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劇場版 超機械生命体アストライア 〜火星人と入れ替わりの秘密〜  作者: 獅子王子(元桂ヒナギク)


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2.黒き巨人

 赤い双眼が光る。

 次の瞬間。

 黒い巨人が消えた。

「え?」

『上だ!』

 青年が顔を上げる。

 既に黒い巨人は頭上。

 巨大な拳が振り下ろされる。

「うわあああ!」

『避けろ!』

「避けろって言われてもどうやるんだよぉ!?」

 青年は慌てて腕を振り回す。

 その瞬間。

 アストライアの巨体がバランスを崩した。

「うわ!?」

 巨体が横に傾く。

 巨大な拳が鼻先を掠め、轟音と共に火星の大地へ叩きつけられた。

 ズドォォォン!!

 地面が爆発したかのように砂が舞い上がる。

「避けた!?」

『偶然だ』

「偶然かよ!」

 砂嵐の向こう。

 黒い巨人がゆっくりとこちらを振り返る。

 そして。

 赤い双眼がさらに強く輝いた。

『……まずいな』

「な、何が!?」

『今のを避けるとは思っていなかったらしい』

「え?」

 黒い巨人が拳を握り締める。

『次は本気で来るぞ』

「うわあああ!」

『右へ飛べ!』

「だからわからねえって!」

 青年は半ばパニックになりながら腕を振り回した。

 しかし。

 体は動かない。

「え?」

『どうした!?』

「待て……なんでだ!?」

 先ほどの戦闘では動いていた。

 怪獣と戦っていた。

 殴られた。

 避けた。

 走った。

 なのに。

「なんで今は動かねえんだ!?」

 数秒の沈黙。

 脳裏の声が呟く。

『……無我夢中だったからではないか?』

「は?」

『先ほどは生存本能だけで動いていた。だが今は違う。貴様は動かし方を考えている』

「……」

『考えながら歩けと言われて、自分の脚の筋肉を一つ一つ意識するか?』

「いや……しないけど」

『今の貴様はそれをしている。考えれば考えるほど、体は動かん。考えるな』

「無茶言うな!」

 次の瞬間だった。

 黒き巨人の姿が消える。

「え?」

『左だ!』

「どっちだよぉ!」

 反射的に振り向く。

 しかし反応が遅い。

 黒い拳が既に目の前まで迫っていた。

「うわ——」

 ドゴォォォォン!!

 衝撃。

 視界が激しく揺れる。

 アストライアの巨体が吹き飛ばされ、砂丘を何本も削りながら転がっていく。

「ぎゃああああ!」

『だから考えるなと言っただろう』

「今それ言う!?」

 そして、ようやく止まった時には、巨大なクレーターが出来上がっていた。

「ぐ……」

『立て』

「無理だ!」

 青年は体を起こそうとする。

 だが動かない。

 全身が鉛になったようだった。

『……おかしい』

「な、何が」

 青年が顔を上げる。

 黒い巨人がいたはずの方向。

 そこには何もなかった。

「……え?」

 風だけが吹いていた。

 赤い砂が舞う。

 足跡も。

 気配も。

 何もない。

『消えた……?』

 数秒。

 脳裏の声が低く呟く。

『あれは……なんだ』

「知るかよ……」

 数秒。

 赤い砂だけが吹き抜ける。

『だが、あの装置は調べねばならん』

「どうやって?」

 アストライアはクレーターを見る。

「この身体じゃ中に入れないだろ」

『む……』

 その時だった。

 耳に微かな違和感が走る。

「……?」

『どうした』

「いや」

 アストライアは首を傾げた。

「なんか今……」

 遠くから誰かの声が聞こえた気がした。

 風?

 いや違う。

 通信でもない。

 耳の奥に直接響くような。

『……』

 脳裏に響いていた声の主が黙る。

『私にも聞こえる』

「え?」

『これは……アリスか?』

 風に混じって、微かに声が聞こえる。

「——おーい!」

「……?」

 アストライアは周囲を見回した。

「今の……」

『聞こえたか』

「聞こえた」

 再び。

「おーーーい!」

 赤い砂嵐の向こう。

 アストライアの視界の端。

 何か小さなものが手を振っていた。

「……いた」

『アリスだな』

「なんでわかるんだよ」

『アリスであれば私を捜しに来ると思っただけだ』

「それだけかよ。適当だな……」


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