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劇場版 超機械生命体アストライア 〜火星人と入れ替わりの秘密〜  作者: 獅子王子(元桂ヒナギク)


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9.死亡扱いの兄とエルザーレ様

 静寂。

 立ち上がった人物がゆっくり振り返る。

「……!」

 アルクノアが固まる。

 数秒。

「兄さん……!?」

 男も目を見開いた。

「アルクノア?」

 数秒。

「いや待て」

 静寂。

「お前……その喋り方……」

 アルクノアが顔をしかめる。

「……何だ」

「その顔でその反応。その目。その間の悪さ」

 数秒。

 男は顔を引きつらせた。

「……ペスカトーレ?」

 静寂。

 アルクノアは数秒黙っていた。

 兄を見る。

 そして自分の手を見る。

 白衣。

 知らない顔。

 数秒。

「……………………」

 小さく息を吐く。

「そうだ。中身だけならな」

 静寂。

 男の目が見開かれる。

「……本当に?」

「事故だ」

「精神入替装置の暴走に巻き込まれた」

 数秒。

「今の研究所は地獄だぞ」

 静寂。

「上官が部下になってる。研究員が軍人になってる。私も研究員になった」

 自分の顔を指差す。

「しかもアルクノアだ。最悪だ」

 男は数秒黙っていた。

 モニターの光が顔を照らす。

 そして。

「……そうか」

 小さく笑った。

「お前も巻き込まれたのか」

 数秒。

 アルクノアが眉をひそめる。

「……何?」

「研究所中、大混乱だからな」

 男は肩をすくめた。

「その顔はアルクノア。でも中身はお前だろう?」

 数秒。

「……兄さん」

 アルクノアが僅かに目を見開く。

「やっぱりか」

 男は笑う。

「喋り方でわかった」

 エルザーレは思った。

(いや待ってこの人誰なのよ!?)

「……待って」

 アルクノアが目を細める。

「兄さんがなんでここにいる」

 静寂。

 男は少し視線を逸らした。

「色々あってな」

「色々で済むか」

 即答だった。

 数秒。

「火星軍の記録では、お前は三年前に死亡扱いだ。任務中行方不明。捜索は打ち切りで死亡認定」

 静寂。

 男は頭を掻いた。

「まあ、そうなるだろうな」

「……説明しろ」

 数秒。

「ここで何をしている」

 男は答えない。

 代わりにモニターへ視線を向ける。

 精神同期波形。

 D-ASTRIA精神転送適合試験。

 そして大量の実験データ。

 数秒。

「兄さん」

 アルクノアの声が低くなる。

「なぜ旧研究区画にいる。なぜそんなものを調べている」

 静寂。

 男はしばらく黙っていた。

 やがて。

「……会いたかった人がいてな」

「え?」

 今度はエルザーレが固まった。

「人?」

 男は小さく笑う。

「ああ」

 数秒。

「エルザーレ様だ」

 静寂。

「……………………」

「……………………」

(え?)

(え?)

 アルクノアとエルザーレの思考が同時に止まった。

 数秒。

 アルクノアは無言だった。

 エルザーレも無言だった。

「……は?」

 先に口を開いたのはアルクノアだった。

「今なんと言った」

 男は首を傾げる。

「だから、エルザーレ様だ」

「そうじゃない」

 数秒。

「会いたかった?」

「ああ」

「なんでだ」

 静寂。

 男は少し考えた。

 そして当然のことのように言った。

「好きだからだ」

 静寂。

「……………………」

「……………………」

(え?)

(え?)

 数秒。

 アルクノアがゆっくり顔を押さえる。

「待て。兄さん。一回整理させろ。死亡扱いされていた兄が、危険指定区域で、謎の研究データを集めていて、その理由が恋愛?」

「そうなるな」

「そうなるなじゃない!」

 数秒。

 男は不意に視線を動かした。

 アルクノアの隣。

 そこに立つエルザーレを見る。

 静寂。

「……………………」

 数秒。

「……?」

 エルザーレは首を傾げた。

「なに?」

 男は何も言わない。

 ただ見ている。

 じっと。

 数秒。

(まずい)

 男の背中に冷たいものが走った。

(なんでいる。なんで私がいる)

 目の前。

 エルザーレの身体。

 自分自身。

 だが中身は違う。

 事故。

 精神入替。

 一瞬で理解する。

(……そういうことか)

 数秒。

 男は小さく咳払いした。

「……誰だ?」

「え?」

 エルザーレが固まる。

「私はエルザーレだけど」

「……………………」

 静寂。

「……………………」

(やめろ。今それ以上喋るな)

 アルクノアはエルザーレを見る。

(捜査で集めた証拠は兄さんの捏造だったのか?)

 数秒。

(待て。兄さんは三年前からここにいた)

 精神転送試験。

 D-ASTRIA。

 極秘研究。

 そして。

 エルザーレ。

 静寂。

(……そういうことか)

 アルクノアはゆっくり目を閉じる。

「なるほど」

「え?」

 エルザーレが首を傾げる。

 数秒。

 アルクノアは兄を見た。

「理解した」

「何をだ?」

 静寂。

「兄さん。お前はエルザーレに利用されていたんだな」

 部屋が止まった。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

(は?)

(は?)

(は?)

 三人の思考が綺麗に一致した。

 数秒。

 アルクノアは続ける。

「全て繋がった。地下で極秘研究。死亡偽装。精神転送。エルザーレへの異常な執着」

 数秒。

「兄さんは利用された被害者だったんだ」

 静寂。

 男は固まっていた。

(何を言っている)

 エルザーレも固まっていた。

(何を言っているのこの人)

 アルクノアは続ける。

「兄さん……安心しろ」

「え?」

「お前は被害者だ」

「……………………」

「私は必ずエルザーレを止める」

 静寂。

(いや、私がエルザーレだ)

 と、男は内心思った。


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