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愛する娘の親の仇が俺だったんだが、どうすればいい?  作者: 明治サブ(SUB)
第2章「娘、すくすくと成長する」
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3「娘、竜に接する」

「お前がすべきことは二つだ、ルキ」


 壮絶な覚悟を固めたところで、エルはルキを連れて厩舎に向かう。周囲に誰もいないことを確認し、


「一つは、お前が竜であることを隠しとおすこと。特に、お前の母親が邪りゅ……ごほんっ」


 エルは必死に言葉をごまかす。こんな幼い子供を前にして、その親をおとしめるような言葉を使うなんて残酷すぎる。


「……女王シャイターンであったことは、絶対にバレちゃ駄目だ」

「うんっ」


 ルキがエルの腕にしがみついてくる。


「なんでか分かるか?」

「お母さんに言われたから?」

「あー……それはそうなんだが、それだけじゃなくて」


 ルキは言葉に悩む。


(ルキは、どこまで分かっているんだろう? 人類と邪竜王陣営の竜が戦争していたことは? ここが、ルキにとっては敵地のど真ん中だってことは? 自分の母親が人間をたくさん殺してきたことは? そんな女の娘である自分が、深く恨まれる立場にあるということは?)


 分かっていなさそうに見える。


「いや、いい。そのとおりだ」


 まさしくそういうことを説明するために休暇を取ったのだが、エルはその大事な仕事を先送りにした。

 自分自身がルキの親の仇であることに話が飛び火するのが、怖かったからだ。


「二つ目は、手に職をつけて、自分の有用性を示すことだ」

「てにしょく?」

「仕事を覚えるってことさ」

「おしごとっ」

「仕事を覚えて、『ルキはとっても役に立ついい子だな』とみんなに思ってもらえるようになる。そうなる必要があるんだ」

「どうして?」

「そうしないと、生きていけないからさ。戦争が終わって、この街はずいぶん平和になった。けど、親のいない子供が一人で生きていくには、まだまだ過酷な世界だ。俺が生きている間は、俺が無条件にお前を養ってやれるから心配しなくていい。だが、誰もが無条件にお前を愛してくれるわけじゃない。俺が死んだ場合に備えて、自分で自分を養う手段を身に着けておく必要がある」

「エルぅっ」


 ルキがぎゅっとしがみついてきた。庇護欲をそそられる泣き顔。


「エル、死んじゃうの⁉」

「安心しろ。今のところ、死ぬ予定はないよ。だが、竜騎兵という仕事柄、死の危険とは隣り合わせなんだ。つい昨日、死にかけたばかりだしな」

「エルが死にそうになったら、ルキが助けに行くからっ」

「竜に変身してか? それは駄目だ。お母さんとの約束を守らないと」

「でもっ、でもぉっ……」

「わりぃ、不安にさせちまったな。あくまで、念のための話さ。とにかく俺が言いたいのは、ドラゴンライダーの仕事を覚えろってことだ」

「ドラゴンライダー?」

「リヴィに乗って、一緒に配達のお仕事したろ?」

「はいたつ……物を運ぶおしごと?」

「そのとおりだ。お前には、竜に好かれる性質と、卓越した竜言語力がある。どちらも、ドラゴンライダー見習いにとって喉から手が出るほど素晴らしい才能だ」

「うん」


 厩舎に着いた。


「竜に乗る練習をしよう」

「リヴィに乗せてもらうの?」

「リヴィはお留守番だ。まだ、翼に穴が空いているからな」

「じゃあ、ガブリエル?」

「そのとおり。ガブリエルはじゃじゃ竜で乗れる奴が長らくいなかったんだが、ルキが見事に従えてみせたからな。マリアがお前の愛竜として登録してくれたんだ」


 ――グゥルルルァッ!


 あばれ竜のガブリエルが、歓待するかのように大きく翼を広げた。ルキが檻と扉を開くと、まるで女王に臣従する重臣のように、うやうやしく礼をする。

 ルキが優しい手つきでガブリエラの鼻先をなでた。


「まず、ガブリエルに鞍を着せる。ルキ、自分で鞍を選んでみろ」

「うーんうーん」


 ルキが、厩舎の入口に置いてある鞍を見て回る。自分の体格に合わせて、最も小さな鞍を選んで持ってきた。


「着せてみろ」

「うん」


 ガブリエルが協力的に身をかがめた。ベテランライダーでも不機嫌な竜に鞍を着せるのは苦労するというのに、ルキはすんなりとガブリエルに着せることができた。


「……エルぅ、どう?」


 ルキが少し不安そうな顔で、エルを見上げる。


「聞く相手は俺じゃない。ガブリエルに聞いてみろ」

「! そっか」


 ルキの目が輝いた。ガブリエルを見上げ、


「※※※鞍※※※心地※※※※※※?」


 ひどく古めかしい言い回しの、竜言語。エルは辛うじて、ルキが話す言葉の主要単語を聞き分けた。


 ――グゥルルゥ……


 ガブリエルが頭を下げ、イエスともノーとも言いがたい返事をした。


「なんて言ってる?」

「ちょっと困ってるような」

「そうだな。見てみろ、この鞍はガブリエルの首には小さすぎるんだ」


 馬とは異なり、竜の鞍は竜の首の根本に着ける。竜の背中は、人間がまたがるには広すぎるからだ。


「これだと、上を向いたときに首が締まってしまい、少し苦しい。我慢できないほどじゃないかもしれないが。ガブリエルはルキのことを慕っていて、少し遠慮しているんだ」

「そうだったんだ」


 慌てて鞍を外すルキ。


「ごめんねっ。ありがとう、ガブリエル」


 ――グゥルルルァッ!


「とはいえルキは、まだまだ体が小さい。だからそういうときは、この鞍を使うんだ」


 エルは女子供用の、幅広だが腰高な鞍をルキに手渡す。鞍に厚みがあるため、子供でも過剰に脚を開かずに乗れる。

 その分、竜との距離が生じて安定さを欠いてしまうが、そこはハーネスと鐙でカバーする。

 ライダーが肩・腰・太ももにピッタリと身に着けたハーネスと、鞍を接続させることで、竜がどれだけ暴れてもライダーが落ちないようにする。

 さらにライダーが鐙に足を掛けることで、足場を安定させる。


 ――グルルァッ! グルルァッ!


 ルキがその鞍と鐙を着せると、ガブリエルが喜んだ。


「苦しくないって?」

「うんっ。そう言ってる!」

「よし。じゃあガブリエルに乗って、滑走路を一回り走ってみよう。くれぐれも飛ばせるんじゃないぞ?」

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