合わせられなぃぃ……」
言ってしまったことは、全て本心だ。
周りから見たら、リリーがトナカイに好意を寄せていることは、隠す気がないのではないかと思うほど分かりやすかった。
たしかに周りには余り気を使っていなかったリリーだが、トナカイは抜けているため、明確に言葉にして伝えなければ、その想いが伝わることはないだろうと思っていたのだ。
事実、トナカイからは、ただのもふもふ好きとしか思われていなかった。
そして、リリーはトナカイに想いを伝える気はなかった。
リリーが想いを伝えて、トナカイに受け入れてもらえず今の関係が崩れてしまったら、そう考えると、怖くてとても言えなかったのだ。
だが、もうトナカイに伝えてしまった。
過ぎたことはどうしようもないのだ。
これからトナカイにどう接していけばいいのかわからず、リリーは布団の中で悶えていた。
しばらく悶えていると、急に布団の中に何かが侵入してきた。
「もきょっ!? なんか布団にダイレクトアタックさせられたのよ!」
「!?」
もちろん、トナカイである。
となかいが、急にリリーの布団の中に潜り込んできたのだ!
ニーナの仕業である。
「ぴゃぁぁああ!? となかい!? ――!!」
侵入者がトナカイと理解すると、恥ずかしさのあまり叫ぶリリー。
強制的にトナカイと顔を合わせてしまったリリーは、どうしたらいいのかわからなくなった。
「となかい……あ、あの、昨日のあれはその……私は、となかいが好き、だけど、となかいとずっと一緒にいたくて、となかいにこの想いを伝えたら、もし拒絶されたら、もう一緒にいられなくなる気がして……でも、となかいに言っちゃった」
リリーはトナカイに何か伝えなければと思いながら喋るが、自分が何を言っているのかすらわからないくらい動揺していた。
「もうどうしようもなくて、怖くて、となかい……私はこれからも、となかいといたいよぉ……でも、となかいがもし、イヤだったらって……うえぇぇ……となかいぃ……」
いざトナカイと向き合うと、様々な感情が混ざり訳が分からなくなって、気づけばぽろぽろと涙を流していた。
思えばトナカイの前では泣いてばかりだと、リリーは思った。
あんまり泣いてばかりいると、いつかトナカイに見限られてしまうのではないだろうかと、余計に悲しくなった。
「ぐすっ、うぅ……泣いてばっかりだとダメだって……でも、とまらない」
そう思って涙を止めようとしても、一度出てしまったものは簡単に止まらない。
「……リリー」
そんなリリーに向かって、近寄るトナカイ。
「となかい……だめ、見ないでぇ……ぐすっ」
情けない自分をこれ以上見られたくなくて、俯くリリー。
「リリーは泣き虫さんなのよー。よしよし」
トナカイは、そんなリリーにお構いなく近づいて、リリーの頭を抱きしめた。
「リリーはとなかいがそんなに好きだったのねぇ」
「……うん、すき」
トナカイは精霊なので、人やドラゴンの愛とかそういうのがいまいちよく分からない。
なので、リリーの気持ちに応えられるかも同じく分からない。
ただ、リリーがカフェでぶちまけた、自分に対する気持ちは、少し恥ずかしかったが、素直に嬉しいと思うのだ。
トナカイは、長年森の中で一人だった。
それを寂しいとは当時思わなかったが、今はリリーと一緒にいられて毎日が楽しい。
もし、リリーがどこかに行ってしまったら、トナカイは寂しくなってリリーを探しに行くだろう。
さて、トナカイの中で様々な想いが巡るが、あまり難しいことを考えるのは苦手なのだ。
トナカイは、心の向くままに動くのだ。
「となかいはリリーのことをイヤとか言わないのよ。これからも、となかいとリリーは、ずーっと一緒なのよ?」
「……となかい?」
トナカイは、布団の中で丸くなり、涙をこぼすリリーの目を見つめて、そう伝えた。




