入園前面談
店の男に、学園を紹介されたトナカイたちであった。
「が、がくえん、ですって!?」
「となかい、お前よく分かってないだろ。以前来ていた、お前らをお持ち帰りしようとしていたやつがいただろ? あいつが学園を運営していてな。その学園というのが、種族や年齢を問わず幅広く受け入れていて、多種多様なことを教えているんだ。既に多少の知識や技術は教えたが、ここでは教えられないことがある。対人コミュニケーションだ! おまえら二人の世界で完結してしまっている節があるからな! もっと他者との交流ってのを学んだ方がいいぞ」
トナカイたちは、店の男から学園への入学を勧められていた。
「あの人、ただの変な人じゃなかったのねぇ」
「私はとなかいがいればそれでいい……」
「となかい……その言葉、そのままあいつに伝えておくからな。あとリリー、お前が今までの経験から人間嫌いなのはよく分かっているが、この世界に住む大多数は人間だ。それを避け続けて生活するのは正直厳しいぞ。」
微妙な表情をするリリーを見ながら、店の男は更に言葉を続けた。
「となかいと一緒に旅をするんだろ? こいつは普通の人間と会話できんからな。お前が代わりに人間とやり取りできた方が、この先なにかと役に立つだろう。別に人間を好きになれとは言わない。嫌っていても構わないが、上辺だけでもちゃんとやり取り出来るようになっておけ。それに、人間にだって、お前が心を開けるやつがいるかもしれないぞ?」
店の男は今後のために、少しでもリリーの対人コミュニケーションを改善しようと色々考えていたのだ。
「今でも人間とはちゃんと、適切に接することができる」
「それじゃテストをしよう。ある日リリーが歩いていると、人間がとなかいを袋叩きにしていまし」
「となかいをいじめる人間は即座に始末する。その人たちはどこにいるの?」
店の男が話し合えるのを待たずに答えるリリー。
「判断はえぇな! そして現実の事ではないから落ち着け! となかいがいつものうっかりで多大な迷惑をかけたのかもしれないだろ! 例えば……そうだな。地中の奥深くに面白そうな気配を感じて、後先考えずに地面を破壊し、人間にとって大事な施設や物を壊してしまったりとか」
「たしかに、あり得るけど……ぐぬぬ」
「二人はとなかいを一体なんだと思ってるのよ!」
「ダンジョンの床を突貫、大崩落、私の頭にたんこぶ……」
「おうふ……となかい既にやらかしてたのよ……」
トナカイの平常運転にこめかみを抑えつつ、店の男は話を続けた。
「もう忘れてたのか。後で説教な? ……もう一つテストだ。ある日ダンジョンの奥深くを探検していると、体の弱そうな人間のお婆さんが助けを求めてきました。さぁ、どうする?」
「こちらに害意がなくて、困っている人は助ける。簡単な問題だった……」
「本気で言っているのか……よく考えてみろ、体の弱い人間がダンジョンの奥深くに来れるわけ無いだろ。体の弱い人間の振りをした魔物かもしれないぞ? あまりにも分かり易すぎるからどうかと思ったんだが……見事に引っかかったな。とはいえ、世の中信じられないようなことが起こるもんだから、さっきの例が絶対に罠だとは、言い切れないがな」
「言われてみれば、確かにそうかも……」
「大事なのは、その場で状況と相手をよく見て、どうするべきか考えることだ。適切な判断をするためには、様々な人間を知っておいて損はない。だが、ここには人間がおれしかいないから「え、じいちゃん人間だったん……ふべぇ!?」うるせぇ! これでもれっきとした人間だ! ……話を戻すが、ここではどうしても得られる情報が限られる。リリーはもっといろんな種類の人間に触れて、視野を広げろ。偏った考え方はそのうち身を滅ぼすかもしれないからな。分かったか?」
「……わかった。善処する」
男から学園で学ぶことを提案されたリリーは、渋々承諾した。
しかし、二人とも今でこそ会話する相手がいるが、元々ぼっち歴数百年の大ベテランである。
そんな二人が学園に馴染むことが、できるのだろうか。
「とうとう二人をわたしの学園に入れることができるのね! 歓迎するわ!」
「「……」」
数日後、トナカイたちは学園の学園長室でソファーに座っていた。
以前に一度店に来た美女が、この学園の学園長とのこと。
二人は彼女にお持ち帰りされそうになったことがあるので、とてもよく覚えていた。
「さすがのとなかいも不安を隠しきれないのよ……」
「……今度は不覚を取らない。となかいは私が守る」
「……いや、危険は特にないんだぞ? たしかにこいつは、かわいいものを見ると人が変わるが」
「う、うるさいな! かわいいものはお持ち帰り! これ、世の常識よ!」
「そ、そうだったのね……なーんて、さすがのとなかいも違うってわかるのよ!」
「えっ、違うんだ……いや、もちろん分かってた。うん、となかいを持ち帰っても私のものにはならない」
「……リリー、冗談よね? 今、となかい持ち帰ろうなんて考えてなかったよね? リリー、目を逸らしちゃ説得力がないのよ?」
明らかに目が泳いでいるリリーに、問い詰めるトナカイ。
そんな二人を見て微笑む学園長。
「……リリーちゃんは可愛いわねぇ。ずっとこの学園にいてもいいのよ? わたしが許可するわ!」
「おまえら……遊んでないでさっさと話を進めろよ!」
若干引き気味のトナカイたちだが、学園長は特に気にせず緩みきった顔で学園に関する説明を行なっていた。
ここで、一つ問題が発生した。
「んー、リリーちゃんは問題ないのだけれど、となかいちゃんがちょっと困ったわね」
トナカイである。
精霊であるトナカイは、普通の人間と会話することができない。
「とても残念だけど、他の生徒と意思疎通ができないから、生徒として入ることは出来ないわね……私のペットとして入学するしかないわね!」
「誠に申し訳ございませんが、全力でお断りさせて頂きます」
「となかいは口調が変わるくらい嫌だそうだ」
「そんなにお姉さんが嫌なの!?」
「あ、リリーが膝から崩れ落ちたのよ……大丈夫なん?」
「と、となかいと一緒に入園できない!? そんなぁ……」
トナカイと一緒に学園生活を送れると思っていたリリーは、トナカイ入園不可の言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。
なんとかしてトナカイと一緒に入園できないか必死に考えながら、あれやこれやと提案するリリー。
「わ、私がとなかいの通訳をするから……」
「うーん……常にリリーちゃんととなかいちゃんが一緒にいるっていうのは難しいわね。寮生活だし、実技試験や課外活動とかもあるし。」
「じゃぁ、となかいが関わる人に精霊と会話できる術を教え込めば……」
「リリーちゃんがすぐに精霊と会話する術を覚えたって聞いているけど、それはとても凄いことなのよ? 普通の人間はその術を会得することすらできないんだから。才能のある人間でもそれなりの時間がかかるわね」
「それなら、となかいになんとか筆談で頑張ってもらって……」
「んー、いい提案だとは思うけど……さっきも言ったけど、座学や日常生活だけじゃなくて、他人と連携する課外活動や戦闘の実技もあるのよ? それを筆談でなんとかするのは無理があるわね……」
「うぅ……だめ、これ以上思いつかない! となかいぃ……なんとかしてぇ!」
「んー、となかいの考えてることがみんなに伝わればいいのね? それならー……てってれー、考えていることが周りに伝わる腕輪ー」
リリーに縋られたトナカイは、背中のチャックをごそごそして腕輪を取り出した。
「なにそれとなかいちゃん……考えていることが伝わる腕輪ですって!? 凄いわね! これならなんとかいけるかしら……ぁー、だめねぇ。となかいちゃんの考えていることは確かに伝わるんだけど……となかいちゃんの思考が常に頭に入ってきて困るわねぇ。というか、食べ物のことばっかり考えているのね……」
「だめなのねぇ、それは残念よー。じゃあこの腕輪はいらないねぇ……ぽいっと」
「あ、となかいちゃんが放り投げた腕輪が、壁で跳ねて偶然リリーちゃんの頭に乗っかった……あらあらリリーちゃんは本当にとなかいちゃんのことしか頭にないのね。よっぽどとなかいちゃんのことが「ぴゃぁぁあだめぇぇ!! 忘れてぇぇ!!」いけないリリーちゃん落ち着いて……ギャー! ドラゴン化はだめぇぇ!!」
一瞬とはいえ強制的に心中を暴露させられて、取り乱すリリー。
「なんて物を出すんだバカとなかい!」
「えぇぇとなかいのせいなんこれぇぇ!? リリーが元の姿に戻ったらさすがにこの部屋に入り切らないのよぉぉ!」
「ギャウウウ!!」
(いやぁぁぁ!!)
リリーは久しぶりのドラゴン姿で、狭い室内を暴れ始めた。
「おいとなかい! さっさとリリーを止めろ! やばいブレスを吐く気だ! となかい! 行って、こぉぉい!!」
「となかいを投げるのはどうかと思うのよぉぉ!?」
「あー……ドラゴン化したリリーちゃんの口にとなかいちゃんが! あ、口を閉めた。だめよリリーちゃん! ぺっしなさい! ぺって!」
「リリーに食べられるのは久しぶりなのよ」
「余裕そうだな。じゃ、後は若い者同士、なんとかしてくれ……用事を思い出したからまた後でな!」
「あっ、待って! あいつ……転移で逃げた! 後で部屋の修理代を請求してやる……覚えてなさいよー! ……はぁ、どうしようこれ」
部屋の中はリリーが暴れたせいでめちゃくちゃである。
ちなみに、さすがに元の大きさではなく、ギリギリ部屋からはみ出す程度の大きさにとどまっている。
「ンンンンーー!!」
「となかいがいっぱいもふもふしてあげるから落ち着くのよぉぉ!」
「! ……うん」
トナカイの提案を受け、瞬時に人間姿に戻るリリー。
「あ、大人しくなった……リリーちゃんは一瞬で人間の姿になれるのね」
「もふもふ……」
「よしよし、いい子なのよー」
「リリーちゃんを一人にすると学園が物理的に崩壊しそう……となかいちゃんと一緒にしておいた方が被害を抑えられそうね」
トナカイの余計な道具のおかげで、リリーがドラゴン化し学園長室が半壊したが、トナカイによってなんとか収集がついた。
そしてトナカイの、入園についての方向性が決まった。
万一リリーが暴走した時のストッパーとして、トナカイは常にリリーの元にいることとなった。
「というわけで今日から魔道具使いリリーちゃんということでよろしく! 魔道具はとなかいちゃんね!」
「「……えっ?」」
リリー専用の、魔道具に扮して。
ちなみに、トナカイが出した、思考が周囲に漏れる腕輪は、リリーが粉々に破壊した。




