伯爵邸での新しい仕事③
読んでいただいてありがとうございます。『次女』と『美しくて儚い恋』の加筆が終わりましたー。更新がんばります。でも、ちょっとシリアス先生がチラミしながら、『苦い恋』は?って言ってる気がします……。
一通り屋敷内を案内すると、イラーリオとカメーリアは応接室で休憩した。
実家がここのイラーリオと違って、カメーリアは王都からの引っ越しだ。
新しい部屋に家具は揃っているが、これから荷物を整理整頓して足りない物は買って、という作業が待っている。特にここは山が近いので、冬の防寒具などは王都仕様の物よりももっと厚手の物が必要になる。
「カメーリア、疲れただろう?」
温かい紅茶を飲みながら、イラーリオがにこやかに微笑んで言った。
「王都の周辺しか行ったことがなかったので最初は少し不安でしたが、思ったより遠くはありませんでした。それに、道中は見たことがない物や景色ばかりでしたので、楽しかったですよ」
「そうか、それはよかった。俺には慣れた道だけど、カメーリアは初めて行く道になるのか」
「はい。ですから、楽しかったです。他の都市に来たのも初めてなんです。今まで王都しか知らなかったので、これからの生活が楽しみなんですよ」
嬉しそうなカメーリアは、無理をしているようには見えない。
それだけでも、本当にそう思ってくれているのが分かる。
「荷物の片付けもあるだろうし、個人的にはこれから住む街を見てほしいという気持ちもある。そうだな、十日ほどゆっくりしてくれ」
「いいのですか?」
「あぁ、王宮の侍女長からも無理はさせないように、と釘を刺されたからな」
若い頃、国王ファウストと一緒に侍女長からの事情聴取という名目のお叱りを何度も受けたことがあるイラーリオは、王宮侍女長は逆らってはいけない人物だと認識していた。
ファウストは優秀な国王だ。
そんな国王に説教が出来る数少ない人物に、イラーリオも逆らう気は起きない。
そんな彼女の下からカメーリアを引き抜いた時、イラーリオは怒られる覚悟をした。
だが侍女長は、カメーリアを笑顔で送り出してくれた。
隣でファウストが胃の辺りを押さえていたので、よく効くと評判の胃薬を贈っておこう。
「誰か付けるから、街を見てくるといいよ。それに、温泉施設にも案内するように言っておくから」
「はッ!温泉!」
カメーリアの目がキラリと光った。
温泉入りたい放題という誘い文句を思い出したらしい。
ジェントーレ伯爵家で仕事をしている人間は、基本的に温泉施設は無料で利用出来る。
なので、休日に利用している人間は多い。
実は、密かに何とか屋敷に温泉が引けないかどうか確認している最中だ。
イラーリオも温泉が好きなので頻繁に入りに行きたいが、行くと気を遣われるのでゆっくり出来ない。
なので、何とか家で入れるようにしたい。
出来たら使用人にも開放するつもりなので、毎晩温泉に入れるという美味しい特典が付くことになる。
そうなると、ちょっと掃除は大変かもしれないが、反対する者はいないだろう。
とはいえ、まだまだ最初の計画段階なので今は言えない。言ったのに無理でした、となるとがっかり感も倍増するだろうから。
「王都からちょっと行ったところにある侍女長お薦めの温泉に行ったことがあるのですが、温泉に入った後の肌のもちもちつるつる感が忘れられなくて……!また行きたいと思ってたのですが、ちょっと忙しくて行けなかったんです。でも、ここなら、気軽に行けるんですね」
「好きなだけ行くといいよ。うちの温泉も、肌がもちもちつるつるになるって評判なんだ。休みの間に行って、旅の疲れをゆっくり癒してくるといい」
「はい!ありがとうございます」
あまりに嬉しそうなカメーリアを見て、無事に屋敷内に温泉を引けたら、お疲れ気味の国王と侍女長も招待しようかな、とイラーリオは考えたのだった。




