10.お前ちょっと黙れ
静寂。
「兄さん……安心しろ」
「私は必ずエルザーレを止める」
数秒。
(いや、私がエルザーレだ)
男は頭を抱えそうになった。
その時だった。
エルザーレが前へ出る。
「……ねえ」
「何だ」
「お前」
数秒。
「ちょっと黙れ」
「は?」
アルクノアが眉をひそめる。
「何を言って——」
言い終わる前だった。
バシッ。
「ぎゃっ!?」
エルザーレの手刀がアルクノアの首筋に叩き込まれる。
静寂。
「……………………」
「……………………」
数秒。
アルクノアは立ったまま止まっていた。
「……え?」
男が固まる。
さらに数秒。
ドサッ。
アルクノアが前へ倒れた。
静寂。
「……………………」
「……………………」
男はゆっくりエルザーレを見た。
「今」
数秒。
「何をした?」
エルザーレは倒れたアルクノアを見下ろした。
「悪いけど、この人いると話が進まないのよ」
静寂。
「……………………」
男は黙っていた。
数秒。
「……その動き」
「え?」
「エルザーレ様直属護衛術だ」
静寂。
(やば)
エルザーレの顔が僅かに引きつる。
「いやその」
「……なるほど」
男は小さく頷いた。
「そういうことか」
「え?」
「事故で人格が混線したんだな」
数秒。
「エルザーレ様を守るための人格。私を警戒したのも納得だ」
静寂。
(何を言ってるのこの人)
エルザーレは固まった。
「……そう。そうだ」
男は真剣だった。
「エルザーレ様は多くの敵を抱えている。だから無意識に防衛本能が出たんだ」
(なんか勝手に納得した!? よくわからないけど乗っとけ!)
「だったら協力して。この事故をなんとかしたい」
静寂。
男は倒れているアルクノアを見下ろした。
「……相変わらず真面目だな」
「兄弟?」
「弟だ」
数秒。
「融通が利かん」
「へえ」
(誰なのか全然知らないけど)
エルザーレは咳払いした。
「それで」
「事故を止める方法は?」
男は少し首を傾げた。
「……聞くのか?」
「え?」
「いや」
数秒。
「お前なら知っているはずだと思った」
静寂。
(まずい)
エルザーレは一瞬固まる。
だがすぐに腕を組んだ。
「確認よ。事故で記憶が曖昧なの」
数秒。
「今の私、色々抜けてるから」
男は黙る。
モニターの光が横顔を照らしていた。
「……そうか」
やがて。
小さく息を吐いた。
「精神入替装置の中枢制御室だ」
「事故の中心にある」
数秒。
「だが、装置は今のままでは動かん。再調整が必要だ」
静寂。
「私一人では無理だ」
男はエルザーレを見る。
「誰だかわからないお前、お前も来い」
数秒。
(よし来た! なんか知らないけど進んだ!)
「私?」
「他に誰がいる」
静寂。
エルザーレは倒れているアルクノアを見た。
アルクノア。
気絶中。
動かない。
「……この人は?」
「置いていく」
「えっ」
「話がややこしくなる」
数秒。
「……否定できない」
(ごめんペスカトーレ)
エルザーレは心の中だけで謝った。
男は端末を操作する。
ピッ。
ピッ。
数秒後。
部屋の奥。
壁だった場所が低い駆動音と共に左右へ開き始めた。
ゴゴゴ……
「……隠し通路?」
「正確には保守用連絡通路だ」
静寂。
暗い下り階段。
さらに地下へ続いている。
数秒。
エルザーレの顔が引きつる。
「……待って。まだ下あるの?」
「ある」
「どこまで?」
男は少し考えた。
「知らん」
「知らんの!?」
(この研究所どうなってんのよ……)




