リリーの授業
担任からアドバイスをもらったリリーであった。
「よろしくお願いします」
「よろしくな。まずは模擬戦で君の力を測らせてもらおう」
「わかった」
「戦闘学はみんなやることが違うのねー」
「一人一人に合わせた内容を教えるんだって」
「そうだ。だから科目担当も様々な武器、武術に長けた教官がいて、人数もやたらと多いんだ。この学園くらいだぞ、ここまで柔軟な授業をできるのは」
戦闘学専用の広場で、リリーは授業を受けていた。
学園の入園時期とはズレて入ってきているため、どの授業も途中参加になるのだが、戦闘学は担当がそれぞれに合ったことを教えるため、さほど問題はなかった。
最初に戦闘の適性を見られて、その人に合った担当の元へ送られるのだ。
転入生のリリーは、他の生徒に見守られながらの模擬戦となった。
「……自分らしく、か」
「どしたんリリー? さっきから自分らしくって言い続けてるけど」
「となかい、私は……ドラゴンなの」
「そうねぇ、大きなドラゴンよねぇ」
「さぁ、私が直に相手をするから、自分のタイミングで仕掛けてくるがいい」
リリーとトナカイが話していると、教員の一人がリリーと対峙した。
「あの先生が直々に相手取るってよ!」
「学園長を除けば学園で最強って言われてるあの先生が!? 転入生、一体何者なの?」
「あの転入生、何でも学園長のお気に入りって噂だぞ。どれほどの実力か見ものだな」
「見た目はすごく幼くて可愛らしいのにな」
「……あの子にちょっかいをかけた特Aクラスのやつが、行方不明らしいぞ?」
「まじかよ!? 転入生、物騒だな……」
転入生の噂はねじ曲がりながら学園に広まっていた。
「となかいは、ここで見ていてね」
「えっ? となかいを使って戦うん違うの?」
魔道具使いリリーとして振る舞う必要があるはずなのだが、なぜかリリーはトナカイを地面に優しく置いた。
「私らしさって、何だろうって……さっきから考えてたの」
「リ、リリー? となかいは嫌な予感しかしないのよ!?」
教官に向き合いながら、リリーは言った。
「私はリリー。私の武器は、自身の体。今まで向かってきた敵は全て屠ってきた。これが……私らしい戦い方だぁぁ!! 死ねぇぇい!」
「ちょっ、リリー! これは、あかんやつや! 掛け声がすでに物騒なのよぉぉ!」
リリーは既に暴走していた。
「ん? 魔道具を置いたのか。一応魔道具使いという扱いだったと思うが、どうする……なんだ!?」
特に構えないリリーに、教官は得体の知れないものを感じた。
「……寒気がする。あの子の力は、計り知れないな」
長年の勘が、己の命の危機を知らせているのだ。
冒険者としてそれなりに知られた教官は、Aランクに近い実力を持っていた。
Aランクといえば単騎で国を滅ぼせるといわれる、英雄クラスである。
「!? くっ、間に合うか!」
そんな教官は、急にその場から大きく後方に跳躍し全力で離れた。
瞬間、教官が先ほどまで立っていた場所が轟音と共に爆散した。
「きゃぁぁぁ!!」
「ぐわーっ!?」
「何だ!? 急に爆発したぞ!」
「結界にヒビが入っている……嘘だろ? この結界は学園長が全力で張った、特別製だぞ!?」
「結界があるのに、近くにいた生徒が吹き飛んだぞ! 何だ? 魔王の襲来か!?」
周囲には、被害を抑える強力な結界が何重にも張られていたため、生徒たちは吹き飛ばされる程度で済んだ。
もし結界がなければ飛散する石や爆風で大変なことになっていただろう。
「ぐぅぅ……なんで威力だ! 実際に目で見るまでは半信半疑だったが、さすがドラゴンといったと所か。全力で相手をしても死にそうだな」
教官はなんとか無事であった。
リリーと対峙して死なないとは、さすがの実力者である。
「チッ……避けられた。次は仕留める!」
「おいおい……まさか学園内の授業で殺されそうになるとは、人生なにが起こるか分からんよなぁ。あれは何を言っても止まらんな。どうしたもんか……」
もう既に模擬戦の枠を超えてしまっているのだが、暴走するリリーは気付かない。
「いや、仕留めてどうするのよリリー……完全に暴走してるのよ」
そんなリリーを見ながら、トナカイは結界の内側に貼り付きながら頭を抱えていた。
先ほどの爆発で吹き飛ばされたのだ。
「リリーは困った子やん? 危なっかしくて放って置けないのよ」
そしてトナカイは、背中のチャックから一本の棒を取り出した。
「リリーは後で、お仕置きなの……よっと!」
そして、次の一手を振るおうとするリリーに一瞬で近寄り、足を払った。
「!? しまった!」
リリーはトナカイの棒に足を払われてうつ伏せに転んだ。
「しばらく寝てるのよー。ていっ!」
「ふぎゃっ!? きゅぅ……」
そして頭に一撃、トナカイの棒を貰い意識を飛ばした。
「……たんこぶ作って可哀想だけど、しかたないのよ。となかいの愛の鞭なのよ」
トナカイのドラゴン調教である。
あたまにたんこぶを作って寝ているリリーの首根っこを掴みながら、トナカイは教官にペコペコ謝った。
「うちのリリーがご迷惑をおかけしたのよ。責任を持って引き取るのよ。すまなかったのよ……」
教官にはトナカイの言葉がわからないが、うちのリリーがご迷惑を、と言っているように見えた。
「いや、気にすることはない。むしろ自分の未熟さを思い知ったよ。鍛え直して、ぜひまた手合わせ願いたいものだ。君も、な」
教官は冷や汗をかきながらも、気にすることはないと笑った。
大物である。
「さ、リリーはこれからお仕置きなのよー」
「きゅぅ……ん……」
「おい、転入生が人形に引きずられてるぞ!」
「あれは、呪われた魔道具だったんだ……知らんけど」
「お前適当だなぁ……あれ? いなくなった」
「夢でも、見てたのかな……」
こうして、リリーの初授業はわずか十分ほどで強制終了した。
「……ごめんなさい」
「リリーは暴走しすぎなのよ! もう少し落ち着くのよ!」
保健室のベッドの上で正座するリリーと、その前で仁王立ちするトナカイ。
「となかいが止めなかったら、今頃一帯が地獄絵図になってたのよ! 危なかったのよ!」
「すみませんでした……」
お説教である。
「リリー、自分らしさを出そうとするのはいいけど、限度があるのよ!」
「もうしません……」
「リリーはいい子なのよ。頑張ったらできるのよ。となかいと一緒に頑張るのよ!」
「となかい……私、頑張る!」
「うむ。応援してるのよ。それじゃ、お仕置きね?」
「えぇ!?」
「えーじゃないのよ! 我慢強い子になれるよう忍耐力を鍛えるのよ! というわけで……はい、この台に乗ってー、右膝あげてー、両手を広げて斜め四十五度! このポーズ一時間ね?」
「なんでこの台、乗る場所が尖ってるの……バランスが取りづらい」
「平らな地面でやるより難しいのよ! はい、頑張るのよー」
「うぅ……はずかしい」
何でもかんでも全力でやれば良いわけではないということを学んだリリーは、なぜか一時間、不思議なポーズを取らされるのであった。
「……そうですか。うちのクラスの生徒がご迷惑をおかけしました」
「いやいや、いいんですよ。それにしても、すごかったですよ! それなりに腕が立つつもりでいましたが、まだまだだということを思い知らされました」
「……あいつら何やってんだ」
戦闘学の教員から事の顛末を聞いて、担任が胃を痛めるのは、また別の話。




