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外伝_ある冒険者たちが見たもの

 これは、ダンジョンでリリーが助けた冒険者たちの、その後のお話。


「リリーさん、単身でダンジョンに入っていったが、本当に大丈夫だろうか?」

 パーティのリーダーは、利用している宿の一室でつぶやいた。

「リリーさんの強さは、ダンジョン内で見たじゃん? あのダンジョンの魔物じゃ相手にならねーって!」

 パーティメンバーの男がベッドの上で寝ころびながらリーダーのつぶやきに答えた。

 この冒険者たちは先日、ダンジョン内で転移魔法陣に引っかかり、とても深い階層まで飛ばされ全滅の危機に陥っていたのだ。

 たまたまリリーが通りかからなければ、今頃は魔物に食い散らかされ、無残な死体を晒していたであろう。

 リリーの強さは圧倒的であった。

 迫りくる魔物を無表情で葬る姿は、冒険者たちに頼もしさと同時に恐怖心を与えた。

 しかし、一般人と違い多少の恐怖には慣れていたため、リリーを恐れ敬遠するということはなかった。

 冒険者たちはそこそこの経験を積んでおり、何人もの強者を見てきたが、リリーは別格であった。

 そんなリリーがダンジョンで危機に陥るとは考えづらいのだが、言葉では表現できない、勘のようなものが働いたのだ。

「確かにリリーさんは強いが、ダンジョンには、単純な力だけでは乗り越えることが難しい仕掛けがあったりするからな……」

 「たしかに、そうだなぁ。例えば、幻術とか精神攻撃を受けてしまって、力を全く活かせない状況になるとかすれば、もしかしたら……ってそんなこと、まぁ無いわな!」

 メンバーは笑いながら自身の言葉を否定したが、まさにそのときリリーは、言葉通りの状況に陥っていた。

 そんなことを知る由もない冒険者たちは、リリーの無事を祈りつつ、次の冒険の準備を始めるのであった。



 それから数日経ち、次の行き先を決めた冒険者たちは、備品の購入をするため、街中を歩いていた。

「おい、あの後ろ姿は……リリーさんじゃないか?」

「本当ね! あら? 隣を歩いているのは誰かしら?」

「あの茶色い者から、得体の知れない力を感じます……これは祈らざるを得ませんね」

「そうなのか? 俺にはただの着ぐるみにしか見えないぜ? 祈りすぎて変なもんが見えるように……ぐえっ!?」

「……天罰です」

「あなたはいつも一言多いのよ」

 冒険者たちがリリーの隣を歩く謎の着ぐるみに関して話していると、リリーと着ぐるみは一軒の店に入っていった。

「……話しかけそびれてしまったな。リリーさんには同行者がいたんだな」

「何にせよ、無事に帰ってきてたみたいでよかったわ! 一人でダンジョンの中に入っていったから、心配してたのよね」

 ぜひ改めてお礼を言いたいが、食事を始めたらしいリリーたちを見て、食事が終わるまで店の外で待つことにした冒険者たち。

 ふと、メンバーの一人が気づいた。

「……ねぇ、あの人、本当にリリーさんよ、ね?」

「姿形そのままリリーさんじゃないか。何言ってるんだ?」

 「顔、よく見てみて」

 メンバーにそう言われて、改めてリーダーはリリーの顔を見た。

 「!? 表情が……あるぞ! ダンジョンで助けてもらってから別れるまで、完全に無表情だったのに!」

 仮にも女性に対して、失礼なことを言うリーダーだが、事実リリーは、彼らの前で表情を変えることがなかったのだ。

 唯一、ミニトナ人形をモフモフするときだけ、若干表情を崩していたが。

「リリーさんに、あんなに柔らかい表情をさせるとは……あの着ぐるみは、何者なんだ」

 戦慄する冒険者たちをよそに、リリーと着ぐるみは更に、驚きの行動に出た。

「!? な、何ですって……」

「今度は何だ?」

「これは、恐らく神の起こした奇跡です。祈らねば……」

「まじかよ……まさかこの目で見ることになるとは……」

 リーダーが着ぐるみに関して考えている隙に、何か信じられないことが起こったらしい。

 改めて二人を見ると、そこには。

「飯を、食べさせ合っている……だと!?」

 顔を若干赤らめながら、着ぐるみに自分が食べていたものを差し出す、リリーの姿があったのだ。

 冒険者たちは皆、独り身であった。

 仲の良いカップルがやるという、あーん、という行為を噂では聞いていたが、見たこともしたこともなかったのだ。

「あのリリーさんと深い仲になっているということは……あの着ぐるみはもしや、リリーさんのような強者なのか!?」

「きっと、とんでもない大物なのよ!見た目はアレだけど!」

 着ぐるみに対しても失礼な冒険者たちであった。

 だが、たしかに見た目がアレなので仕方がなかった。

 しばらく観察していた冒険者たちだが、不意にメンバーの一人が呟いた。

「……あれ、何だか動物の餌付けみたいだな」

「ぶふっ!? ちょっと! やめてよもう……そうとしか見えなくなっちゃったじゃない!」

「餌付けはさすがに言い過ぎだが、まるで子供に食事を与える母親のようにも見えるな……」

「確かに、リリー様のお顔が慈愛に満ちていますね。もしや、リリー様は慈愛の神なのでは……」

 言いたい放題の冒険者たちであった。

「あっ! リリーさんたちがお店から出てくるわ! 隠れないと!」

 メンバーの言葉に思わず身を隠す冒険者たち。

「勢いで隠れてしまったが、なぜ隠れる必要が……」

「これだからリーダーはリーダーなのよ! あの二人をもっとよく観察して、どんな間柄なのか確かめないといけないでしょ!」

「いや、その発想はおかしいだろ……」

 メンバーの女性は、完全に好奇心に突き動かされていた。

 勢いに押されて、仕方なく指示に従う情けないリーダーであった。



 ご飯を食べ終えて上機嫌で、着ぐるみと手を繋ぎながら歩くリリー。

 その少し後ろを尾行する冒険者たち。

「なぁ、やはりこんな付きまとうようなことはやめて、普通に「シーッ! 静かに! 気づかれたら命は無いわよ!」……今気づかれたら、完全に不審者だな」

 尾行を始めた時点で完全に不審者なのだが、リリーと着ぐるみの関係が気になる冒険者たちは、そこまで頭が回らなかったようだ。

「街の外に向かっているみたいね。結局仲が良さそう、ということしか分からなかったわ……」

「そうだな。よし、もう良いだろう? 普通に声をかけ「待って! リリーさんたちに新たな接触者よ!」お、おう……そのようだな」

 しばらくリリーたちを追っていたが、特に得られる情報がなかったため、尾行を切り上げようとしたそのとき、リリーと着ぐるみの前に柄の悪い男たちが近寄ってきた。

 何やら着ぐるみに話しかけているが、どうも親しい間柄には見えない。

 男たちの数はおおよそ三十、並みの人間ではとても太刀打ちできない数であった。

「これは、早く助けに行かねば!」

「待って! リリーさんならあの程度の数、多分瞬殺よ。それより、あの着ぐるみの実力がこれで分かるんじゃないかしら。リリーさんみたいに強いなら問題なく捌けるはずよ!」

「確かに、リリーさんクラスの実力者なら、お節介になるか……」

「俺たちが行っても、あの数は厳しくないか? むしろ邪魔になるかもしれねーよ」

「……一応、無事を祈りましょう」

 様子を見ると冒険者たちが決めた途端、動き出す状況。

 着ぐるみが男たちに、ボッコボコにされ始めたのだ。

 更に、リリーが男たちに囚われてしまった。

「リリーさんが捕まった!? あり得ないわ!」

「もしや、何かしらの作戦があるのだろうか……」

「あの着ぐるみ、やばくないか? やつらに何度か刺されてたぞ!」

 まさかの状況に動揺を隠しきれない冒険者たち。

 やはり助けに向かうべきではないかと考えたそのとき、着ぐるみが動いた。

「背中から棒を出した? どこにあんな棒を隠していたんだ?」

「あの人数を相手に棒切れ一つで戦おうとしているの!? 全然強そうに見えないし……」

「!? な、なぁ……あの着ぐるみ、さっきまで確かに、あのへんに立っていたよな?」

「……あぁ。目を欠片も離していなかったのに、急に消えたよな」

「やはり、あの茶色い方は不思議な力を持っていたのですね」

「見て! 急にあいつらが倒れだしたわよ! 一体何が起こっているの……」

 冒険者たちは目を疑った。

 着ぐるみが、急に消えたのだ。

 気付いたときには、既にリリーの隣に立っており、リリーを捕らえていたはずの男が倒れていた。

 全く見えなかったが、おそらく着ぐるみが何かしたのだろう。

 冒険者たちは得体のしれない力に戦慄した。

 冒険者たちが自身の目を疑っている間に、着ぐるみはリリーの手をとってさっさと街の外へと歩いて行ってしまった。

 結局、リリーに声をかけることが出来なかった冒険者たちであった。

「あの着ぐるみはとてつもない何かを持っていたんだな……」

「見た? リリーさんの表情……必死に隠そうとしているみたいだけど、これ以上ないくらいデレていたわね」

「世の中には、あんなに強いのがゴロゴロいるんだな……俺、冒険者引退して静かに暮らそうかな」

「日頃からうるさい貴方が、静かに暮らせるわけないでしょう? お薬追加しますか?」

「俺だって常に喋ってるわけじゃねぇよ! あと薬なんざ飲んじゃいねぇよ!」

「……とりあえず、町に戻るか」

「……そうね。あ、リリーさんたちが置いていったこいつらを、ギルドに突き出しておきましょうか。放っておいても碌なことがないでしょうし」

 着ぐるみとリリーがほったらかしにしていた男たちを手早く拘束し、冒険者ギルドに突き出した冒険者たち。

 この男たちが最近ダンジョンで悪事を働いていた盗賊団だとわかり、報奨金をたんまりと受け取ることになった。

「……この金、リリーさんに渡さないとな。いつかまた、会えるだろうか?」

「会えるかどうか、じゃなくて会いに行くんでしょ!」

「さすがに何もしてなかった俺たちが、その金をもらうわけにはいかねぇもんな!」

「リリー様方とは、またお会いできる予感がします。そのときを祈りながら待ちましょう……」

 


 冒険者たちは、リリーに報奨金を渡すという新たな目的を持ちながら冒険を続けた。

 そんな冒険者たちがリリーと再会したが、超デレリリーの姿を見てしまったことをうっかり喋り、この世からサヨナラしかけるのは、まだ当分先のことである。


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