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それを絶望と名付けよう


 それからの数時間は表面的には何事もなく過ぎた。


 晶樹は乃亜に、E―フィールド改めE-ワールドと呼ばれるようになった空間についていくつか質問をし、乃亜は今度こそ失態を補うべく晶樹の要望に応じていく。琴音はウィズと軽い自己紹介の時間、十数分のコンタクトを取った後人間として絶対に必要な休息をとるべく眠りに落ち、稔は情報系列隊の隊員数名と共にウィズの情報を少しでも確実なものに近づけようとし、かつ外界に出ている戦闘系列隊をとりまとめ、医療系列隊の榛衣や情報系列隊とも連絡を密に、こぼれる命を一つでも減らそうと力を尽くしていた。


 外界では戦闘系列隊の救助活動が続く。死者の数も増える一方、生者も少しは確認できたのが彼らの救いだった。磁場はいまだに乱れ、狂い、長距離の移動魔法が困難な中で、救助活動はアイズの本部や支部を中心に同心円状に広がっていく。活動は、ようやく大陸の半分に達するところまできた。


 外にいる戦闘系列隊からの情報を受け取り、また人間たちの様々なネットワークに片っ端からアタックをかけているのは情報系列隊の精鋭たちだ。ほとんどが人間の彼らは、魔法使いより頻回に休憩を取らざるを得なかったけれど、アイズが知りたがった情報についてはいよいよ王手がかかるところまで情報を洗い出した。


 広域殲滅兵器の名称は、それぞれ「レイヴン」と「シュヴァルツヴァルト」。

 懸念されていた通り、この両方の開発に魔術師がかかわっているのは間違いない。

 ……そして。その魔術師たちの集団は、おそらく同一の集団であろう。


 つまりは魔術師は人間同士の戦争を隠れ蓑に二股をかけていたということで、これについては晶樹が言及したとおり、間違いなくアイズの手落ちであった。怒りを燃やす隊員たちは、けれど冷静さを忘れずにさらに情報を精査していく。

 魔術師たちには相応の報いをくれてやる。


 そのためにも、今はとにかく正確な情報が必要なのだ。




 *   *   *




 ……緊張状態が続くアイズから大陸をはさんだ向こう側。


 まだ春の訪れを見ないローゼンクランツ伯爵領。


 不気味なほど静まりかえる城の中、ディーターはパソコンに向かい合っていた。ただ、ただ静かにモニターに向かい、文字を打ち込む。目の下にできているクマと、色を失っている顔が、彼がかなりの時間休息も食事も摂っていないことを示唆している。


 どれほどの時間が過ぎただろうか。出来上がった論文を前に、そっと目を閉じた。


『……できた』


 こぼれた声は乾いて、何の感慨もなかった。

 よどんだ瞳には達成感も見えない。ほんの数日前からは考えられないことだった。この論文は彼の悲願で、目標で。


 ――けれど、今の彼にとっては意味はない。


 ただ、長年助力してくれた友人の一助になるならと、論文を完成させた理由はそれだけだった。


 論文を上書き保存し、パソコン本体の電源を落とす。ディーターはそのまま隠し部屋を出た。主寝室につながる隠し部屋は、きっと友が見つけてくれる。今しがた完成した論文も、それまで彼が研究してきた遺伝子工学も、魔法生物に関する研究も、すべて友の役に立つだろう。


 だから。


 人気のない城を歩く。使用人たちはすべて暇を与え、城から追い出した。カーペットの上を歩くのは、雲の上を歩いているように現実味がないが、残念ながら今彼がいる場所が現実だ。

 目指したダイニングルームに到着する。

 広い机の上にあるのは、赤ワインがつがれたグラスが一つだけだ。

 そのグラスの中にディーターは懐から取り出した薬を混ぜた。一滴、二滴。それだけで彼の目的を達するには十分すぎる。


 乾杯するときのように杯を取り上げ。――その視線の先に、友を見る。

 幻覚だろう。それでもいい。最期に見るのが彼だというのが皮肉がきいている。

 「なぜ」と問いかける視線を送ってくる友に、ディーターは心からの笑みを浮かべた。


『すまないな』


 先に逝く。


 友の返事を聞かないまま、杯をあおる。笑みを浮かべたままの目の端から一筋、涙が零れ落ちた。








 だって、この世界に彼が生きる意味はもうない。




 




「――――っ!!」


 がしゃん!


「うわ! 最高司令官!?」

「大丈夫ですか!?」


 唐突に突き上げてきた「予感」に上体を揺らした晶樹はとっさに目の前の机に手をついた。その上にあったコップが床に投げ出され、割れる。慌てたような複数の声に返事を返すこともできず、晶樹は胸元を抑えた。


「……最高司令官?」


 怪訝な声に言葉を返す余裕もなかった。

 手が、震える。

 そんな、だって、どうして。


『……ディーター……?』


 声にもなっていない空気のふるえ。転がり出たのは人間の友の名。


 ……力ある魔法使いの直感は、はずれない。


 ざわざわと肌を逆なでするような気配の中で、晶樹はその「予感」に呆然と立ち尽くすことしかできない。




何がやばいって書き手のメンタルがやばい。

鬱々展開ばっかりで滅入ります。出口はどこだ。

出口が見えるとこくらいまでは連続投稿、できるといいな。

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