リリーとルームメイト
珍しいとなかいのファインプレーによって、窮地を脱したリリーとルームメイトであった。
「私はリリー。魔道具使い……? です。よろしく」
「なんで疑問系なん? それで合っているのよー」
「はい。よろしくお願いします」
泣き止んだルームメイトに、ぽつぽつと自己紹介をしていくリリー。
リリーは、トナカイには流暢に話すが、それ以外に対して、あまりまともに喋ったことがないため、どうも言葉が少なくなりがちだ。
伝えたいことを伝えきるには、言葉が不足していることが多いのだ。
ルームメイトは、リリーの自己紹介を受けた後、自身の紹介を行った。
「改めて初めまして、わたしはニーナです。ここの部屋に一人で住んでいたので、新しいルームメイトができて、その……嬉しい、です。よろしくお願いします。この学園には今年度入学して、将来的に自分のお店を持つことを目標に、商売に関することを勉強しています。もちろん花嫁修行の勉強もしています」
「ところで、私ととなかいのやり取りを、どこから見ていたの?」
「えっ!? な、何も見ていま「正直に話して」この部屋に入るところから丸ごとばっちり見てましたぁぁ!」
「……」
固まるリリー。
普段からあまり周囲を気にしないリリーでも、さすがに全力で甘える姿を見せるのは、とても恥ずかしいらしい。
自分から黒歴史をどんどん増やしていくリリーであった。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……ぴゃぁぁああ! やっぱり全部見られてたぁぁもーだめだー!」
「リリーが悶えながら布団にダイブしたのよ。綺麗なフォームだったのよ」
リリーは恥ずかしさに耐えきれず、布団に頭を突っ込んで奇声を発しながら足をバタバタし出した。
学園指定の服がスカートなので、あまり足をばたつかせると中身が見えてしまうのだが、今のリリーにそこまで配慮する余裕はなかった。
ニーナは女の子なので、見られてもそこまで問題はないのだが……。
「あの……その、誰にも言いませんから! ぬいぐるみとの、叱られてから甘やかされるまでの迫真の演技は誰にも! ぬいぐるみに対して正気じゃないレベルの愛を注いでいることは! 誰にも!」
「いやぁぁぁ! それ以上いわないでぇぇ! となかい耳をふさいでてぇぇ!!」
「言いませんから! リリーちゃんがぬいぐるみをあい「そぉぉいっ!」へぶぁ!?」
「あ、一応加減はしたのね。リリーが投げた枕を顔に受けても、ニーナの顔が取れてないのよ! んで、となかいは自分の耳を塞げばええの? この姿だとおててが耳に届かないから、気持ちだけ塞いどくのよー」
「あぁぁぁとなかいがいつも通りだぁぁ……これ絶対伝わってない。それでいいんだけど何だか複雑な……うわぁぁああ!」
「こうなるとリリーは長いのよ! あんまり恥ずかしがっていても話が進まないから、はやく出てくるのよ!」
いつまでも布団に頭を突っ込んでいても話が進まないので、トナカイはリリーの布団を引っぺがしにかかった。
「いーーやーー! ほっといてぇぇ!」
「似たことが前あったけど、三日くらいずーっとそのままだったのよ! さすがにあかんのよ!」
「明日がんばるからー!」
「初対面のニーナをほったらかしにするのは、となかいもどうかと思うのよー!」
「いたた……首が嫌な音を立てましたけど、なんとか無事でした……リリーちゃんったら、ふふっ」
布団を引っ張り合うトナカイとリリー。
二人の天然コントを眺めていたニーナは、つい吹き出してしまった。
そして、微笑みながら言った。
「それにしても、リリーちゃんのぬいぐるみはすごいですねー。まるでぬいぐるみが生きているみたいですね?」
「!?」
「リリーはやく出るの、よぉぉ!?」
ニーナの言葉を聞いて、リリーは被っていた布団を離した。
そして、ニーナに問いかけた。
「どうしてそれを……?」
「いやーリリーさんの実力……えっ?」
「えっ……?」
「「……」」
もちろん、ニーナはとなかいの正体に気づいていなかった。
リリーが恥ずかしさを紛らわすために魔道具を使って、一人芝居をしているものだと思っていた。
ほめ言葉として、まるで生きているかのように動かせるんですね、という意味で言ったのだが、早とちりしたリリーがつい、聞き返してしまったのだ。
固まるリリーとニーナ。
「急に離したら飛んでくやーん」
そして、リリーが急に布団を離したため、勢いづいて布団と一緒に転がっていくトナカイ。
「……しまった」
ニーナの様子を見て、自分が余計なことを言ってしまったことに気付いたリリー。
こうなってしまっては仕方がない。
となかいとこの学園でいちゃいちゃ、もとい楽しく過ごすためには、恨みはないが秘密を知ったマリーには消えてもらうしかない。
「秘密を知られたからには、消えてもらうしか!」
「えぇっ!? きゃぁっ!」
殺気を放ちながら腕を振りかぶるリリー。
急なリリーの変化に戸惑うニーナ。
「布団が巻きついて取れないのよぉ……剥がしてほしいのよぉぶえっ!?」
そして、簀巻き状態で転がりながら戻ってくるとなかい。
ニーナは後ずさったときに、簀巻きとなかいを踏んでしまった。
そして後方にバランスを崩して、すっころんだ。
「! 外した!?」
「あいたっ! ……ひぃっ!?」
「くっ! となかいで転んで避けるとは、運がいい……大丈夫、苦しまないように一瞬で消してあげるから……」
すっころんだおかげで、致命の一撃を避けることができたニーナだが、腰が抜けてその場から動くことができなかった。
「リリー? ちょっと、待つのよ」
「……なに?」
「一人ぐらいばれても、ええやん?」
未だ簀巻き状態のトナカイはリリーに転がり寄り、しれっと言った。
「……いいの? バレちゃったけど」
「ニーナもリリーに言われるまで気づいてなかったのよー。ニーナとリリーが言わなければきっと大丈夫なのよー」
「……私も、せっかくのルームメイトを消すのは忍びない。問題ないなら、それでいい」
「……」
トナカイの言葉を聞いて、リリーはひとまず爪を収めた。
リリーはニーナに、他言無用と前置きをして、事情を説明した。
「私はドラゴンで、このかわいいぬいぐるみはとなかい。私の保護者」
リリーちゃんの話は、衝撃的でした。
実はリリーちゃんはドラゴンで、人との接し方を学ぶために学園に来ていて、このぬいぐるみはリリーちゃんのパートナーであり保護者のような存在であるとのことでした。
あまりに急な展開に、わたしの頭はついていけていません。
「……これで信じてもらえる?」
どうやらわたしが疑っているように見えたのか、リリーちゃんは腕をわたしの前に突き出しました。
「!? 手が……」
いつの間にか、かわいらしかった手が鱗に覆われ鋭い爪を持つ手に変わっていました。
きっと、これがドラゴンの手なのでしょう。
非常に、こわいです。
「……」
わたしが怖がっているのが伝わってしまったのか、リリーちゃんは複雑な顔をしながら手をひっこめました。
もう手は元に戻っています。
「となかいも元の姿を見せたらいいと思う」
「えっ! となかいさん? にも本当の姿が!?」
リリーちゃんがぬいぐるみに話しかけると、ぬいぐるみが変なポーズを取ってから光り出しました。
(もしや、このぬいぐるみも劇的な変化を……!?)
内心期待しながら待っていると、ぬいぐるみがリリーちゃんと同じくらいの背丈になりました。
しばらく待ちましたが、どうやらこれ以上変わらないようです。
「……これが元のとなかい」
「え……あぁ、そうなんですね」
(……形、一緒じゃん! こう、かっこいいお兄さんに変わったりするのかと期待しちゃったじゃん!)
期待外れのとなかいさんを見ていると、何を勘違いしたのか、リリーちゃんはわたしの前でとなかいさんを抱きしめ、咎めるような目をこちらに向けてこう言いました。
「となかいは私の保護者だから、ニーナには渡せない」
「えっ……あ、はい」
リリーちゃんには申し訳ないんですが、わたしはぬいぐるみに興味はないです。
とにかく、先ほど聞いた内容は本当のようです。
わたしの新しいルームメイトは、ドラゴンでした。
不安しか感じませんが、頑張っていきたいと思います。
「改めて、よろしく」
「はい……よろしくお願いします」




