リリーのダンジョン攻略
ダンジョンで弱った冒険者を拾ったリリーであった。
「地上だ! 生きて出られたんだ!」
「ありがとうリリーさん! この恩は一生忘れないわ!」
「リリー様に感謝を」
「こいつが、神以外に祈ってる!? 今日は何かが起こる……あ、既に奇跡起こってたわ。ありがとうリリーさん」
「私はたぶん忘れるから気にしなくていい」
「そ、そうか……」
冒険者たちを引き連れてダンジョンの入り口に戻ってきたリリー。
外はすっかり暗くなっており、星空が綺麗だった。
「……となかい、もふもふしたい」
なんだか寂しくなったリリーは、リュックからミニトナ人形を取り出し、もふもふした。
トナ分の欠如を紛らわせているのだ。
「おぉ……圧倒的な強さを見てからの、この光景はギャップがすごいな」
「リリーさんも、リリーちゃんってことだったのね」
「母性を刺激されますね」
「お前に母性なんかあったの……ぐふっ!?」
「来世でまともになれるよう、祈って差し上げましょう」
「なんやかんやでお前ら、仲いいよな」
リリーに助けられた冒険者たちは、圧倒的な力を持つリリーの幼女らしい振る舞いを見て、戸惑いながらもほっこりしていた。
「どうだろう、今日はもう遅いし、よかったら俺たちが使っている宿で一緒に飯でも食わないか?」
「いい。私は急いでお使いを終わらせないといけない。とな分が底をつきて大変なことになる」
「とな分? そ、そうか。リリーさんならそう窮地に陥ることはないと思うが、無事を祈っているよ」
「とうとうリーダーにまで祈りが伝染したのか!?」
「あなたは一度神の御許で反省してきなさい」
「リリーちゃん、寂しかったら私に抱き着いてもいいのよ!」
「さよなら」
「……行っちゃった」
「ははっ、振られたな。さぁ、生きて帰ってこれた祝いだ!」
「「おおー!」」
リリーは冒険者たちの誘いを断り、再度ダンジョンの中に入っていった。
「となかい人形を持ってきてよかった。これがなければ今頃大変なことになっていた……」
ミニトナ人形をもふもふしながら。
「最下層はまだ!?」
リリーがダンジョンに入ってからしばらく経った。
かなり深いところまで潜ったリリーは、限界が近かった。
体力や実力ではなく、トナ分が足りないのだ。
ミニトナ人形で騙し騙しやってきたが、トナ分の不足はリリーの精神に深刻なダメージを与えていた。
「となかいが足りない……!? しまった!」
注意が散漫になり、いつもなら絶対にかからない罠に何度もかかった。
「また転移魔方陣を踏んでしまった……ここは見覚えがある。また上の階に戻された……イライラする」
落とし穴にはまり下の階でモンスターに囲まれること数十回、強制転移で上の層に戻されること十数回、 転移される度に、下の階に飛ばしてくれたらよかったのにと、リリーは心の中で愚痴った。
「「ガルルル……」」
「今の私は機嫌がとても悪い」
「ギャッ!?」
出てくるモンスターはリリーの敵ではない。
しかしリリーは精神的に追い詰められていた。
(……脅威ヲ検知シマシタ)
リリーが現在挑戦しているダンジョンのダンジョンコアは、自身の作成したダンジョンがかつてない速度で攻略されていることを検知していた。
ダンジョンコアには、迫る脅威を退けようとする機能が備わっている。
脅威を観察し、分析して弱点を突くようにダンジョンを作り変えるのだ。
(情報ヲ収集シマス……対処ヲ検討、実行シマス)
脅威はあと二日もあればダンジョンコアのある最下層までたどり着くだろう。
そう分析したダンジョンコアは、最後の砦である最下層のガーディアンを、脅威に対処すべく再構成していくのであった。
「……邪魔、邪魔! じゃまぁぁ!」
精神的に余裕をなくしながらも、どんどん攻略を進めるリリー。
「大きな魔力反応がある。ここが多分、最下層。やっと、終わる……」
そんなリリーはとうとう、最下層までたどり着いた。
あとは最下層の扉を守るガーディアンを倒し、必要なものを持ち帰るだけだ。
「あれがガーディアン……」
「侵入者を検知、排除する」
普段のリリーなら、冷静に状況を確認してから油断なくガーディアンに挑んだだろうが、今は深刻なトナ分の不足で冷静さを欠いていた。
「お前を倒したら私のお使いは終わる。即座に消えて」
「!」
ガーディアンに向かって爪を繰り出すリリー。
ガーディアンは一瞬目を光らせたのち、迎撃しようとして、まともにリリーの爪を受けた。
「!? どういうこと!? 私の爪が効いていない……!」
リリーの爪は、ガーディアンに確かに届いたはずだが、全く手応えがなかった。
「なぜ? なぜ私の攻撃が効かないの!? このっ……!」
何度爪を叩き込んでも空を切っているような感覚。
リリーは焦った。
今まで大した苦労もなくモンスターを倒してきたため、最後のガーディアンも簡単に倒せると心のどこかで思っていた。
しかし、目の前のガーディアンに全く有効打を与えられないのだ。
「このまま倒せないと、となかいに……会えない? このっ! 私の邪魔を! するなぁぁ!!」
別にお使い成功しなければとなかいに会えないというわけではないのだが、精神的に余裕のないリリーは、なぜか後ろ向きな思考に囚われ始めた。
「何で効かないの!? くっ……!! あぁぁぁ!!」
正常な判断ができなくなり、泣きべそをかきながらがむしゃらに爪を振るうリリー。
(対処ノ有効性ヲ確認シマシタ。コノママ継続シマス)
「侵入者を排除する」
「このっ! 当たれっ! 倒さないと、となかいに会えない……やだぁ!」
ダンジョンコアは、幻術と精神攻撃に長けたガーディアンを用意した。
力では太刀打ちできそうになかったため、別の切り口で対処しようと考えたのだ。
実際、精神的に弱っていたリリーは簡単に幻術にはまり、精神攻撃を受けて正常な判断をすることができなくなっていた。
ダンジョンコアは念のため、もうしばらく弱らせた後にとどめを刺すよう、ガーディアンに指示を出した。
「侵入者を排除する」