魔道具トナカイ
トナカイはリリーの魔導具に、進化した。
リリーの黒歴史が一つ増えてからしばらくして、入園の日。
「もふもふ……常に、となもふ……素晴らしい」
リリーはご機嫌であった。
トナカイと一緒に学園生活を送れるのだ。
常に一緒に。
「リリーは、本当にもふもふ好きねぇ」
トナカイは今、魔道具に扮してリリーに抱きかかえられている。
元々リリーとトナカイは同じくらいの背丈なのだが、このままでは都合が悪い。
魔道具にしてはでかすぎるのだ。
そのため、トナカイに小型化してもらった。
四分の一スケールトナカイである。
「小さいとなかい、かわいい。抱っこしやすくて、とてもいい」
トナカイは自分の大きさを自由に変えられるらしい。
ちなみに、思考が周囲に伝わるものが作れるなら、トナカイの言葉が他人に伝わる道具を作れるのではないかとリリーが提案したのだが、リリーの暴走を止められるトナカイが、魔道具に扮して常に監督できる位置にいた方が安全と判断されたのだ。
リリーは、入園前から既に問題児扱いであったが、常にトナカイと一緒に居られるため、喜んでいた。
対外的には、リリーは魔道具であるトナカイ人形を操る幼女である。
その才能を認められ、学園に特例で編入したということにしてあるのだ。
この学園は種族や年齢を問わず入れるが、代わりにある程度の才能や実力がなければ、入園することが難しい、非常に人気のある学園なのである。
所属するクラスは特Aクラス、特別な生徒のみで構成されるクラスに入ることになった。
特Aクラスは、その性質上一癖も二癖もある者が多いとのこと。
リリーはそんな中無事に学園生活を送ることができるのだろうか。
「ここが、私の教室……」
「リリーの初顔合わせなのね! となかいここで応援してるのよ!」
リリーはトナカイを抱きしめながら教室の前に立っていた。
「……」
敵対する人間に対しては、ただ始末するだけでよかったので、特に緊張することはなかったのだが、これから出会う人間はそうではない。
うまく接していけるのか不安でいっぱいだった。
トナカイを抱きしめる力が自然と強くなる。
「リリー、そんなに緊張しなくても、大丈夫なのよー……力入りすぎてとなかいがぐんにょりになってるのよ!」
「だ、大丈夫。私は冷静、なのよ。とても、冷静だもんね」
「口ではそう言っていても、体は素直なのよ! となかいが抱きしめる強さであかん形になってるのよ!」
リリーがトナカイを愉快な形にしていると、教室から担任に呼ばれた。
「……えいっ!」
リリーは、意を決して教室の中に入っていった。
特Aクラスの生徒は転入生が来ると聞いて、沸き立っていた。
「転入生がこのクラスに入るらしいぞ! どんな転入生だろうな?」
「実力が認められて特例で特Aクラスに入るって話だから、すげぇのが入ってくるんじゃね? ……そうだな、この前学園長室に出たって噂のドラゴンだったりしてな!」
「ははっ、ドラゴンはさすがに無いだろ。おれは可愛い女の子がいいなー。そして、転入生の案内から交流が始まって仲良くなって……」
「ないわー。おまえ……それはないわー」
「いいじゃん! ちょっとくらい夢見たって!」
そうこうしているうちに、担任が転入生に教室に入るよう指示を出した。
しばらくすると、扉をあけて転入生が入ってきた。
「おい、喜べ。かわいい女の子だぞ」
「……いや、かわいいけど、さすがに幼すぎないか? どう見ても五歳くらいだぞ」
生徒たちは扉をあけて入ってきた幼女を見て驚愕した。
入ってきたのは人形を抱えた、とても幼い女の子なのだ。
この学園は様々な種族や年齢の者がいたのだが、さすがに幼すぎた。
人形を抱きかかえながらプルプルしている姿は、生徒たちの庇護心を刺激した。
「人形抱えて震えているようなお子様がなんでこんな所に来てんだよ。ここは実力を認められたやつしか入れない特Aクラスだぞ……」
ただ生徒の中には、そんな転入生を快く思わない者もいた。
特Aクラスは才能や実力を認められた、特別な人間のみが在籍できるクラスだ。
そんなクラスに、右も左もわからなさそうな幼女が入ってくることに、異議を唱える者がいてもおかしくはないのだ。
「私はリリー。今日からこのクラスになった。よりょ……よろしく」
「おい、あの子噛んだぞ」
「今、よりょしくって言ったわよね。あ、ちょっと赤くなってる。かわいい……」
辿々しく自己紹介をする転入生。
「……どう見てもただの子供じゃないか。やっぱりおかしいだろ!」
一通りの紹介を終えた途端、一人の生徒が、厳しい言葉を投げかけた。
「お前のどこに、特Aクラスとして認められるだけの実力があるんだよ! ほら、この程度で怯えているようじゃたかが知れてるじゃないか!」
賑やかであった教室は静まり返り、生徒たちの目は転入生と興奮した様子の生徒に、釘付けとなった。
「なんであの人は私に攻撃的なの? 敵なの?」
「リリー、あれはきっと、じいちゃんが言ってた、ツンドラってやつなのよ!」
「……それって、もしかしてツンデレ? なんかそっけない態度からたまに優しくなるって言ってたやつ? あれはそっけないって感じじゃない気がする……どう対応したらいいの?」
リリーが戸惑っていると、調子に乗った生徒は言ってはいけない言葉を発してしまった。
「何小声でボソボソ喋っているんだ! 言いたいことがあるならその不細工な人形に向かってじゃなく、ハッキリと直接こっちに言ってこいよ! そもそも何だよその不細工な人形は!」
「……今、となかいを、不細工な人形って、言ったの?」
「!? リリーあかんのよ!」
トナカイを馬鹿にされたリリーは、簡単にキレた。
トナカイを馬鹿にした生徒に一瞬で近づき、爪を振り下ろした。
「ぐにょぉぉ! となかいの体に爪がめりこんでるのよぉぉ!」
「「なっ!?」」
あまりにも急な展開に、生徒たちは驚愕した。
先ほどまでプルプルしていた幼女が急にキレて、人形をバカにした生徒を攻撃したのだ。
生徒達が驚くのも無理はない。
「となかいを悪くいうのは許さない」
「リリー、さっそくやらかしちゃったのよぉ……はい、となかいをもふもふして落ち着くのよー。そんな簡単に人を消しとばそうとしたら、あかんのよー」
「……ついカッとなってやった。後悔はあんまりしていない」
「リリーのお勉強は、まだまだこれからなのよ! となかいと一緒に頑張るのよ!」
生徒を守りリリーの爪を受けたトナカイは、またも大変な形状になりながら緩衝材としての役目を果たし、生徒を壁にぶっ飛ばす程度の衝撃で抑えた。
抑えたとはいえ衝撃は凄まじく、派手に壁にぶち当たった生徒は、痙攣しながら壁に張り付いていた。
「おい、あいつ、生きてるのか?」
「あの人形で殴ったのか? すげぇ威力だな……」
「あの人形を馬鹿にすると死ぬな。気をつけよう……」
「恐ろしい子……!」
幸いなことに周囲の生徒からは、リリーがトナカイ人形で殴打したようにしか見えなかった。
「おいおい、初日でこれか……また厄介なのが増えたな。胃薬の費用は必要経費で落ちんのか?」
転入一日目でやらかす厄介な生徒を抱えてしまったと、胃を痛くする担任であった。
ちなみに壁に張り付いた生徒は、リリーに釘付けとなっている他の生徒たちから既に忘れ去られており、手当てを受けたのはホームルームが終わってからであった。




