7.封鎖された地下三十階
会議室を出たエルザーレは大きく伸びをした。
「自由! なんて素晴らしいんだ!」
「違う」
後ろから即座に声。
振り向く。
アルクノアだった。
「監視付きだ」
「ええ……」
数秒。
「言っただろう。全面的に信用したわけじゃない」
アルクノアは腕を組む。
「火星軍中尉ペスカトーレとして、お前を監視する」
「真面目ねえ」
「当然だ」
数秒。
エルザーレは少し考える。
「じゃあ行き先決まった」
「どこだ」
「旧研究区画」
「……何?」
アルクノアの眉が動く。
「さっきから気になってたのよ。精神入替装置に黒い巨人。そして事故のタイミング」
数秒。
「全部、偶然にしては出来すぎてる」
アルクノアは黙る。
「だから調べるの。事故の前に何があったのか、誰が何をしてたのかをね」
数秒。
「そんな情報が残ってそうな場所」
エルザーレは振り返る。
「ない?」
静寂。
アルクノアはしばらく考えていた。
やがて小さく息を吐く。
「……ある」
「え?」
「旧精神同期実験区画」
数秒。
「危険指定区域だ」
「危険指定?」
「数年前に封鎖された」
アルクノアは視線を逸らした。
「精神同期実験中、事故が起きた」
「事故?」
「詳細は機密扱いだ」
数秒。
「だが、被験者が暴走したという噂は聞いた」
「……暴走?」
静寂。
「いやちょっと待って」
エルザーレは顔を引きつらせる。
「その危険区域に今から行くの?」
「言い出したのはお前だ」
「そうだけど!」
数秒。
アルクノアは歩き始めた。
「ついて来い」
「え、ちょっ」
長い通路。
赤い非常灯。
人気のない施設。
やがて二人は研究所の最下層へ降りるエレベーターへ辿り着く。
『警告。下層区域は封鎖中です。許可権限を確認』
アルクノアは研究員カードをかざした。
『アルクノア研究員認証』
数秒。
『権限不足』
「……は?」
静寂。
「え、入れないの?」
アルクノアが眉をひそめる。
「旧精神同期実験区画は機密指定だ。一般研究員権限では足りないらしい」
「一般?」
数秒。
エルザーレは腕を組む。
「研究主任なのに?」
「いや、お前は主任だろう」
「……あ」
静寂。
二人の視線が合う。
数秒。
「出しなさい」
「え?」
「カード」
アルクノアは無言でエルザーレのカードを差し出す。
エルザーレは半信半疑で端末へかざした。
『エルザーレ主任認証。火星政府特別権限確認。最上位アクセス権限』
静寂。
ガコン。
重いロック音。
エレベーターがゆっくり開いた。
「……………………」
「……………………」
数秒。
「お前、何者なんだ?」
(知らんがな)
二人はエレベーターに乗り込む。
ガコン。
低い振動音。
エレベーターがゆっくり下降していく。
数秒の静寂。
「……長くない?」
「地下深部だからな」
数秒。
「どれくらい下?」
「知らん」
「知らんの!?」
数秒。
数字表示が減り続ける。
地下十五階。
地下二十階。
地下三十階。
エルザーレの顔が引きつった。
「待って」
数秒。
「研究所って地下何階まであるのよ」
「私は軍人だ。建築担当じゃない」
「もっと早く言って!」
その時だった。
ピッ。
照明が一瞬消える。
「……!」
数秒。
再び灯る。
だが。
赤かった非常灯が白く変わっていた。
「……着いたの?」
ガコン。
エレベーター停止。
ゆっくり扉が開く。
静寂。
誰もいない。
何も聞こえない。
ただ、暗い通路が奥まで続いていた。
壁面。
天井。
床。
全部古い。
錆。
剥がれた塗装。
割れたガラス。
そして通路の先。
大きな文字。
旧精神同期実験区画
危険区域
関係者以外立入禁止
数秒。
「……………………」
「……………………」
エルザーレはゆっくりアルクノアを見た。
「帰る?」
「今さらか」




