5「娘、同年代に出会う」
ルキの操縦で、ダヴィドの街へと出た。
マグダラ協会はダヴィド城壁の内側、北門を守る位置に大きな敷地を有している。その滑走路から飛び立ったエルたちの眼下には、立派な城壁が見える。
「城壁沿いに飛ばせてみろ。日時計周りに、ゆっくりとな」
「うんっ」
ルキが繊細な手つきでくいっくいっと手綱を引く。ルキの意図を受け、ガブリエルが少しずつ右へとカーブしていく。言葉はなくとも、ルキの手のタイミングと強さだけで、ガブリエルが『城壁沿いに飛びたいんだな』と理解した様子だ。
竜は頭がいいので、今のガブリエルのように、騎手の意図を馬以上の精度で読み取ることができる。
が、竜は同時に非常に気高いので、よほど気に入った騎手でもなければ、言うことを聞かないものなのだ。
だからこそ、エルがリヴィに対してそうしたように、生まれた瞬間から親代わりとして育て、毎日何度も顔を出して給餌や世話をすることで信頼関係を構築するのだ。
そうした段階をすべてすっ飛ばして、ガブリエルと最上級の信頼関係を構築してしまったルキ。そんなルキの異常性は、同じドラゴンライダーにしか分からないだろう。
しばらく空を流していると、エルは下が騒がしいことに気づいた。
「ルキ」
「うん?」
「見えるか? 馬車が横倒しになっている。困っている人がいるかもしれないから、助けに行こう」
「!」
ルキが振り向いた。瞳が輝いている。
「ゆーよーせーを示す、だね⁉」
「そのとおりだ。ルキは賢いな」
頭をなでてやりたい衝動に駆られたが、エルはぐっと我慢した。ルキは今、竜の手綱を握っている。操竜の邪魔になるようなことは、すべきでない。
ルキの誘導に従い、ガブリエルが街の中へと降りていく。横転した幌なし馬車と、あたりに散らばる石材。
「おーい、どうした?」
馬車の隣では、男性が困り果てた様子で立ち尽くしている。エルは竜の背中から飛び降りて、男性のもとに駆け寄った。
「助けは要るか?」
「おお、誰かと思えばエル坊じゃないか」
男性が微笑む。
「城壁の修繕用の石材を運んでいたんだが、このとおり段差に車輪を取られちまってよぅ」
男性が馬の鼻頭をなでる。幸い、男性にも馬にも怪我はないようだ。
「ルキ、ガブリエルに頼んで、馬車を起こすことはできそうか?」
「やってみる!」
ルキがガブリエルの首筋をなでて、
「※※※馬車※※※※※※石材※※※※※※※※※※※※」
――グルルァッ
すると、ガブリエラが前足で器用に馬車を戻し、散らばった石材をひょいひょいっと馬車の中に積み込んでしまった。
人間なら丸一日かかるほどの重作業である。全長六〇キュビト(二七メートル)の巨体だからこそできる離れ業だ。
(いや、そんなことよりも)
見れば、石材は荷馬車の中に整然と並べられている。
エルは目を剥く。
人語を解する銀等級の長老竜ならともかく、銅等級の竜がコレほど細かい命令を正確に聞いた例は、エルですら見たことがなかったからだ。
エル自身、リヴィにこれほど細かい作業をやらせられる自信はない。
「おおっ、こりゃすげぇ」
大喜びの男性。
「竜ってのは力持ちなうえに賢いんだなぁ」
「竜もすごいんだが、うちの娘の竜術が本当にすげぇんだよ」
「娘?」
男性がルキを見上げた。
「えっ、なんだこの綺麗な女の子は⁉ お前、隠し子がいたのか⁉」
「そんな歳に見えるのかよ」
「お前だったら、いてもおかしくねぇな」
「どういう意味だよ」
エルは男性と軽口を投げ合う。元・浮浪児の王で、現・英雄の彼には、知り合いが多いのだ。
「ところで、壁の補修工事の調子はどうだい?」
「順調そのものさ。竜の襲撃におびえていたころが嘘のような快適さだよ。お前たちマグダラ協会のおかげだ」
「邪竜王の次は北の巨人族どもだ。しんどいだろうが、壁の補修は頼んだぜ」
「任せときな」
◆ ◇ ◆ ◇
(エル、知らない人とお話してる……つまんない)
ガブリエルの首筋をなでながら、ルキは少しふてくされていた。
「おいっ」
ふと、下のほうから甲高い声がした。
見下ろしてみると、ガブリエルの足元に見知らぬ子供たちが集まっていた。




