トナカイのダンジョン攻略
ダンジョンの思わぬ伏兵に苦戦するリリーであった。
「ひゃっふー! となかいの運は絶好調なのよー!」
リリーが大変な状況に陥っていることを知る由もなく、トナカイはダンジョンの罠で遊んでいた。
強制転移の魔法陣を踏んで、下層までショートカットできることを知ったトナカイは、嬉しそうに罠を踏み抜いていた。
「ぎゃーハズレなのよー! 逃げるが勝ちなのよ! 次の罠はどこよー!」
もちろん転送の魔法陣だけが罠ではないので、ときにモンスターの群れに追われ、ときに下の階へと至る落とし穴にはまった。
ちなみにトナカイ的に、モンスターハウスはハズレで、落とし穴は小当たり、下層への転移が大当たりらしい。
ダンジョン内でぽんぽん罠を踏んで遊んでいたトナカイは、ついに大当たりを引いた。
「……おっ? 今までの階層とは雰囲気が違うのよ! この下がもしかして最下層なんかな? なんか大きな魔力を感じるのよ!」
かなり深い層まで来たらしく、今までの層と違ってモンスターが全くいなかった。
そして足元に大きな魔力を三つほど感じた。
その内の二つはダンジョンコアと、それを守るガーディアンであると予測できた。
「なんかぐにゃぐにゃした不安定な魔力は何だか……そんなわけないのよ。となかい、寂しくなって魔力の感知がおかしくなったかな?」
あと一つ、とても大きく不安定な魔力は一体何だろうか。
「……床の先に気になるものがあったらどうするかって? もちろん、押し通るのよ! となかい七つ道具を使うのよ! ちなみに今思いついたから残り六つはまだ空席なのよ!」
気になったら調べるのが、トナカイである。
新たな興味の対象を観察しようと、トナカイは背中のチャックに手を伸ばした。
「はぁ……はぁ……なんで、会えない、となかい……」
幻術と精神攻撃の影響で思考を制限され、がむしゃらに爪を振るい続け、精神も体力も削られたリリーはついに息を切らして立ち止まった。
いくら体力のあるドラゴンと言えど、全力で動き続ければ疲れるのだ。
「ダンジョンをクリアできない、となかいに会えない、役に立たない、捨てられる……」
相変わらず後ろ向きな思考に囚われ精神を蝕まれ続けているリリーは、一度足を止めてしまうと、もう動くことができなかった。
「もう、となかいに会えずここで死ぬの? 嫌だよぅ……」
トナカイに会えずここで朽ち果ててしまうのかと思うと、涙が止まらなくなった。
座り込んで泣くリリー。
「侵入者を排除する」
そんなリリーに向かってガーディアンは近づき、トドメを刺そうと腕を振りかぶった。
轟音が響いたのち、リリーは、倒れた。
真下に反応があるなら、まっすぐ行けばいいじゃない、と思ったトナカイは、思った通りに行動した。
「となかい特製特大ハンマーなのよ! どっ……せぇぇぇい!!」
背中のチャックから大きなハンマーを取り出し、地面を思い切り叩いたのだ。
ダンジョンは普通の洞窟に比べ圧倒的に耐久度が高い。
魔力で補強され、多少の衝撃ではビクともしないのだ。
しかし、今回は相手が悪かった。
創造の力で作られたハンマーは、たやすくダンジョンの床を撃ち抜いた。
「となかいにかかればこんなもんなのよぉぉぁぁ下に! 落ちる! のよぉぉ!」
トナカイは考えが浅かった。
自分が立っていた床を大きな力で叩いて壊せば、下に落ちるのは当たり前である。
大量の岩となった床とともに、トナカイは下層へと落ちていったのだ。
「やってもーた! 下にいるものすべて巻き込んでしまったのよ……」
なんとか岩の山から這い出したトナカイは、内心焦りながら周囲を見渡した。
周りには自分が意図せず作ってしまった岩の山に、ガーディアンだったと思われる残骸。
「被害者は、なんかガーディアンっぽいやつと……!? 女の子が巻き込まれてるのよ! これはあかんやつや!! 急いで助けるのよ!」
大きなたんこぶを頭の上に作って倒れている幼女をみつけたトナカイ。
慌てて幼女の元に駆け寄った。
自分のやらかしたことに巻き込まれて女の子が死んだら、流石のトナカイも後悔するのだ。
「だ、大丈夫なん!? ……えっ、この子は」
駆け寄って驚いた。
「リリーやん!? なんでこんな所に……いや、今はそんな場合じゃないのよ! 怪我は……頭に大きなタンコブ、目には涙の跡、極度の疲労、精神の衰弱、とりあえず命に別状はないのよ! よかったのよ……リリーは無事なのよぉ……」
いるはずのないリリーが、そこにいたのだ。
リリーの怪我の具合を調べると、頭の上にあるたんこぶ以外に怪我らしきものはない。
となかいは安心しながらも、リリーがここにいる理由を推測した。
「さて、なぜリリーがここにいるのか、これはもう答えが一つしかないのよ! となかいのおつむは今日も冴えているのよ! ……ふふっ、リリーはいつもしっかりしてるけど、意外とうっかりさんなところがあるのねぇ、微笑ましいのよ。道に迷ってとなかいのダンジョンに来ちゃったのねぇ。心配ないのよリリー! じいちゃんにはとなかいから、リリーも頑張ったって伝えてあげるのよ!」
トナカイの推理は、やはりポンコツであった。
実はトナカイが間違えて入ったダンジョンは、リリーのお使い先だったのだ。
ガーディアンがリリーにとどめを刺そうと腕を振り上げた瞬間、丁度トナカイが大量の瓦礫と共に降ってきたのだ。
大量の瓦礫は、簡単にガーディアンを押しつぶした。
更に、リリーの頭に一部の瓦礫が直撃し、大きなたんこぶを作った。
たんこぶだけで済んだのは、もちろんリリーだからである。
さすがドラゴン、とても頑丈である。
「あんまりここに長居してもしょうがないから、リリーを背負って行くのよ、よいしょっと……よく寝てるのよー」
トナカイは眠っているリリーを背負って、ダンジョンコアの元へと歩いていった。
ダンジョンコアは、ガーディアンが破壊された時点で、部屋にいる者を踏破者として認め、部屋の扉を開いていた。
「たしか、ダンジョンコアの近くにあるお花が必要なのよ! ……あったのよ!」
ダンジョンコアは奥の部屋の台の上に安置されていた。
周りにはダンジョンコアの周囲にしか咲かないと言われる花がいくつか咲いていた。
この花が今回のお使いの品である、ダンジョン踏破の証なのだ。
トナカイは、リリーもトナカイのうっかりに巻き込まれていなければ、きっと一人でここまでたどり着いただろうと思い、花を二輪摘み取った。
「リリーの分も持って行くのよ! 綺麗なお花だからリリーの髪にさしておいてあげるのよ! ……うん、とてもかわいいのよ!」
リリーは軽く身じろいだが、寝息を立てており、起きる気配はない。
そんなリリーを微笑ましく見つめてから、地上目指して帰っていくトナカイであった。
「さぁ、地上に戻るのよー!」




