8.旧研究区画の亡霊
暗い通路。
足音だけが響く。
カツ。
カツ。
カツ。
「……なんか嫌な感じする」
「そうか?」
「そうか? じゃない」
数秒。
「こういう場所って大体何か出るのよ」
「何がだ」
「なんか」
「なんかとは何だ」
「なんかよ!」
通路の先。
割れたガラス。
開いたままの隔壁。
床には古い書類が散乱していた。
エルザーレは一枚拾い上げる。
『被験者No.23。精神同期率128%。実験失敗。強制終了』
静寂。
「……………………」
「……………………」
「帰る?」
「二回目だぞ」
さらに奥へ進む。
巨大な実験室。
壁には巨大なモニター。
停止している。
だが。
中央には巨大なカプセル。
黒い装甲片。
そして。
『D-ASTRIA試験記録』
「……D?」
アルクノアが眉をひそめる。
「ダーク?」
数秒。
「いや待って。嫌な予感しかしないんだけど」
その時だった。
カラン。
奥で何かが落ちた。
「……!」
静寂。
アルクノアがゆっくり振り向く。
誰もいない。
だが床。
薄く積もった埃の上に——
新しい足跡が続いていた。
静寂。
二人は足跡を見つめていた。
「……新しい」
アルクノアが小さく呟く。
「え?」
「埃の積もり方が違う」
床を指差す。
「ここだけ最近踏まれている」
数秒。
「つまり」
「誰かいる」
静寂。
「帰る?」
「三回目だぞ」
「いや今のは割と本気!」
アルクノアは無言で歩き出した。
「ちょっ、待ちなさい!」
足跡は通路の奥へ続いていた。
割れたガラス。
倒れた機械。
壊れた実験カプセル。
そして壁面には、巨大な爪痕のような傷。
「……なにこれ」
数秒。
「実験事故の痕跡か?」
「実験で壁こうなる!?」
静寂。
さらに進む。
その時だった。
ピッ。
「……?」
エルザーレが足を止める。
微かな電子音。
今の区画では初めて聞く機械音だった。
「聞こえた?」
「ああ」
数秒。
ピッ。
ピッ。
音は奥から聞こえる。
二人は顔を見合わせる。
その先。
半開きの隔壁。
薄暗い部屋。
内部だけ照明が生きていた。
「誰かいる」
アルクノアが小さく呟く。
二人はゆっくり近づく。
そして。
隔壁の向こう。
モニターの光だけが部屋の中を照らしていた。
背を向けたままの人物。
椅子に座り、何かを操作している。
カタ。
カタ。
カタ。
古いキーボードを叩く音だけが静かな空間に響く。
「……………………」
「……………………」
エルザーレは小さくアルクノアを見る。
「……知り合い?」
「いや……」
数秒。
「距離があってよく見えん」
静寂。
その人物は振り向かない。
こちらに気付いていないのか。
それとも——。
「なんか怖いんだけど」
「静かにしろ」
数秒。
二人はゆっくり部屋へ足を踏み入れる。
床。
壁。
周囲には資料が散乱していた。
そしてモニター。
複数の画面が並んでいる。
精神同期波形。
人体構造図。
そして。
『D-ASTRIA 精神転送適合試験』
「……!」
エルザーレが目を見開く。
(精神転送……?)
その時だった。
椅子に座った人物の肩が僅かに動く。
静寂。
ゆっくり。
本当にゆっくりと。
その人物が立ち上がった。
「……!」
アルクノアが目を見開く。
数秒。
「あなたは……!?」




