帰還
まさかの活躍をみせるトナカイであった。
「……はっ!? となかい、どこに向かっているの?」
「えっ、お店に帰るのよー?」
「……そうだった。となかいが先導できるわけがなかった。さっきはかっこよかったのに……そんな残念なところは、いつも通りだね」
顔を赤らめて下を向き、トナカイに手を引かれながら歩いていたリリーだが、トナカイがあらぬ方向に歩いていることに気付き、慌てて軌道修正をした。
先ほどのやりとりが嘘のように、トナカイはぽやーんとしていた。
リリーは平常運転のトナカイを見て苦笑しながら、トナカイを先導するのであった。
「「……」」
トナカイとリリーは、無言で歩いていた。リリーには残念ながらトナカイの言葉が届かないのだ。
だが、この二人の間に気まずい雰囲気はない。
トナカイはマイペースだし、リリーはトナカイといるので上機嫌だ。
歩くこと数日。
「やっと着いたのよ!」
「やっと着いたね。なんだかとても懐かしい感じがする。」
トナカイたちは山の上の店にたどり着いた。
それほど長く離れていたわけではないのだが、殺風景な場所に建つ飾り気のない店は、とても懐かしく思えた。
「お、帰ってきたか。おかえり」
「じいちゃん!となかいとリリーは無事なのよ!」
「二人とも道中問題は無かったか? 二人が一緒に帰って来たということは、どうせトナカイが間違ってリリーのいるダンジョンにでも行っちまったんだろ。リリーはその頭に付けてる花がそうだな。よく似合っているじゃないか」
店の男は帰ってきたトナカイとリリーを、優しい笑顔で迎えた。
「えっ……!? いつの間に?」
「リリーがとなかいの背中で寝ている時から既についてたのよ? もしかして、まだ気づいてなかったん?」
「お前がとなかいの背中で寝ていた時からだそうだが、何かあったのか?」
「あんなに前からついていたなんて……不覚」
「となかいが床をぶち抜いたらリリーに当たって寝ちゃったのよ……」
トナカイが店の男に、ダンジョンでの出来事を話すが、残念ながら端折り過ぎてよく分からなかった。
「お前の説明はいまいち分からん! まずはリリーに聞くから、お前はそこの菓子でも食って待ってろ」
「じつは……」
「ひゃっはー! 久しぶりのじいちゃん特製団子なのよ!!」
「うるせぇ! 黙って食ってろ!」
「……もぐもぐ」
「いや、リリーに言ったんじゃないんだ。お前は報告してくれよ……」
説明を求められたリリーは、店の男にお使い達成の報告と、ダンジョン内での出来事を話した。
「そうか……そんなことがあったんだな。何にせよ無事でよかった。さて、嫌な予感しかしないが、一応となかいにも聞いておくか……」
「となかいの冒険物語を聞きたいのね! がんばって考えるのよ!」
「いや物語にしなくていいから、おれが聞いたことに、シンプルに答えてくれないか」
店の男はとなかいにいくつかの質問をした後、顔面チョップをお見舞いした。
「ばかやろう! やっぱりやらかしてんじゃねぇか! あれほど注意したことを律儀にやらかしてるんじゃねぇ!」
「ぶえぇ! となかいの顔がツインになってしまうのよ!」
「さすがに加減しとるわ! 割れるほど叩くわけねぇだろ!」
「……半分になったら私に片方ちょうだい」
「いや、だからさすがに分断するほどはやらねーよ! それに、半分になったとなかいは嫌だろ?」
「うーーーん……」
「悩むなよ……」
すっかり忘れていたが、トナカイは道中迷子になり、予定とは違うダンジョンを踏破していたのだ。
残念ながらトナカイはお使い失敗であった。
「となかいは論外だが、過程はともかく、指定のダンジョンから指定の物を持って帰って来れたリリーは、一応合格としてやろう。それじゃ、お待ちかねの報酬だ。こっちに来い」
「わかった」
リリーは報酬を受け取るために男と別室に行った。
「となかいも頑張ったのに……リリーは無事合格できてよかったねぇ。報酬って、何だろねぇ?」
男とリリーは部屋にこもっていたが、しばらくすると二人で出てきた。
「ほれ、試してみな」
「うん……となかい!」
リリーは目を輝かせながら、トナカイを呼んだ。
「どしたんリリー?」
呼ばれたトナカイは、反射的に返事をした。
「となかいの声が……きこえる! となかい!!」
それを聞いたリリーは、満面の笑みでトナカイに抱きついた。
「おふぅ!? 急に飛びついたら危ないのよー」
「となかいならちゃんと受け止めてくれるから、大丈夫だもん!」
「!? となかいの声が、本当に聞こえてるのねぇ。すごいねぇ」
どうやらリリーは、報酬に精霊と会話できる術を得たらしい。
トナカイは、会話できる相手が増えて喜んだ。
「これからはリリーともお話ができるのねぇ。嬉しいねぇ」
「師匠経由じゃなくて、直接となかいと会話できるようになったね! これからは、いっぱいお喋りできるよ!」
「もう、となかい独り言じゃなくなるのねえ」
「となかいのこと、色々教えてほしいな」
「なんでも教えてあげるのよー」
「本当に? じゃぁ……」
トナカイとリリーはいろんな話をした。
と言っても、主にリリーがトナカイの事について聞きたがっていたので、それに答える形になっていた。
ちなみに男は、トナカイたちの会話が始まったあたりで、会話の内容(というかリリーの勢い)に微妙な笑みを浮かべてから、店の外へと去っていた。
「完全におれのこと忘れてやがるな、こいつら……ちょっくら、買いもんでも行ってくるか。あの感じだと半日は話し込むだろうし、ゆっくり行ってくるかな」
それでは、トナカイ&リリーの会話の一部を、QA形式で見てみよう。
Q.ご出身は?
A.えっ……なんで急に言葉遣い変わったん? ……わかったのよ。気にしちゃダメなのね。えーっと、となかいは小さな森で生まれたのよ。そして数百年? あんまり数えてないけどそのくらい森に住んでいたのよー。
Q.数百年、私と同じくらいなのね……こほん、私と出会うまではどのような事をなさっていたのですか?
A.その口調は変えないのね。じっちゃん経由で聞いたと思うけど、森を出たらすぐに捕まってー、サラのところでお世話になってー、ぶっとばされてー、レン、だっけ? に、ごはんを奢ってもらってー、って感じよ!
Q.ざっくりすぎてよく分からないけど……その、サラというのは?
A.サラはねー、リリーと同じくらいの大きさの女の子なのよ。そんでお金持ちの家の子でー、元気で可愛かったのよー。となかい人形で遊んだり一緒に寝たりして……まぁとなかい寝な――
Q.一緒に寝た!? となかいと深い関係なの!? ちょっとそこ詳しく!
A.!? リリー口調が戻ってるのよ? あ、そうなん。気にしちゃダメなのね……えーっと、サラはたしか五歳くらいの子供なのよー。サラのお友達としてとなかいが買われてから、常にサラに引っ張り回されてたのよー。いろんなことして遊んで、楽しかったのよー。
Q.いや、そうじゃなくて……となかいとこう、付き合ったりとかそういうのは……ほら、その子のことが好きとかなんとか……
A.サラはいい子だったのよー。となかいをもふもふするのが好きで、よくくっついてたのよー。
Q.ぐぬぬ……となかいの説明ではよく分からない。でも、人間で五歳くらいならまだ小さい子供……問題ない。保護者と子供程度の関係のはず。
A.ん?リリーが何か小声で呟いてるのよ。もふもふしたりくっつくのが好きなのは、リリーも一緒ねぇ。リリーもかわいいのよー。
Q.!? か、かわいいって……となかいが私をかわいいって言った……ん? もしかして私も五歳くらいの子と同じような扱いなの? 喜んでいいのか複雑……こほん、となかいの性別は?
A.となかい、精霊だから性別とかはよくわからないのよー。強いていうなら、性別はとなかい、なのよ! あ、でもがんばったら男も女もなれる気がするのよー。リリーは、どっちがええのん?
Q.え……選べるなら私が女? だから男の方がいい……のかな? となかいならどっちでもいいけど。あっ、えーっと……ごほん!好きな食べ物は?
A.なんだか急に話が変わったような……あ、はい。気にしたらあかんのね。となかいは食べ物はなんでも好きなのよ! 強いて言うならお菓子がお気に入りなのよ!
Q.なるほど。ご趣味は?
A.最近はお菓子作りなのよ!新たなお菓子を作って食べるのよ!
Q.となかいらしい趣味ね。……好みのドラゴンのタイプは?
A.ドラゴンのタイプ!? となかい、ドラゴンはリリーしか知らないのよ……リリーはねー、最初空の風景を見せてくれていたと思ったら、実は食べられそうになっていてー、遊んで欲しいのかと思ってたらやっぱり食べられそうになっていてー、人間の姿になってからは事あるごとにとなかいもふもふする甘えんぼさんでー、かわいくてー、しっかりさんでー、でもちょっと弱いところもあってー、戦うと強くてー、とな分? ってのがないとダメらしくてー、ぱっと見おすましさんだけど、となかいと遊んでる時はけっこういろんな表情をしていてー……あれ、リリー? なんで顔隠してぷるぷるしてるん? どしたーん?
Q.(不意打ちで黒歴史と私の印象をいっぺんに聞いてしまった……恥ずかしい)
A.ぷるぷるしたまま反応がないのよ。おててをひょいっとどけてー……およ? リリーの顔が真っ赤なの
Q.ぴゃぁあああ見ないでぇぇ!!
A.へぶぅ!? この流れは前もあった気がするのよぉぉ!!
恥ずかしさのあまりトナカイを張り倒し、しばらくしてから何もなかったかのように、質問に戻るリリーであった。
それからまた、しばらくの時が経った。
「チャーハンは火力が命なのよぉぉ!!」
「お前は一体何を目指しているんだ……」
「となかいの作る食べ物はどれも絶品ね」
相変わらず男の店で勉強と訓練を続けるトナカイたち。
戦闘訓練を受けてどんどん力をつけていくリリーに、料理の腕を上げていくトナカイ。
トナカイの興味はおかし作りからご飯作りへとシフトしたらしく、男から様々な調理技術を学び習得していた。
くいしんぼうトナカイである。
リリーはリリーで、ダンジョンでの失態が心に引っかかっているらしく、幻術や精神攻撃などの対処を重点的に学んでいる。
二人は一体、どこへ向かっているのだろうか。
そんなある日、男からこんな提案をされた。
「お前ら、学園で学んでみないか?」




