4「娘、竜に乗る」
ルキは危なげなく、ガブリエルに乗って滑走路上を走り回らせることに成功した。
「よし。じゃあ次は、飛んでみよう。だが、当然ながらお前だけを乗せて飛ばさせるわけにはいかない」
エルはルキの鞍を少し頭部方向に上げて、すぐ後ろに自分の鞍を連結させた。
「悪いな、ガブリエル。俺も乗せてくれ」
――グルルルゥ……
マグダラ協会一のじゃじゃ竜による、抗議の色が載ったうなり声。
だが、
「願※※※ガブリエル!」
ルキに竜言語でお願いされたとたん、
――グルルァッ!
ガブリエルは喜びの声を上げた。
(現金な野郎だぜ、まったく)
ルキにガブリエルの手綱を握らせ、空に舞い上がる。
「手綱の先には、『ハミ』がつながっている。竜がくわえている細い棒のことだ。俺たちドラゴンライダーは、手綱を引くことでハミを引っ張り、竜に意図を伝えるんだ。だが、手綱を急に引っ張ったり、強く引っ張りすぎてはいけない。なぜだか分かるか?」
「痛いから?」
「そのとおりだ。竜は棒をくわえさせられて、その棒を一方的に引っ張られるわけだから、無理にされたら口の端や首が痛くなる。それに、信頼している相手からならともかく、嫌いな相手に引っ張られたら、竜だって頭にくる」
「うん」
「だから、竜に意図を伝えるときはゆっくり、そっと引っ張るんだ。ほら、右手だけ少し引っ張ってみろ」
「うんっ」
ルキがその幼い手指で、右の手綱をほんの少し引いた。すると、意図を汲んだガブリエルがゆっくりと右にカーブしはじめた。
「戻せ」
「うん」
ルキが引っ張るのをやめた。すると、ガブリエルが右カーブをやめ、直進に戻った。
「今のが、操竜の基本中の基本だ」
「うーん……」
ルキの、納得しかねる様子の声。
「どうした?」
「これ、ひつよう? だって、ガブリエルにちょくせつお願いすれば済むよ? ね、ガブリエル。※※右※※※左※※※舞※※※※※※※※」
――グルルァッ!
ガブリエルが右へ左へとダンスを踊りはじめる。
「だが、ここが怒声や轟音が鳴り響く戦場だとしたら?」
「!」
「もしくは、夜空をこっそり飛ばないといけない任務の真っ最中だったら」
「そっか! こえが聴こえなかったり、ルキがしゃべっちゃいけないときがあるんだ」
「そう。あとは、『規律を守る』って意味もあるな」
「きりつ?」
「例えばお前が俺やマリアと編隊を組んで飛んでいたとして、その姿を街の人々に観てもらっているとしよう」
「見せるの? なんで?」
「航空ショーって言うんだけどな。竜騎兵の練度を見せることで、街の人々を安心させたり、マグダラ協会への寄付を募ったりするんだ。んで、そういう『見世物』をやっている最中に、ルキだけが竜に話しかけていたら、なんだか不格好だろう?」
「ぶかっこう……かっこう悪いってこと? なんで?」
「あー、さすがに難しかったかなぁ……人間ってのは、大多数とは異なる者に対して、奇異の目を向ける生き物なんだ。人間は竜とは違って一人一人の力が弱いから、集団になって生活したり戦うことで、身を守るんだ。そういう性質上、人間は大多数から外れることを嫌うものなんだよ。ダヴィドの人々がみな何かしらの集団に所属していて、みんなと同じ言葉を話して、同じような服装をしているのは、それが理由なんだ。分かるか?」
「うー……むずかしい」
「難しいかぁ~。竜はどんなだったんだ?」
「分かんない。ルキ、リヴィに会うまではお母さんとお母さんしか竜に会ったことがなかったから」
「そっか。まぁとにかく、竜術は覚えるに越したことはないんだ。お前は竜と抜群に相性がいいから、すぐに覚えられるさ」
「うんっ」
「じゃあ、説明を続けるぞ。竜の旋回機動というのは、三つに分類される。ヨーイング、ローリング、ピッチングの三つだ。まず、ヨーイングというのは――」




