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劇場版 超機械生命体アストライア 〜火星人と入れ替わりの秘密〜  作者: 獅子王子(元桂ヒナギク)


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11.精神再同期

 暗い通路。

 保守用連絡通路の先。

 壁面の照明は半分以上死んでいた。

 チカ。

 チカ。

 古い非常灯だけが点滅している。

 数秒。

 そして。

 階段。

 下へ。

 ただひたすら下へ続いていた。

「……………………」

「……………………」

 エルザーレは階段を見下ろした。

「……まだ下あるの?」

「ある」

「どこまで?」

「知らん」

「またそれ!?」

 静寂。

 男は先に降り始める。

 コツ。

 コツ。

 コツ。

 エルザーレも続く。

 数秒。

 一階分。

 二階分。

 三階分。

「……ねえ」

「なんだ」

「この施設作った人頭おかしくない?」

「火星政府に言え」

「言えるか!」

 静寂。

 さらに下。

 さらに下。

 やがて。

 壁の様子が変わる。

 古い研究所の金属壁じゃない。

 黒い壁面。

 見たことのない素材。

「……何これ」

 数秒。

 男は足を止めなかった。

「ここから先が本区画だ」

 階段を降り切る。

 その先。

 巨大な空間。

「……え?」

 エルザーレは足を止めた。

 静寂。

 研究所じゃない。

 中央に巨大な円形施設。

 床面に複雑な紋様。

 天井から伸びる無数のケーブル。

 そして中心。

 巨大な柱のような機械。

 内部に青い光が脈打っている。

「……何これ」

 数秒。

 男は小さく言う。

「精神入替装置」

 静寂。

「……………………」

「……………………」

「え?」

 数秒。

「いや待って。研究所の機械ってレベルじゃない」

 男は歩く。

「上の装置は端末だ。本体はここ」

 静寂。

(ええ……)

 巨大ガラスの向こう。

 黒いカプセル。

 中に巨大な黒い影。

 見えそうで見えない。

「……ねえ」

「なんだ」

「あれ」

 数秒。

「あれ何」

 男が止まる。

 静寂。

「見るな」

「え?」

「今はまだだ」

 静寂。

 男は数秒、巨大ガラスの向こうを見ていた。

「……今は気にするな。事故を止める方が先だ」

 そう言って歩き出す。

 エルザーレも慌てて後を追った。

 中央。

 巨大な円形端末。

 床からせり上がる操作卓。

 青い光。

 無数の画面。

『精神同期率異常』

『意識転送エラー』

『接続先不明』

『対象数:不明』

「うわ」

 数秒。

「終わってる」

 男は端末へ手を置いた。

「ここが中枢制御」

「事故発生以降、同期データが崩壊している」

 数秒。

「本来なら全員の精神座標を再計算して戻せば終わる」

「本来なら?」

 静寂。

 男は少し黙る。

「今は誰が誰かわからん」

「……………………」

「……………………」

「そこ重要なところじゃない!?」

 男は平然としていた。

「だから再調整する」

 ピッ。

 モニター起動。

 無数の名前。

 無数の波形。

 そして。

『エルザーレ』

『適合率:99.98%』

 静寂。

(え?)

 エルザーレは固まった。

「なんで私だけ適合率高いの?」

 エルザーレの言葉に男は内心思う。

(当然だ。私の身体だからな)

 だが男は何も言わなかった。

 ただ視線を逸らす。

「……どうしたの?」

「いや」

 数秒。

「事故の影響だろう。精神同期誤差は身体側にも出る」

「へえ」

(なんかそれっぽいこと言った)

 男は操作卓へ手を伸ばした。

 ピッ。

 ピッ。

 ピッ。

 画面が次々切り替わる。

『精神座標補正開始』

『同期波形再解析』

『対象数検索』

 数秒。

 エルザーレは男を見る。

「……慣れてるわね」

「え?」

「操作」

 静寂。

 男の指が一瞬止まった。

「そんな複雑そうなの普通触れないでしょ」

 数秒。

「まあな」

「ここには長くいた」

「へえ」

(怪しい)

 だが今は聞かない。

 聞けば話が長くなる気がした。

 数秒。

 巨大装置の中心。

 青い光が強く脈打ち始める。

 ゴォォォ……

 低い振動。

 床の紋様が光り始めた。

「……動いた?」

「ああ」

 男は画面を見たまま言う。

「再調整完了だ」

 静寂。

 そして。

 中央画面。

『精神再同期準備完了』

『実行待機』

 数秒。

 男はゆっくりスイッチへ手を伸ばした。

「これを押せば終わる」

「終わる?」

「ああ」

 数秒。

「全員。元に戻る」

 静寂。

 エルザーレは巨大装置を見上げた。

(やっと終わる……)

 その瞬間だった。

 男の口元が。

 ほんの僅かに笑った気がした。


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