14.マザラス
薄暗い通路。
赤色灯。
鳴り続ける警報。
壁には見たことのない火星文字が並んでいた。
恭子は地下施設の通路を歩いている。
さっきまで巨大化して戦っていたせいか、身体の感覚がまだ少し変だった。
だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
遠くから鈍い爆発音。
恭子は顔を上げる。
「……あっちね」
再び歩き出す。
通路。
角。
曲がる。
壁面表示。
『地下第五研究区画』
『立入権限:政府特級』
「……嫌な予感しかしない」
恭子は奥へ進んだ。
数十メートル。
通路の先。
壁。
破壊。
「……え?」
金属製の隔壁が内側から大きく抉れていた。
周囲には黒い焦げ跡。
そして。
床。
倒れている火星兵。
「!」
恭子は駆け寄った。
「大丈夫!?」
火星兵はうっすら目を開ける。
「……逃げろ」
「え?」
「地下最下層……封印区画へ……」
「封印?」
火星兵の顔が青ざめる。
「止めろ……」
「あいつは……空間転移装置を……」
呼吸。
血。
震える声。
「起動する気だ……」
「……!」
(まさか、地球へ……?)
「最下層だ……急げ……!」
恭子は駆け出した。
通路。
警報。
赤色灯。
角を曲がる。
次の瞬間だった。
ドゴォォォン!!
「きゃっ!?」
爆風。
通路の先の隔壁が吹き飛ぶ。
火花。
煙。
瓦礫。
そして。
ゆっくり。
煙の向こうから、一人の女が歩いてくる。
「……エルザーレ」
違う。
顔は同じ。
でも。
目。
表情。
何かが違う。
「どいて」
「断る」
恭子は構える。
「もう終わりよ。あなたはここで止める」
静かにエルザーレが首を傾げた。
「止める?」
次の瞬間。
「え?」
消えた。
反応。
間に合わない。
真横。
「——」
衝撃。
ドゴォ!!
壁。
激突。
「がっ……!」
肺の空気が全部抜ける。
見えなかった。
レイクローディじゃない。
純粋な身体能力。
ボディガードの技術。
恭子が顔を上げた時には。
エルザーレはもう通路の奥を歩いていた。
「待て……!」
「地球へ帰る」
恭子の意識が朦朧としてくる。
視界が揺れる。
警報。
赤色灯。
全てが遠ざかっていく。
そして、意識を失った。
眼を覚ます恭子。
一体どのくらい眠っていたのだろう。
(早く追わないと)
恭子は立ち上がる。
身体が痛む。
だが今はそんな場合じゃない。
恭子は通路を駆け出した。
角を曲がる。
その先。
巨大な空間。
リング状の装置。
焦げ跡。
破壊された機械。
「止まりなさい!」
「!」
銃口。
火星軍。
先頭に立っていた女が、恭子を見て眉をひそめた。
「……誰?」
「え?」
恭子は固まる。
「ペスカトーレ!?」
軍服の女は少し目を見開く。
「どうして私の名前を?」
「いや今それどころじゃない!」
恭子は奥を指差した。
「エルザーレは!?」
ペスカトーレの表情が変わる。
後方。
巨大なリング。
歪む空間。
「……遅かった」
「え?」
「転移した」
「どこへ?」
ペスカトーレは短く答えた。
「マザラス」
「……!」
恭子の表情が変わる。
「地球!?」
恭子は歪む空間へと突っ込み、エルザーレの後を追った。




