1.入れ替わった世界
「な、なんだこれぇぇぇ!?」
『どうした?』
アストライアは驚いている。
『おい、返事をしないか』
「返事どころじゃない!」
青年は慌てて自分の腕を見回す。
巨大な白銀の腕。
巨大な脚。
そして眼下には、果てしなく広がる火星の大地。
「なんだこの体は!?」
『お前は何を言っているんだ?』
「ていうか、さっきから誰もいないのに声がするんですけどお!?」
『戦いすぎてついに頭がイカれたか』
「イカれてねえよ!」
『かなりおかしいぞ』
「おかしくなんかない!」
『では聞くが……』
脳裏の声が少し間を置き。
『お前は誰だ?』
「……え?」
アストライアは自分が火星の地下にある研究所の研究員であることを説明した。
『なに? それでは体が入れ替わってしまったと』
「ああ」
『ガハハハ。これは傑作だ。まさかアリスが別の人物と入れ替わってしまうとはな』
「笑い事じゃねえ! お前のなんだ? アリス? とかいうやつが来てからこうなってしまったんだぞ! どう責任取ってくれるんだ!?」
『入れ替わりは私の責任ではない。貴様が研究していたものが原因だろう? 大方、目の前のクレーターに埋もれてる装置のようなものがそれじゃないのか?』
「俺はこれからどうすればいいんだよ!」
『装置を直して元に戻るしかないな。そのためには、アリスを捜さねばならん』
「そんな簡単に言わないでくれ」
その時だった。
クレーターの奥。
黒煙の向こうで、赤い光が点滅する。
『む?』
「……?」
煙の中から巨大な影が現れる。
青年は目を凝らした。
「……は?」
赤く光る二つの眼。
黒い装甲。
白銀ではない巨体。
だが、その姿には見覚えがあった。
腕。
脚。
体の構造。
頭部の形。
『……』
アストライアが沈黙する。
「……おい」
『……』
「おい!」
数秒。
脳裏の声が呟いた。
『……なぜ、私がいる』
「な、なんだあれは……」
青年は思わず後ずさろうとして——動きを止めた。
「待て。俺、今後ろに下がったらどうなるんだ?」
『知らん』
「知らんじゃねえ!」
巨大な身体をどう動かせばいいのかもわからない。
腕を上げれば砂嵐が巻き起こる。
一歩動けば地面が揺れる。
人間の感覚とは何もかも違う。
その間にも黒い巨人はゆっくりと前進していた。
ドン。
ドン。
ドン。
足音のたびに砂が舞い上がる。
やがて煙を抜け、その全貌が姿を現した。
「うわ……」
青年は息を呑む。
黒い。
全身が黒い装甲で覆われていた。
しかし、それだけではない。
肩部。
腕部。
脚部。
細部の形状は違うものの、その姿はアストライアと酷似していた。
『……』
脳裏の声が再び黙り込む。
「おい、どうした」
『わからん』
「は?」
『私にもわからん』
数秒の沈黙。
『だが、あれは危険だ』
「なんでわかるんだよ!?」
『本能だ』
「そんな曖昧な理由あるか!」
次の瞬間。
黒い巨人の双眼が赤く輝いた。




