7「娘、張り切って働く」
ルキは自分の悲鳴で目覚めた。
ここはどこだ。
ルキは母の姿を探す。
何を馬鹿な。母はすでに死んでいる。完膚なきまでに。
次に、乳母を探した、が、いない。そうだ、乳母も殺された。
数秒が経過して、ルキの頭が現在と整合を始めた。
そうだった、自分は今、エルという名の人間に養ってもらっているのだった。
ルキはエルの姿を探す。
エル、エル、エル!
エルがいない。
どこにもいない!
「ルキちゃん……ルキちゃん!」
自身を揺さぶられていることに気づいた。見知らぬ人間の女がルキを揺さぶっている。怖くなって、ルキは振り払った。
「※※※※※⁉」
女が不安そうな顔をした。
(しまった)
ルキは慌てた。
女、ではなくリディアだ。エルの知り合いのマリアが連れてきた、ここで働いている人。今はエルの代わりに自分の面倒を見てくれている人間だ。
「ご、ごめんなさいっ」
ルキはすぐさま、謝罪を意味する人間語を口にした。
「【大丈夫】」
リディアがルキを抱きしめ、竜言語で言った。
「【大丈夫・大丈夫】」
その腕はエルほど太くはなく、エルほど頼りになる感じはしなかった。が、ここでリディアを不機嫌にさせるわけにはいかない。ルキは必死に笑った。
「※※※仕事※※※※※」
リディアが言う。
「アナタも一緒に※※※※竜※※世話※※※※※※」
仕事!
乳母のところにいたときも、仕事は手伝っていた。平民として暮らす以上、仕事はするものなのだ、と。
そういえば、マリアは自分のことを、
『こんなの拾って役に立つのか?』
というような値踏みする目で見ていた。役に立たなければ。この場所で自分の有用性を示せば、マリアも自分を追い出そうとは思わなくなるだろう。
「しごと!」
ルキは大きくうなずき、ベッドから飛び降りた。
◆ ◇ ◆ ◇
夕方、滑走路上にて。
「エルぅーーーーっ」
「ルキ! ああっ、俺の愛する娘っ」
朝と同じ光景を再び見せつけられて、マリアはげんなりしていた。
当のルキとエルは、攫われのお姫様と、救い出しに来た騎士のような様子で感動的に抱きしめ合い、クルクル回っている。
「で、どうだった、リディア? 子守の感想は?」
マリアは、ルキと一緒に来ていたリディアに問いかける。
「そうですね……その」
いつもハキハキしているはずのリディアが、珍しく言いよどむ。
「なぁに? 正直に言ってごらんなさい」
「は、はい。その、少し不気味な子だなって」
「えっ⁉」
「言葉を間違えました。不可思議な子だと思ったんです。いえ、いい子なのは間違いないですよ。わがままも言わず、仕事のお手伝いも率先してやってくれて、あの歳で自分も立場の弱さを十分に理解しているようで。ですが……」
リディアが少し、震えている。
「あの子、竜言語で竜たちとしゃべるんです。あの子が声を掛けると、気難しい竜なんかも素直に言うことを聞いて。今、反抗期のガブリエルがいるでしょう? 何度も檻を破壊して脱走し、もう鉄の檻に入れるしかないかって話になっている子。あのガブリエルが、ルキに何か言われたとたん、急に大人しくなって、自ら檻の中に入っていったんです」
(嫉妬かしら? この子もまだ十一歳だものね)
リディアが、ルキのことをバケモノか何かを見るような目で見ている。
マリアの目には、エルに抱き上げられて笑う少女が危険人物には見えなかった。




