13「英雄、タイトル回収する」
深夜のマグダラ協会本棟。
幸い、副会長の部屋のドアからは、中の灯りが漏れていた。エルがノックすると、マリアが出てきた。
「こんな時間に、何」
戦後処理に追われて、マリアは目の下にくまをこさえている。
「聞いてほしいことがあるんだ。お前だけが頼りなんだ」
「……え? えっ⁉」
マリアの顔が輝いた。
「な、なんなのよもぅっ。しょうがないわねっ」
マリアが顔を真っ赤にさせながら、くねくねする。
「そっか~。サリエルもようやく、女に興味が出てきたってわけね。きっかけは何? 今日の戦闘で、気が立ってるとか心細くなっちゃったとかかしら? でも安心して、お姉ちゃんが優しく教えてあげるからっ。サリエルったら、そーゆーことには全然興味を示さなかったから、お姉ちゃんちょっと心配してたんだゾ。ほら、中にお入り。それとも、私の部屋に来る?」
「いや、街に出ようぜ。大通りに、この時間でもやってる店、あっただろ」
「……ああっ⁉」
マリアが、とたんに不機嫌顔になった。
◆ ◇ ◆ ◇
「かぁーーーーっ」
マリアがエールを一気飲みした。
「で、話って何」
深夜の大衆酒場には適度に客がおり、ほどよい喧騒が辺りを満たしている。内緒話をするのにうってつけの場所だった。
「ルキのことなんだ」
「でしょうね」
「ルキが……ルキが……」
「可愛すぎて困る、とか? アンタの親馬鹿はもう聞き飽きてんのよ」
「いや、違う」
「じゃあ、嫁に行く日が来るのが耐えられない、とか?」
「嫁⁉」
エルは飛び上がる。
「じょ、冗談でもそんなこと言うなよ!」
「なんなのよ、もう」
マリアが二杯目を注文する。
「あの子を拾って、アナタ、変わった。リヴィとマスケットと死者にしか興味を示さなかったアナタが笑うようになってくれて、私、うれしかったわ。けど……」
マリアが頭を抱える。
「まさか、性愛すっ飛ばして家族愛に目覚めるなんて、思わないじゃない⁉ アナタはまだ十七なのよ⁉」
「何の話だよ。俺の話を聞いてくれ」
「聞いてあげるもんですか。私がどんな思いで待っているのか、分かってるの? 幸運にも私好みの男の子を拾うことができて、その子を私好みの立派な竜騎兵に育て上げることができて。かと思えば戦争が激化して、私の女の時代はぐちゃぐちゃよ。それでも、ようやく戦争が終わって、やっと私にも春が来るかと思ったら、アンタは娘を拾ってきて、その子にぞっこんときた」
「何言ってんだよ、さっきから」
マリアがさっきから何やらわけの分からないことを言っているが、エルはそれどころではない。悩んで悩んで悩み抜いて、それでも結論が出なかったから、こうしてマリアを頼ったのだ。
(まったく、どうしてこんなことに。あんなふざけたタイトルの小説を借りてきちまったからか?)
いや、それは因果が逆だ。小説を借りたのは、ルキを拾ったあとのことだ。
「なぁ、聞いてくれ、マリア」
困り果てたエルは、小説のタイトルとまったく同じ言葉を口にした。
「愛する娘の親の仇が俺だったんだが、どうすればいい?」




