伯爵邸での新しい仕事③
支給された真新しい制服を着たカメーリアは、注意深く己の姿を確認した。
服装の乱れは仕事の乱れにも繋がる、常に誰かに見られていると思いなさい。
王宮侍侍女長のその教えは、しっかりとカメーリアの中に根付いている。
特に王宮は、自国の人間だけでなく諸外国の人に値踏みされていると思いなさい、と言われていた。
ここは王宮ではないけれど、伯爵邸には他の領地から来ている人もいる。
そういう意味では王宮とそう変わりはない。
カメーリアは、いつも通りゆっくりと深呼吸をした。
「よし!」
これで仕事モードに入った。
今日からカメーリアは、ジェントーレ伯爵家の侍女。
昨日までに、これから直接関わることになる人たちに挨拶はしたが、伯爵家で仕事をしている人たちは多く、全員には挨拶出来ていない。
「カメーリア、用意は出来た?」
「はい」
隣の部屋に住んでいる一つ年上の同僚が、カメーリアに声をかけてくれた。
当初、イラーリオはもっといい部屋を用意しようとしてくれていたのだが、固辞したのはカメーリアの方だ。
わざわざ王宮から引き抜いてきた侍女に他の使用人と同じ部屋は与えられない、と主張するイラーリオと、浮くので他の方々と同じでいいです、と断るカメーリアの攻防は、カメーリアにこの屋敷の侍女長が味方に付いたことで決着した。
ただし、本来なら新人は相部屋なのだが、一人部屋にすることだけはイラーリオが引かなかった。
カメーリアもそれはありがたかったので、素直に受け入れた。
おかげで昨日もぐっすり眠れた。
「疲れてない?」
「大丈夫ですよ、フィアナさん」
フィアナはカメーリアに温泉施設などを案内してくれた侍女だった。
そのせいか、気軽に接してくれている。
「むしろ仕事に就いてからこんなに長く休みをもらったのは初めてのことだったので、今は早く仕事がしたいです」
「王宮って忙しそうだものね。陛下主催の晩餐会とかの準備は大変そうね」
「大変ですよ。外の国の方もいらっしゃいますから、いつも以上に気を遣います。国によって習慣もマナーが違うので、晩餐会の前には事細かく注意事項を伝えられます」
「そうね。習慣やマナーの違いは問題になりやすいものね」
「はい。分かりやすいのはまだいいんです。たとえば赤色がある国では神聖な色だから使わない、とかは分かりやすいですから。外の国の方も自分の国ではないので、こちらが気を遣っているのが分かればそこまで文句は言われません。ですが、ちょっとした言葉や仕草などが侮辱に当たることもありますので、給仕係になると、必ず全体ミーティングをやっていました」
外交官などの他国に詳しい役人が来て、その国について細かく教えてくれた。
おかげでカメーリアの頭の中には、他国の観光名所よりも先に習慣やマナーの方が刻み込まれた。
普段は他の知識の中に埋もれていても、国名を聞いただけでその知識が頭の中に浮かんでくるので、ちょっとした会話の切っ掛けになっていた。
「ここも最近では他国の方がいらっしゃることがあるのよ。そういう時は、カメーリアを頼るしかなさそうね」
「分かる範囲でがんばります」
「もしもの場合は、皆で仲良く図書室にでも籠もりましょうね」
うふふふふ、とフィアナは軽やかに笑ったのだった。




