4.入れ替わりの連鎖
アストライアは宇宙服を着た人物を見つめていた。
「……どうする?」
『私に聞くな』
「聞くなと言われても」
目の前には宇宙服姿。
アリスかもしれない。
違うかもしれない。
「近づく?」
『好きにしろ』
「適当だなぁ!」
数秒。
「……よし」
アストライアはゆっくりと立ち上がり、宇宙服の人物に向かって歩き出す。
ドン。
ドン。
アストライアが歩くたび、地面が揺れ動き、砂埃が舞い上がる。
「ちょっ、近い近い!」
アストライアの足元にいる宇宙服の人物が両手で止まるようにジェスチャーをする。
もう少しで踏み潰してしまうような距離だった。
「距離感わからねえ」
『慣れろ』
「……はあ」
アストライアはゆっくりとしゃがみ込む。
宇宙服の人物がこちらを見上げている。
「そこの誰だかわからない人!」
と、宇宙服の人物が声を上げる。
「まず、あなたの名前を聞かせて! 私はヴァルシア星のアリス……地球では高木 恭子と名乗っているわ!」
「高木 恭子……?」
アストライアが自分を指差す。
「そう。だから、あなた自身の本当の名前を聞かせて!」
「アルクノア」
「え?」
「俺の名はアルクノアだ」
宇宙服の人物は首を傾げる。
モニターで見たプロフィールと一致しない。
「待って。私が入ってるこの体の持ち主、エルザーレって名前だったわ。女性の方よ」
「え?」
数秒。
「女性?」
「うん」
「いや、待ってくれ」
アストライアと同期中の精神のアルクノアは混乱する。
「俺の体は? それにエルザーレは?」
数秒の静寂が辺りを包む。
「……あ」
宇宙服の人物が固まる。
「エルザーレはどこよ!?」
「俺の体もどこに行った!?」
宇宙服の人物エルザーレは落ち着きを取り戻してから次の言葉を放った。
「つまり、私たちの他にも入れ替わったものが複数いるというわけね」
エルザーレは考える。
(アルクノアがアストライアと同期してる……。ということは、私の体に入ってるのは十中八九アルクノアで間違いない)
「アルクノア……だっけ。あなた、戦闘の心得は?」
「俺はただの研究員。戦闘は火星軍の担当だ」
「だけど、その火星軍の人たちも別の体に入ってる可能性があるわね」
「なるほど。あり得そうだ」
数秒の沈黙。
「火星終わった」
「ちょっと! なに世界の終わりみたいな絶望に囚われてるのよ!?」
アストライアが頭を抱えている。
「火星軍が巻き込まれてたら終わりだ! 戦闘員の精神が一般市民に入ってたら? 一般市民の精神が戦闘機乗りに入ってたら? 怪獣出たらどうする!」
「だったらあなたが怪獣と戦いなさい」
「俺には無理だ。さっき死にかけた」
アストライアがそう言うと、彼女の脳裏に声が響く。
『案ずるな。超機械生命体に死はない。木っ端微塵にならない限りは』
エルザーレはアストライアに言う。
「あなたの頭でも聞こえるでしょ? その声に従ってればなんとかなるわ」
「その声ってなんだよ?」
「頭に響くようなエコーのかかった声が聞こえるでしょ? その声のことよ」
「え、これ幻聴じゃなかったの? 俺、疲れて幻聴が聞こえてるのかと思ってた」
(やれやれ。先が思いやられるわね)
エルザーレはそう思って頭を抱えた。




