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帰り道の出来事

なんやかんやでリリーの危機を救ったトナカイだが、無事に山の上の店に帰れるのか。

 ここは、ダンジョンのとある場所。

 トナカイは地上を目指して進んでいた。

「ここは、どこなん! となかいを迷わせるとは、なかなかのもんなのよ!」

 ダンジョンを面白半分で転移し続けていたトナカイが、帰る道を知っているわけがなかった。

「ここは、やっぱり転移クジを引くしかないよね? でも、リリー背負ってるからあんまり無茶できないのよ」

 実はダンジョンコアに触れると、地上まで転送されると店の男から教わっていたのだが、トナカイはそのことを忘れてしまっていた。

「それにしても、リリーはよく寝てるねぇ。寝る子は育つのねぇ……リリーって、育つん?」

「すぅ……すぅ……ん。すやぁ……」

 リリーを背負いながら彷徨うトナカイ。

 すでに三日ほど経っているのだが、リリーはよほど疲れていたらしく、なかなか目を覚まさなかった。

 寝息が聞こえるし、たまにごそごそ動くので心配はないと思うのだが。

 それよりも直近の問題としては、トナカイ一人では、何日かかってもダンジョンから出られない、ということだった。

「ま、となかいが頑張って地上に帰るのよ!」

 結局リリーが五日目に目を覚ますまで、となかいの放浪は続くのであった。



 目の前のガーディアンを倒せず、焦りや悲しさと疲労で、何が何だかわからなくなっていると、急に上から大きな音がした。

 そして気づけばもふもふしたものに乗っかっていた。

「ん……? もふもふ……」

 ずっと求めていたものが目の前にある。

 ぼんやりとしたままもふもふを抱きしめると、安心感で心が満たされ、眠くなってきた。

「はふぅ、もふもふ。すぅ……すぅ……」

 もふもふに揺られながら、再び意識を手放した。

「ん……? もふもふ、じゃなかった。となかい?」

 またしばらくして目を覚ますと、やはりここにいるはずのない、トナカイの大きな後頭部が目の前にあった。

 もしかしたらガーディアンにやられて、死後の世界にいるのだろうか。

 でも死後の世界なら、トナカイがいるわけがない。

 だとすると、これはきっと夢なのだ。

 自分がどうなったかはよくわからないが、いい夢を見ているからこのまま覚めないでほしいと思った。

 せっかくの夢なので、思い切りトナカイに甘えることにした。

「となかい、ぎゅー……」

 普段はもふもふ目当てという体で抱きついていたので、少し遠慮している部分があったのだが、今回は夢なので、遠慮なく思い切り抱きついた。

「はふぅぅ……夢って、素晴らしい」

 トナカイの背中に背負われた状態で、腕をトナカイの首元に回し、すりすりもふもふした。

 枯渇していたトナ分が急速に補給されていく気がした。

「……ずっとこのまま、となかいを抱きしめていたい」

 リリーはトナカイを、もふもふして、すりすりして、もふもふして、もふもふし倒した。

「はぁぁ……幸せぇ……となかいぃ……」



「……いくらなんでも、さすがにもふりすぎなのよ! くっつきすぎてリリーがとなかいと同化する前に引っぺがしておくのよ!」

 リリーのもふもふは、トナカイがリリーを背中からひっぺがすまでの数時間続いた。

 数時間されるがままだったトナカイもトナカイである。

「あぅ……夢なのに、となかいが私を拒否する……」

「悲しいけど、これが現実なのよね」

「……となかいが首を横に振ってる。夢じゃない? えっ……そうなの?」

「うむ。となかいは架空の存在ではないのよ!」

「……夢じゃないということは、本物の、となかい?」

「とりあえずリリーはお説教なのよ。はい、そこに正座ね」

「何だかとなかいが、お説教をする雰囲気になってる……」

「合ってるのよ。さすがリリー、言葉が届いてなくてもちゃんと伝わったのよ!」

 トナカイは、リリーを正座させた。

「……すみませんでしたー。もふもふしすぎましたー」

「うむ。となかいも、別に嫌なわけではないけど、今はお使い途中だから、早く帰らないといけないのよー」

 リリーはもふりすぎたことをとりあえず謝ったが、後悔も懲りもしていなかった。

「で、でも……なんでとなかいがここにいるの?」

 リリーは、自身の先ほどまでの行為に内心悶えつつ、疑問をトナカイに投げかけた。

 すると、トナカイは不思議そうに、首を傾げていた。

「もしかして、私の危機を察知して飛んできてくれた!? ……わけないよね。となかい、そんなかっこいいことしてくれるような感じじゃないもんね。どうせ、道を間違えてこっちのダンジョンに来ちゃったんでしょ? そして、そのことにとなかいは気づいてないとみた」

「リリーが間違えてこっちにきたん違うん? リリーはしっかりさんだから、となかい自信がなくなってきたのよ……」

「はぁ……一瞬とはいえ、となかいに期待してしまった自分が恥ずかしい……さっきのトキメキを返して欲しい」

「そんなじっとりとした目で見られても困るのよ……」

 一瞬とはいえ恥ずかしい勘違いをしたリリーは、気を取り直して、まずはダンジョンから出ることにした。

 とりあえずリリーは探索の魔法で、自身の位置を確認した。

「んー、最下層からそこまで離れてないみたい。これならダンジョンコアに触って戻った方が早いよ? というか、なんでダンジョンコア使わなかったの?」

「えっ、そんなんできるん?」

 リリーの言葉を受けて首をかしげるトナカイ。

「……もしかして、忘れてた? 師匠がダンジョン講座の時に言ってたよ?」

「そういえば言ってた気がするのよ! さすがリリーはよく覚えているのよ!」

 リリーは残念さ平常運転のトナカイを、かわいそうな子を見る目で一瞥してから、ダンジョンコアの部屋まで引っ張っていった。

 トナカイはリリーの優秀さをよく知っているので、おとなしくリリーに引っ張られていった。

 こうして、初めてのおつかいであるダンジョン攻略がなんとか終わったのである。

「あ、ダンジョンコアの周りに咲く花ってこれのことね。私がガーディアンを倒したわけじゃないけど、せっかくだからもらっちゃおう」

「あ、リリーの分は髪についてるのよ? ……ま、いっか」



 リリーは久しぶりの地上で体を伸ばした。

「んー……地上に出たら、なんだかお腹すいた。街で何か食べてから帰りたい」

「いいのよ! おなかすいたら食べるのよ!」

 ダンジョンから出たリリーとトナカイは、街に食べ物を買いに行った。

 何かと大変だった上に何日も何も食べなかったため、お腹が空いていたのだ。

 おつかいの最中だが、このくらいの寄り道は別にいいのだ。

「あ、このお店にしよ? なんだか美味しそうな匂いがする。」

「そうねぇ……あっ!?」

 ご飯を買おうとお店に入ったトナカイは、大事なことを思い出した。

 お金が、ない。

 ダンジョンの中で盗賊に身ぐるみはがされたことを、今の今まですっかり忘れていた。

「……となかい、どうしたの? もしかして、もうお金を使っちゃったの? となかいのことだから、お菓子とか買いすぎたのかな? ……しょうがないなぁ、私が奢ってあげる」

「となかい、どれだけ食いしん坊だと思われてるのよ……ちがうのよ! となかいは盗賊にお金全部あげちゃったのよ!」

 リリーは、しょんぼりするトナカイの代わりにお金を出してあげることにした。

 それぞれ別のメニューを注文し、食べる二人。

「このごはん、とてもおいしいのよ! リリーにも一口あげるのよ! はい、あーん」

 不意に自分のご飯を一口分、リリーに差し出すトナカイ。

「えっ、くれるの? じゃぁ遠慮なく、あーん、もぐ……! 美味しい!」

 トナカイから差し出されたご飯をおいしそうに頬張るリリー。

「おいしいねぇ。ごはんがおいしいと、幸せねぇ」

 そこで、リリーは気付いた。

(……! こ、これは……この前師匠が言っていた、人間が番になっときにすると言われる、デートってやつでは! お互いに食べ物を食べさせ合ったりするって言ってた! じゃあ、次は私が食べさせればいいのね!?)

「……となかい、さっきのお礼に私のも食べさせてあげる。はい、あーん」

「リリーもごはんを分けてくれるん? わーい! 食べるのよ! あーん、もぐもぐ……これもおいしいのよ!」

「となかい、おいしい?」

「うむ! おいしいのよ! ごはんがおいしくて、幸せねぇ。あれ、さっきもこれ言ったねぇ? まぁいっか」

 トナカイはとても嬉しそうにリリーからごはんを貰った。

「……となかいが無邪気でかわいい。もっと食べさせてあげる。はい、あーん」

「もぐもぐ! リリーがとなかいにごはんをくれるのよ! おいしいのよ!」

「……うふふ」

 ごはんを食べさせてもらって喜ぶトナカイに、それを見て優しく微笑むリリー。

 恋人同士のやりとりを意識していたはずだったのだが、これでは完全にトナカイの餌付けである。

 それに気付かないリリーは、幸せそうであった。

 そんなこんなで、ご飯を食べて満腹になったトナカイたちは、帰路についた。

 その道中で、出会ってしまった。

 トナカイをボッコボコにして金を奪った、盗賊たちに。



「今回はぼろ儲けだったな!」

「そうだなぁ! 相当な額が袋に入ってたからな! 上等な酒が飲めたぜ!」

「着ぐるみ野郎、様々だな!」

 ダンジョンで冒険者を襲う盗賊団の一味は、ご機嫌な様子で街を歩いていた。

「おい、あいつが無事にダンジョンから出てくるか賭けしようぜ!」

「あぁ? あれから何日経ってると思ったんだ! んなもん賭けになんねぇよ!」

「「ぎゃははは!」」

 盗賊たちは、奪った金を分配したのち、複数のグループに分かれて、冒険者を装い街で寛いでいた。

「……おい、あれを見ろ!」

「あぁ? はあぁ!? なんであんな所に居やがる!」

 たまたま街中を歩いていた盗賊グループは、そこで信じられないものを見た。

 転移魔法陣に放り込んだはずのトナカイが、すぐそこにいたのである。

 たしかに、下層に転移する魔法陣に放り込んだはずだが、なぜか生きて地上に出ているのだ。

「やつがなぜ生きて戻っているのかはともかく、一緒にいるガキは高く売れそうだな」

「そうだな! まさか二度も奪われることになるとは、考えもしなかっただろうな!」

 もしや強運でそれほど深いところに転送されなかったのではと予想しつつ、同行している幼女を見て悪い笑みを浮かべた。

 盗賊に襲われて、ろくに抵抗することすらできない腰抜けが、幼女を連れているのだ。

 まさにネギを背負ったカモである。

 幼女は、奴隷商人に売れば高値をつきそうなほど可愛い。

「あいつら、街を出るみたいだな……待ち伏せるか。おい、残りの奴らを呼んで来い!」

 先日のトナカイ強盗で味を占めている盗賊たちが、もしその幼女の髪に飾られた、ダンジョン踏破の証に気づくことができていれば、もう少し慎重な判断を判断していただろう。

「ごはんをいっぱい食べられて、幸せねぇ」

 ちなみに、ごはんを食べてご満悦なトナカイは、既に盗賊たちのことを完全に忘れていた。



「おい、こんな所でまた会うとは、奇遇だなぁ!」

「あれ? となかいの知り合いなん? となかいそんな友達多かったのねぇ」

「……この人たち、なんだか目が嫌」

 人気のない道まで歩いたところで、大勢の男に囲まれるトナカイたち。

「おい、ダンジョンであんな目にあったんだ。この先の展開は、分かるよな?」

「ダンジョン……なんかあったっけ?」

 そのうちの一人が、ニヤニヤしながら馴れ馴れしく話しかけていたが、トナカイはその人間が一体誰なのか心当たりがない。

 いや、見たことはあるはずなのだが、完全に忘れてしまっていた。

 首をかしげるトナカイに、笑みを消す男。

「大人しくそのガキを渡せ。そうすれば、お前はそこまでひどい目に合わなくて済む。あのダンジョンから強運で逃げ延びてきたんだろ? その運に免じて、そいつを渡せば見逃してやろうじゃないか。本当はお前をやっちまってからガキをもらっていくほうが早いのに、わざわざ選ばせてやっているんだ。俺たちの厚意を無駄にして欲しくはないなぁ? なぁに、別にそいつを殺そうって言ってるんじゃないんだ。子供好きの優しい人の所へ連れて行ってやるだけだ。多少の金と引き換えに……だがな!」

「話が長くて途中聞いてなかったけど、リリーをやさしい人の所に連れて行ってくれるのね。でも、リリーは人間が好きじゃないから、遠慮しておくのよ」

 トナカイは若干の勘違いをしつつ、首を横に振った。

 リリーは人間が苦手なので、トナカイの後ろに隠れている。

 と、トナカイは思っているが、リリーはもちろん現状を正しく理解している。

(話の内容からすると、となかいと会ったことのある盗賊団みたい。ダンジョンでとなかいを襲ったの? となかいは覚えてないみたいだけど……となかいだもんね)

 リリーの推測は正確であった。

(師匠経由で聞いた限りだと、となかいは危機感がない上に優しすぎて、人間に危害を加えることがなさそうだから、さっさと私が始末しないと。でもこの配置、悪い人からとなかいが私を守ってくれているように見える……うん、ここはもう少し様子を見るべき。もふもふ)

 リリーは、もう少しだけトナカイに守られるシチュエーションを楽しもうと、トナカイの後ろに隠れてさりげなく抱きついていた。

 リリーは策士なのである。

「首を横に振っているということは、死んでからそいつを奪われたいってことでいいんだな……あの世で後悔するんだな! やれ!」

「おらぁぁ!!」

「今度は死ぬまで終わんねぇぞ!」

 トナカイがリリーの引き渡しを断ると、男は怒りながら仲間をけしかけた。

 盗賊たちはリリーをトナカイから引きはがし、トナカイに暴行を加え始めた。

「おら! こっちに来い!」

「あーれー、となかいたすけてー」

「あっ、この袋叩き感、身に覚えがあるのよ! ぐえー! となかいサンドバッグなのよぉ!?」

 トナカイは、ダンジョン内の時同様、されるがままになっていた。

(となかい、私に思い切り噛まれても問題ないくらい丈夫だから、全く問題ないんだろうけど……ここまで完全にされるがままなのは、さすがに予想外……)

 全く抵抗しないトナカイを見て、何とも言えない微妙な気持ちになるリリーであった。

 そのうち、一人の男がリリーを品定めし始めた。

「……もう少しでかけりゃ楽しめたのにな。まぁ、この容姿ならいい金になるだろ」

 男の舐めるような目線を不快に思いながらも、か弱い少女を演じ続けるリリー。

 男はそんなリリーを見て、怯えているものと勘違いした。

「あーあー怯えて可哀想に、だがやつは腰抜けだから助けは期待できねぇよ。俺たちがやさしい人の所へ連れて行ってやるぜぇ?」

「となかいは腰抜けじゃない。危機感がない上に、誰にでも優しすぎるだけ」

「はっ! 何にせよその優しいとなかいとやらはここで終わりだ」

 トナカイを悪く言われ、更に表情を硬くするリリーであった。

(後でチリも残さず消す……)

 袋叩き真っ最中のトナカイは、リリーが強張った表情をしていることに気付いた。

「あっ! リリーが怯えているのよ! そういえばリリーを連れていくようなことを言ってたのよ」

 トナカイは微妙な勘違いを重ねつつ、リリーを心配していた。

「強引に連れていかれたら、リリーが怖がって泣いてしまうかもしれないのよ! リリーはしっかりさんだけど、意外と弱いところがあるから優しくしてあげないとダメなのよ!」

 リリーの過去を知るトナカイは、リリーが嫌いな人間に触れられて怯えているものと勘違いしたのだ。

 トナカイは意外と過保護なのである。

「この人たちはなんでか興奮していて、あんまりとなかいの話を聞いてくれそうにないのよ……よく考えたらそもそも話、通じないのよ」

 この男たちに恨みはないが、あまり穏便に済みそうになかったため、トナカイはやむなく強硬手段に出た。

「となかい戦闘なんてしたことないから、多分普通に戦ったら加減間違えてあかんことになるのよ……と言うわけで、なんかいい感じの棒の出番よ!」

 トナカイは背中から一本の棒を取り出した。

 トナカイの背の倍ほどある長さの棒である。

「リリーにはとなかいがついてるから、怖がらなくてもいいのよ? 聞こえてないだろうけど」

 トナカイは取り出した棒を肩に担ぎながら、そうリリーに告げた。

 そして、トナカイはとりあえずリリーに触れている男に、眠って、もらった 。



「何だ!? 急に武器を取り出した……ただの棒か?」

 盗賊たちは、急に棒を取り出し、肩に担いだトナカイを警戒した。

 だが、見たところただの棒である。

 棒を持ったトナカイも、まるで覇気がない。

「おい、そんな棒切れ一つで、どうしようってんだ? ほら、突っ立ってても何も変わらんぞ!」

 いつ向かってくるのかとはやし立てていると、不意に一人の男が倒れた。

「「!?」」

 倒れた男に集まる視線。

 どうやら白目をむいて気絶しているようだ。

 何をしたのかとトナカイに向き直ったが、既にそこには、誰もいなかった。

「リリー、もう怖くないのよ?」

 トナカイの姿を探すと、なんと先ほど倒れた男が捕まえていた、幼女の隣にいるではないか。

「この野郎、何を……!? またか! 一体何が起きてやがる!」

 状況を飲み込めずにいると、一人、また一人と倒れていった。

「くそが! 何をしやがっ……」

「また一人倒れたぞ! 何なん……」

 強盗たちは、急に仲間が倒れていくという、訳のわからない状況に恐怖した。

 そして、この状況を起こした本人であろうトナカイに襲いかかろうとした。

 しかし強盗たちは、行動に移す前に気を失い倒れていった。

 やがて、その場にいた全員が倒れ動かなくなった。

「この人たちが起きる前に、さっさと退散するのよー。リリー、こっちなのよー」

「……」

 トナカイは既に棒をしまっており、なぜか放心しているリリーの手を引っ張って帰路についた。



(となかいが、戦った……?)

 リリーはあまりにも想定外の出来事に衝撃を受けていた。

 リリーは、トナカイに守られるも、トナカイの力及ばず囚われてしまったか弱い少女を妄想しながら演じていたが、予想以上にトナカイがされるままであったため、そろそろ盗賊団を始末しようかと考えていた。

 そんな矢先、先ほどまでされるがままだったトナカイが、急に背中から棒を取り出し、盗賊団を倒したのだ。

 リリーはトナカイを、何でも受け入れてくれて優しいが、戦闘に関してはからっきしだと認識していたのだが、ここにきてまさかの強さであった。

 更に、戦闘を終えたトナカイに手を引かれて歩いているとき、リリーは気づいた。

 トナカイが戦い始めたのは、リリーが男に嫌らしい目で見られた直後であった。

(トナカイが本当に、私を守るために戦ってくれた!?)

 トナカイが自分のことを気にかけ守ってくれたという事実に、リリーは舞い上がった。

(誰にでも優しくて、人に危害を加えることのないはずのとなかいが、私のために戦ってくれた! 戦うとなかい、一瞬だったけど、強くてかっこよかった……)

 リリーは頬が緩むのを止められなかった。

 トナカイのことなので、もしかしたらまた偶然や気まぐれなのかもしれないが。

 リリーにとっては今このとき、トナカイに守られたという事実だけで十分だった。

(こんな顔、となかいに見せられない……)

 なかなか緩みきった表情を戻せないリリーは、しばらくトナカイに手を引かれながら、下を向いて歩いた。



「リリー、さっきから下向いてるけど、どしたん? 大丈夫なん? あれ、顔が赤……」

「……!? ぴゃぁぁああ見ないでぇぇ!!」

「へぶぅ!? いきなり顔を叩くのは良くないのよぉ……となかいじゃなかったら、顔と体がサヨナラしてるのよぉ……」

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