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愛する娘の親の仇が俺だったんだが、どうすればいい?  作者: 明治サブ(SUB)
第3章「英雄と娘、窮地に立たされる」
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1「英雄、娘を連れ帰る」

 エルは、ルキを説得して連れ帰ることに成功した。


「エル、エルぅ。好き、好きぃ」


 夜、いつものように添い寝をしてやると、ルキが甘えて抱きついてきた。

 エルはそんなルキを抱きしめかえし、頭をなでてやった。


(俺が守らなきゃ。こいつの身柄だけじゃなくて、心も守ってやらなきゃ。ルキには俺しかいないんだから)


 一応、マリアもルキのことを知ってはいる。そのうえで黙認してくれているというのは、エルとしては非常に心強い。

 だが、いざルキの正体が多人数相手にバレてしまった場合、マリアはマグダラ協会副会長という立場上、エルやルキを排斥する方向で動かざるをえない。


(俺しかいないんだ)


 その事実は、改めてエルは震えた。

 自分の両腕の中に、小さな命がすっぽりと収まっている感覚。自分が投げ出してしまったら、この命は生きてはいけないのだ。

 リヴィの卵を初めて抱きしめたときも、似たような感覚はあった。

 だが、あのときはまだ、自分が病で数日寝込んだとしても、その間は別のライダーがリヴィの世話を代わってくれるという安心感があった。


「エル、大好き」

「あぁ、ありがとう。俺もルキが大好きだよ」


 頭をなでながらそう言ってやると、ルキがいっそう力を込めて抱きしめてきた。


(俺がルキの母の仇であることを、今、伝えるべきだろうか)


 ルキが母の真実――ダヴィドでは『邪竜王』と呼ばれて恨まれていること――を知った以上、エルの真実を隠し続ける必要はない。むしろ、話の流れで一気に伝えてしまったほうが、ルキも納得してくれる可能性が高い。


「ルキ、あのな」

「んぅ、なぁに?」


(でも、それでもし、ルキが俺を拒絶したら? 説得に失敗したら? 今のルキには、この部屋を出て自活するだけの力はない。せめて、ライダー見習いとして最低限の球菌が得られるようになってから……)


 エルはあれやこれやと『今はまだ、ルキに真実を話すのは早い』という判断を正当化させるための理由を考え出す。


(ほら、やっぱりそうだ。今日話すのは時期尚早だ。やっぱりもっと時間をかけて、タイミングを見計らって――……いや)


 違う。

 いろいろと言い訳しているが、要するに、エルは怖いのだ。

 愛する娘に嫌われるのが、怖い。

 ルキに拒絶されるのが、怖い。

 もし、ルキとの関係性が決定的に破綻してしまったら……そう考えると、怖くて怖くてたまらないのだ。だから、問題を先送りにしているのだ。


「あー、えっと。なんでもない。おやすみ」

「ん。変なエル」


(明日は……明日こそは、ルキに話そう)





   ◆   ◇   ◆   ◇





 その晩、遅く。


「……ぅ……あ……」


 うなされる声で、エルは目を覚ました。

 腕の中のルキが、ぎゅっと目をつむったまま、小さくかぶりを振っている。額には玉のような汗が浮いていた。


「……おかあ、さん……にげ、て……」

「ルキ」


 エルはルキの背中を、ゆっくりと一定のテンポで叩いてやる。リヴィがまだ雛だったころを思い出す。


「大丈夫だ、ルキ。ここにいる。俺がここにいる」

「……ん、ぅ……エル……?」


 ルキの息は荒い。

 薄く開いた金色の瞳は、まだ半分、夢の中にあるようだった。


「怖い夢か」

「……おぼえて、ない。……けど、こわかった……」


(覚えていないなら、それでいい。……いや、本当は――)


 この子の夢の中で、いったい何が燃えているのか。誰が撃たれているのか。それを引き起こしたのが、誰なのか。


「よし、子守唄を歌ってやる。目を閉じていろ」


 エルは、小さな声で歌った。今は亡き浮浪児のリーダーが、寒い夜、眠れない子供たちに歌ってくれた唄だ。

 やがて、腕の中の呼吸が深く、規則正しくなっていく。


「……エル……いなく、ならない……?」


 眠りに落ちる寸前、ルキがそう呟いた。


「ならないよ」


 エルは即答した。


(俺は、ずるい男だな)

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